逆ハーマジ勘弁にかかわる物語。~残念ながらリロイは今日もシスコンです。~
残念ですが、婚約は解消いたしました。またのご縁は金輪際ございません。
『お前嫉妬と怒りに心が奪われたとしても、私の一言は肝に命じとけ。な?』
からつながる物語。
「エレクトラよ。
お前婚約解消されたときいたが本当か?」
私の名はエレクトラ。
四大公爵が一角を担うグルモワール家の三女。
ついこの間までこの国の王太子殿下の婚約者でもありました。
王太子殿下はついこの間までは非の打ち所がないほど優秀な王子でしたが、恋に迷い道を踏み外しました。
リリカ様という王弟殿下の庶子のお子様に愛を囁くまでならまだしも、あまつさえ生徒会の仕事放棄。
しかもリリカ様は両手で数えるぐらいの殿方から同時に愛をささやかれ、それを受け止めて、貢がれて喜んでおります。
かつて私も恋をしておりましたが、それも覚めようというもの。
先日ようやく王子に婚約解消を申し出させる事に成功しましたの。
「ええ、お兄様。
私、人をかえりみず、その功績も見ず、邪魔者としかみない方を支え、子をなすなどできるとお思いですか?
結婚しても形だけの后となれと、不幸になれとおっしゃるの?」
「そうはいっておらん…
だがなぁ、エレクトラ…お前はすでに外交に欠かせない担い手になっている。
お前の穴を、その王弟殿下の娘は埋められるのか?」
色々と思うこともあった様子のお兄様は静かに問い掛けてきます。
私、幼い頃に婚約者となって以来、地獄の后修行をこなしてきました。
その一貫で、外国の方のお相手をしたり、訪問したりと忙しい学園の合間を縫ってこなしておりましたの。
私独自の繋がりやネットワークもありましてよ。
そんな大役、リリカ様には務まりません。
王政を掲げたり身分制度のある国ばかりなのに『みんな平等!仲良くしましょ!』などお花畑発言をされれば大変なことになるでしょう。
「麗しい方ですが、おつむは残念ですので無理でしょうね。
ですが、心配には及びませんわ。私、学園を卒業したら外交官になりますわ。」
「は……?」
「諸外国を見てごらんなさいな、お兄様。
女性も政の世界で活躍されています。隣の国では女領主や爵位持ちがたくさんおりますわ。
私、今回の騒動で思いましたの。男ばかりではいけません。男も女も関係なく優秀な者を掬い上げなくては!」
「しかしなぁ…」
「お兄様も…お兄様のご友人も大きな魚を逃がしたことをお忘れですか?
私、知っておりますのよ?」
お兄様が黙ります。
先日お会いしたリロイ様の姉君様は私に昔、『なんにだってなれる』と言ってくださった方でした。
リロイ様とは、その髪色と瞳の色以外は似ていませんでした。
その美貌で有名なリロイ様の家族には似ていない、普通の方でした。
可愛らしい方なのは間違いないですが、リロイ様と並ぶと正直霞みます。
夫君もリロイ様に劣らない美形なので二人に挟まれると不思議な構図でしたわ。
ご本人はモブ顔なんですいません、と言ってましたかモブ顔ってなんでしょうか…?
なんで似てないのか気になって調べてみると、成る程と納得でしたわ。
「ウォルクラウンの英雄と女性文官として輝かしい功績を残した方の娘様でしたわね。
リロイ様の姉君…いいえ従姉様と在学中同じ生徒会でいらしたのでしょう。
大変有能で、将来は王を共に支えようと思ってらした…
お兄様のご友人は想いを向けていたのではなくて?
少しでも繋がりを持ちたくて妹君とリロイ様を婚約させる気でいた。
しかしウォルクラウン家が彼女に絶縁を突き付けた事でその婚約は無かったことにされた。
リロイ様に婚約者がいないのは政治で力を持つご友人に睨まれたくないから…」
「宰相殿は彼女のことはもう整理がついているよ。
今は奥方を大切にしている。
…なんというか、あいつはきっぱりふられてる。全ては終わったことだよ。」
不思議でならなかったのです。
リロイ様は四つしかない公爵家の跡取りにもかかわらず婚約者がおりません。
ウォルクラウン家がいかに現在存在感がないとはいえ外国では名の通った有名な家。
彼の妻の地位は外交カードとしては優秀です。
ウォルクラウン家が外国で有名なのにはわけがあります。
二十年以上前、内乱の果てに平定した国で各国要人を招いた式典が行われました。
我が国からは当時王太子であった現国王と王弟殿下が招かれ、その式典の最中追放された残党が襲撃してきたのです。
式典で各国の要人を殺害すればその国が咎を受け攻め滅ぼされる事を狙っての犯行でした。
要人たちは武人の心得はあるものは居ても戦事とは遠い所に置かれていた者達がほとんど。
護衛達も次々と倒されていき、すわ大惨劇かと思われたなか、鬼神のごとき強さで残党を切り伏せ、その命と引き換えに守り抜いた一人の武人がいました。
それがウォルクラウンの英雄。
彼の葬儀は国葬となり、家督は弟夫妻に譲られ、その娘であるリロイ様の姉君は二人に引き取られました。
それ以降のウォルクラウン家の話は出なくなりました。
弟夫妻…現ウォルクラウン家夫妻はそこそこ優秀でしたが公爵家としてみれば、いまいち。
先代夫妻の名声と功績との落差に、存在感が霞みます。
顔だけは、優秀。と陰で囁かれてもいます。
「お兄様、私の願い事聞いてくれません?」
旧友達の事に思いを馳せていたお兄様ににっこり微笑んで私は言います。
「お願いにもよるな。
というか無理矢理にでも叶える気だな?
エレクトラ。」
おかしそうにお兄様が言います。
私、自分の幸せと、恩返し、更に親しい方の幸せを叶える方法を思い付きました。
色々と骨の折れる思いもしますが、平気です。
私はなんだってやり遂げられる力を持っていますもの。
この国の優秀な后にだってなれる実力者ですから。
「私、リロイ・ウォルクラウンの妻になりたいと思いますの。
協力してくれるでしょう?お兄様。」
今は夢うつつの王太子殿下、いつか逃がした魚の大きさに後悔なさっても遅いのですわ。
貴方がいつか夢から醒めても、もう一度婚約など結ぶなど金輪際ございません。
いつか王となった貴方様が愚王となっても、国を守りきってみせましょう。
ですから、リロイ様…
覚悟なさってね。
私、もう取り逃がしたりはしませんわ。
ああ、その前に彼の従者に挨拶せねばなりませんね。
これからを思うと楽しくて仕方ありませんわ。
ふふふふふ。
従者は姑と小姑が合体した並みに強敵ですが、味方になればこれ以上頼もしい外堀埋め立て役はいないという。
リロイ君はシスコンですが、ガチでお姉様を嫁にするタイプの人間ではありません。
姉上のような人がタイプのと言い切りますが、おっきくなったらママ・先生等をお嫁さんにする~という幼児の心境のような愛。
家族愛です。