幕間 sideレオナルド 前編
フェルナンドのデートのお相手である『叔父』視点のお話です。
前編と後編の2話になります。
「2000万、これでどう!」
そう叫ぶ声に、オークション会場の観客達が唸った。
自然と全員の視線が、もう一人の主役である俺に集まるのを感じる。
思わず漏れそうになる笑い声を飲み込んだ。
あまりの計画通りの展開に、愉快で堪らない。
しかし、ここらが潮時だ。
さあ、お嬢さん、お遊びの時間は終わりだ。
しんと静まる、空気の中、皆に聞こえるように声を張って告げた。
「3000万だ」
その『券』は、レオナルド=ダーランド、俺がいただく。
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「くくくく」
「また、くだらないことでも思いついたんですか、レオナルド総団長?」
手渡された書類に目を通している最中に笑った俺を、目の前に立つ副官のレイが胡散臭げな顔で見ていた。
「いやぁ、フェルのヤツ、愉快すぎると思ってな」
くくくと、また笑う。
「あんまり、甥っ子を苛め過ぎると、いつかしっぺ返しをくらいますよ」
「ああ?俺に反撃してみろ、10倍返しにして泣かせてやる」
「フェルナンド第二団長も、嫌な叔父を持って可愛そうに」
決済印を書類に押し、レイに手渡す。
「親族の中で、俺が一番『可愛がって』やってるぞ?」
「『苛めて』の間違いでしょう」
俺は、ニヤリと笑った。
「可愛くなきゃ、3000万ペンドもださねぇよ」
レイは右眉だけを器用にあげて、俺に似た笑みを浮かべた。
「ローザリア借金返済大作戦、ですか」
「そういうことだ」
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フェルナンド=ダーランドの叔父にして、上司である俺は、王立騎士団のトップを勤めている。
アイツが初恋を拗らせた相手に、こそこそ動いているのを知った俺は、想い人である『ローザリア=マーティン』のことを部下に調べさせ、判明した事実に、どうしたものかと頭を悩ませた。
「借金かぁ」
「はい、4000万ペンドあるようです」
目の前の報告書には、彼女の人柄や家族構成、勤務状況などざっくりと書かれていた。
別に、これによってダーランドには相応しくないとか、そんな茶々を入れるためのものではない。
いかにして、調べたネタを肴にしてフェルナンドを苛めてやろうかと思っての調査であり、わくわくして待っていたところに出てきた話に思いがけず声を唸らせた。
金が絡む話は、大概、面倒臭くなるからだ。
どうやらローザリアという少女は、至極普通で性格に難などはなさそうだ。
姪のキャロルと同じ職場で働いており、少し気難しいキャロル自身も彼女を可愛がっているほどだ。
だが、3ヶ月前蒸発した親父が残した借金を抱えていた。
踏まれてもへこたれない、しつこいフェルナンドのことだ。
今は彼女に接触すらしていない状態だが、いずれ必ずものにするに違いない。
つまりは、俺の家族になる人物だ。
ここで、借金返済を働きかけて彼女の大きな信頼を得て、それを知ったフェルナンドに苦虫を噛んだ顔させるのも面白い。
が、その金額は、ただ単純にフェルナンドへの苛めに使う額にしては大きすぎた。
貸付元の貴族に圧力を掛けて、返済期限をのばすか?
いや、そこからどうやって愉快な展開にさせる?
俺が借金を肩代わりしてやり、彼女のパトロンとして親しげにアイツに見せ付けてやるとか。
そうなると、彼女が俺に負い目を負ってしまうか。
面倒くせぇから、さっさと2人をくっつけて、フェルナンドが借金してやるのは・・・愉快じゃねぁなあ。
頭をガシガシと掻く俺に、レイがそういえばと口にした。
「城下町の店舗を仕切る会長から、2ヶ月後の騎士団主催の祭りについて、相談が上がっています」
「どんな話しだ?」
「祭りでくじ引きを催したいそうです。なんでも、販売促進のため一定額の購入者にくじを渡し、祭りで引いてもらうとか。景品は店舗側でも用意しますが、騎士団でも何か出して欲しいとのことです」
「へぇ、いいんじゃないか?」
「それでは、受諾の方向で話を進めます。騎士団側の景品は、見繕って後日ご報告いたします」
用事は済んだのか、退出の意を示すため頭を下げたレイに話しかける。
「そうだ、金が勿体ねぇから、景品は『フェルナンドとのデート券』とかどうだ?!」
「・・・あながち、悪い案ではないですね」
俺の提案に珍しくレイが賛同した。
「フェルナンド第二団長であれば、そこらのちゃちな景品よりよっぽど、目玉になるかと思います」
「あいつ無駄にもてるからな」
「部下達の話だと、初恋の相手に夢中で、接触してくる他の女性は無下にしているようですね」
何だその愉快な話は。
いい年したダーランドの男のくせに、女の噂がねぇなと思っていたら、そんなことになっていたのか。
「あ?待てよ。アイツそんなに、女と遊んでねぇのか?」
「真相はわかりませんが、恐らくその様かと」
へぇ、・・・いいこと思いついた。
ニヤリと笑った俺をみて、レイが嫌そうに眉を顰める。
「苛めるのも程ほどにしてあげてくださいね」
俺はまだ何も言っていないのに、レイはそう言って哀れみの表情を浮かべた。