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6 sideフェルナンド②

「これが、ヤルデルという植物で、鎮痛剤になるのですよ」


俺たちは2人がけの石の椅子に座り、彼女の話を聞いていた。

心から楽しそうに話す彼女の表情に、俺の顔にも自然と笑みが浮かぶ。


また、普段擦り寄ってくる令嬢達のおしゃべりとは、全く違う内容を話す彼女にも好感を感じていた。


「色々あって、面白いもんだな。これだって、ただの雑草かとおもった」

「何も知らない人が見れば、ただの雑草かもしれませんが、見るべき人が見て、正しい使い方をすれば立派な薬になるんです。母の受け売りです」


彼女は誇らしげに笑う。


「そういえば、貴方は」

「フェルナンドだ」

「フェルナンド様は、どうしてここに?中は、みんな綺麗で、美味しい料理も飲み物もあるのに」

「君だって、美味しい料理に見向きもしないで、庭に出てきたんだろ?」


小さな少女に、嫌になって出てきたなんて格好悪いことは言いたくなくて、俺は誤魔化すように返した。

すると、それもそうですねと、彼女は笑った。


椅子に座っている俺と彼女の間には、先ほど彼女が摘んだ、草が何種類か置かれていた。

先ほど、彼女が説明してくれたヤルデルという植物を摘む。


細い茎についた丸い葉に隠れるように、青紫の小さな花がひっそり咲いていた。


何処にでも生えている草が、俺たちを支えている。


「なのに俺は、」


思わず呟いた言葉に、しまったと口をつぐんだ。

胸の中の思いが、口に出てしまったっていた。


彼女は首を傾げる。

2人の間に落ちる沈黙が、話の続きを促しているようだった。


どさりと椅子の背に持たれかかり、手にするヤルデルを高く持ち上げた。

そして、別に彼女に聞かせるわけではなくて、独り言のような感じで話しだした。


「俺は、少し見目が綺麗なだけの、ただの雑草なのに、立派な花瓶に飾られてしまったから、みんなが綺麗だとか何とか寄って集って褒め千切るんだ。何の力も無いくせに、みんな俺を欲しがる」


口にしてみた言葉は、思った以上に自嘲ぎみで、とても情けないものだった。


気まず過ぎて、目線の先で月の光を受ける植物をただ見つめる。

だから、「では、」と話し始めた彼女も見れないでいた。


「フェルナンド様は、まだ成長途中なんですね」


続いた彼女の言葉に驚き、顔を見れば、にこやかに俺を見ていた。


「そのヤルデルは、種や若葉の時に調合しても何の効き目も無いんです。春を超え、夏が過ぎ、花を咲かせると、なぜか、効能が現れるんです」


彼女の手が、膝に乗せていた俺の手に触れる。


「ご自分のことを何の力も無いと、おっしゃいましたけど、フェルナンド様の力を見出す人がいらっしゃならいか、まだ、成長途中で、将来きっと豪華な花瓶に負けないくらいの素敵な方に変わるんですよ」


初めて、だった。


兄達と習う剣は、いまいち上達しないし、勉強だって得意ではなかった。


だから、誇れるものなどなく、何かといえば俺の嫌いなダーランド家としての俺や、上っ面の人より綺麗な容姿だけが褒められることが悔しかった。


でも、そんな俺を、俺自身を肯定してくれた人は初めてだった。

しかも、明るい未来があるんだと教えてくれた。


俺はあふれた涙が零れ落ちそうになり、やっぱり格好悪い姿を見せたくなくて、彼女を抱き寄せて誤魔化した。

彼女は、俺の腕の中で大人しく抱かれていてくれた。


暫く時間が過ぎ、背中を抱く手を、彼女の首筋から後頭部に這わせたとき、指先をちくりと痛みが刺した。


「つっ」


思わず出した声に、彼女が俺の胸を押し、顔を見上げる。

俺は、痛みを感じた指先の確認すると、小さな血の塊が出来ていた。


彼女は自ら後頭部を触ると、顔を青くさせた。

おそらく、髪に散らばる薔薇に棘が残っていたのだろう。


「申し訳ありません!棘のせいで」


そういうと、彼女は、俺の手を取ると、血の塊がある指先を自分の口に含んだ。


小さな唇が俺の指を咥え、ちろちろと舌が何度も、指を這う。

そして、心配そうに、上目遣いに俺を見上げる目。


ゾクゾクと今まで、感じたことがない感覚が体を廻る。

顔が熱くなり、続いて、ドクリと腰が熱を持つ。


(やばい)

焦る気持ちとは裏腹に、彼女から手を振り払えないほど体は固まり、治療行為を浅ましくも痴態に感じる光景から視線も外せない。


しかし、時を待たずして、指先は彼女の口から音を立てて離れ、手元に置いていた草を一つ摘むと、俺の指に擦りつけた。


「止血の成分を含んでいるので、これで大丈夫だと思います」


彼女は微笑んだ。

指先の血はもう止まっていたが、心臓はどくどくと波打ち、『俺自身』が大丈夫ではなかった。


遠くで、女性がローザリアの名を呼んだ。


彼女は振り返ると、行かなくちゃといって、立ち去ろうする腕を掴む。


「名前を」

俺が言えたのは、それだけだった。


「ローザリアです。ローザリア=マーティン」


彼女はそう告げて、走り去っていった。

俺は、ただ立ち尽くすしかなかった。

フェルナンドの冒険②

*****************

◆ローザリアは、フェルナンドの指を口に含んだ!

◆こうかはばつぐんだ!

◆フェルナンドは、しゃがみこんで震えている!

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