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今日は家族でクリスマスパーティーだった。しっかりケーキが用意されていた。
「メリークリスマス」
いつも通り明るい姉の声が響く。
チキンを食べジュースを飲む。
挙げ句の果てにはサンタのコスプレをした姉まで出てきた。ほんと、なんでもかんでもよくやる姉だ。僕は自然と笑みがもれる。
「裕太ー。本当はクリスマスはお姉ちゃんとデートする予定だったんだからね。お正月は遊びまくるよ。覚悟しときなさい」
そんな冗談も嬉しかった。そしてとてもかわいかった。
それから僕は姉とたくさん遊んだ。映画にも行ったし、ゲームもした。
そして今日は一年最後の日、大晦日だった。
「裕太ー。誰からか知らないけどメールきてたよっ」
姉がニヤニヤと笑っている。明らかに怪しい笑顔だった。
僕はケータイを開く。すでにメールは開かれていた。なにが、誰からか知らないけどだよ。しっかり見てるじゃないか。
メールは由梨からだった。
本文
明日初詣行きませんか? できれば2人で。
姉の方を見た。少し顔が赤くなっていたかもしれない。
「あっ、そうそう。間違って返信しちゃったー。ごめんね〜」
姉は飄々とそう言い、口笛を吹く。
僕は急いで送信ボックスを見た。
To由梨
僕も2人で行きたいよ。
「なっ! 」
僕は一瞬言葉に詰まった。
そうてもう一度大声で言い直す。
「なにやってんだよ。バカ姉ちゃん!!」
僕の声が部屋中に響き渡った。
次の日、元旦、僕は姉に服を用意され、出かける。待ち合わせはするまでもない。僕は由梨の家のインターホンを押そうとしたそのとき
「中山裕太さん」
少し気だるげで無機質な声に呼び止められた。
振り向くとそこには黒のワゴン車が止まっていた。
「僕……ですか? 」
おじいさんと呼ぶにはまだ若い男にそう聞き返した。
「はい、裕太さん。あなたです。少しお話ししたいことがあるのでこちらへ来てもらえますか」
ゆっくりとした丁寧な口調だった。
あちこちでカラスがないている。
冷たい北風で枯葉がカラカラと音を立てながら舞う。
「はい」
気がつくと僕はそう返事していた。
車の中へと案内される。自動でドアが開き後部座席に腰を掛ける。
そして男が運転席に座りハンドルを握ると、車が動き出した。すごいスピードで走り出す。目の前は川だ。
えっ、どういうこと。落ちる、そう思い目をぎゅっと閉じる。そして衝撃がないことを確認しそろっと開いた目にとびこんできたのは見たことのない、言葉では言い尽くせない世界だった。
「ここは……」
僕は異様な光景に唖然とする。
「ここは運命の部屋です。今から少々難しい話をしますが、お聞きください」
そこから男の長い説明が始まった。
「世界、いや運命といいましょうか。運命はたくさんの可能性に秘められています。そしてそれぞれの人はそれぞれの運命をたどる。そしてその一本の線から外れることはできない。すべて定められたことなのです。平たく言うと、あなたがこれからどうなっていくのかはすでに決まってるということ。多少、過程の違いはあれど行きつく先は同じ。あなたがたはそういう世界で生きている。」
いきなりこんなことを言われてもわけがわからない。
この男は何が言いたいのだろう。
質問したいことは山ほどあったが話の続きを促す。
「そしてあなたがたの運命をつくっているのがこの植物、運命の植物と呼ばれています。そちらにたくさんあるものがそれです。この植物が作った道をあなたがたは通る。そして運命のいたずらといいましょうか。稀に運命の植物同士が絡み合い吸収することもあるのです。その場合、ふたつの植物同士で調整が行われひとつの運命を作り出す。そのとき、人の記憶も調整が行われ、人々は何も感じずに今まで通り生活することができます。しかし、その調整がうまくいかないと、植物はうまくひとつになれない。こんなことが起こったのは初めてなんですが、そういうことも起こりうる」
そしてそこで少しためをつくる。
「私の言いたいことがもうおわかりなのではないでしょうか」
僕は黙っていた。
いや、黙っていたというより声が出なかった。
そう気付いたのだ。
男の説明した真実に。
男は植物を指差し、話を続ける。
「そこにあるふたつの植物が絡み合いました。そして今もなお、ぐちゃぐちゃに絡まっている。その原因は……」
「……僕の……僕の記憶がうまく調整されなかったこと……なんですね」
「そういうことです。左側の植物があなたの元いた運命。そして右側があなたのお姉さん、晴美さんが生まれた運命。そしてそのふたつの植物が今にも壊れようとしています」
男は自分の手を見てそれから植物へと視線を移す。
「私も出来る限りの手は尽くしたんですけどね。こんなこと今更言われてもと思うかもしれませんが裕太さんには大変迷惑をおかけしました。薬を使ってどうにか植物をひとつにしようとしたんですが、結果は失敗。取り返しのないことになってしまいました。裕太さんの記憶が断片的に改変され、心ももたなくなってしまうほどおかしくなっていたかもしれません。さらにそのせいでもとの記憶と違うもの全てに拒否反応を示すようになりました。脳のせめてもの対抗でしょう。なんとかしてもとの形を守ろうとした。そんな中救いだったのが大輔さんです。大輔さんはどちらの運命でも裕太さんの親友としてあなたのそばにいました。その唯一の存在があなたを正常に保たせた。しかしそれももう今終わります。あなたには果たしてもらわなければいけない役割があります」
「それで、僕にどうしろと」
僕は恐怖でいっぱいだった。運命が壊れる……。
「非常に酷な話ですが、あなたにはどちらかの植物を切っていただかないといけません。そうすることだけが唯一のこの問題の解決法です。そして切られた運命はなかったことになります」
「姉がいなかったことに……。もしくは僕がいなかったことに……。そんなの選べない」
「普通はそうですよね。それが当たり前です。しかしあなたには実行してもらわないと困るのです。植物が絡み合ったまま壊れるとき、非常に強力な爆発が生じ、すべてのものを消し去ります。言葉通りすべてです。他の運命も同時に壊されてしまい、運命自体が存在しなかったことになります。おわかりいただけましたか」
こんな説明でわかるわけなどなかった。全く信じられない。
しかし、もしかすると僕1人の判断ですべてがなくなってしまうかもしれないのだ。
「少しだけ時間をください」
僕は考えた。どうするべきか。おそらく答えなんてない。答えの存在しない問いに答えるのは非常に難しい。それでも考え続けた。
姉がいなくなるのは嫌だ。でも僕も消えたくない。何かいい方法はないのだろうか。
お母さんを思い出す。姉がいた運命のお母さんはとても楽しそうだった。大輔も由梨も思い出す。
それなら……それならいっそ……。
「決めました……」
「そうですか。それはありがとうございます」
男は気だるげな口調ではあるが感謝を述べた。
「それではどうぞ」
僕に少し大きめのハサミが手渡される。
手が震える。
それでも気力を振り絞り植物へと手を伸ばした。
パチッ、とうとう切った。
切ったのは姉のいた運命だった。
「そうですか。そちらを切りましたか。これであなたの役目は終わりです。それでは元の運命に……」
近づいてくる男を無視して、僕はもう一度手を伸ばした。
そして、パチッ、もうひとつの運命も切り落とした。僕の元いた運命だ。
「えっ、なぜ」
無機質だった男の声に初めて人間らしさを聞いた気がした。
こうして僕の運命は崩れていく。
僕はすべてを運命のきまぐれに託すことにした。
だんだんと目の前が真っ暗になっていった。
「裕太、朝だよ」
「はーい」
僕は元気に返事をし、階段を降りるとそこには、母と姉と、それから父も朝食の準備をして待っていた。
ふたつの運命が崩れ去り新たな運命を辿り始めたことを僕は知らない。




