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池の端に建てられている東屋の円卓に向かい合わせで、フェルナンド様と私が座っている。

席についてから、言葉も無く、お互いを伺う時間が過ぎていく。


池の魚が跳ねたのか、ぱしゃりと高い水音が響いた。


今更ながら、フェルナンド様と私は、今回の騒動までほぼ面識はない。


有名なフェルナンド様のことは、幼い頃から存在だけは知っていた。

ダーランド家の嫡男ということで、私のような貧乏貴族がお近づきになれるわけもないし、昔一度だけ参加した貴族のパーティーで、軽く会話を交わした程度だ。


こんな状態を面識あるとは呼べない。


研究室で働くようになってからは、先輩兼フェルナンド様の妹のキャロルがやたらと、お兄様がね、と私に色々吹き込んでくれているので、若干の親近感を一方的に持っている程度だ。


キャロルに何度か恋心を確認されたことがあったが、それは、ない。


なにもかも違いすぎる。

容姿も、身分も、地位もなにもかも。

だから、……ない。


目の前の人に気づかれないように、ため息を吐いた。

フェルナンド様が私を呼び出したことだが、思い当たる節がありすぎる。


きっと、デート券を売り渡したことを知りお怒りなのだ。


特等が当たった場面に、フェルナンド様もいた。

あの時、私は何が起きたのやらと立ち尽くしていると、フェルナンド様がやって来て、私の前に膝まづき「当日を楽しみに待っています」と手の甲にキスをしたのだ。だから、私の面はばれている。


また、翌日からデート当日まで、フェルナンド様から私の家に大輪の薔薇の花束が毎日届き、「愛しいあなたへ」などといった甘い言葉が書かれたメッセージカードが添えられていた。


デートだけでなくこんなことまでしてくれるなんて、特等の景品は凄い、と私は酷く関心した。


そこまでしていただいたのに、私は券を競売に掛けたのだ。

恩知らずもいいところだ。

ここは、まず謝る謝らなければいけない。


「あの、申し訳っ」

「聞いたよ、借金を抱えていたんだって?」


キャロルから聞いたのだろう。

内容が内容なだけに、人には話さないで欲しいとお願いしていたのだが、デート券に関わる中心人物に聞かれれば、教えてしまったのかも知れない。


「はい、申し訳ありませんでした。ですが、あの券のお陰で借金も返済でき、本当に感謝しきれません」


そういって頭を下げた。

フェルナンド様は、困ったように笑った。


「ようやく、君と出会えてデートを心待ちにしていたのに、当日やって来たのは別の人で、しかも男。そして、その夜、俺は……」


フェルナンド様は、顔を歪ませ、首を横に向けた。

幾ばくかの沈黙が降りる。


「でも、そうなったことで、君の役に立てたのなら良かった」


そういって、苦悩を含む微笑みのフェルナンド様は美しかった。


頭の中にフェルナンド様の噂の内容が思い出される。

男性とデートをし、宿屋に行き、帰ってきたときは尻を抱えていた。そして、今見せるフェルナンド様の辛そうな表情。そこから導き出されるのは……。


なんということだ……。


やはり、彼は男性に……お尻を傷つけられるようなことをされ、彼は身も心も傷ついている。


私は青くなる顔を俯かせ、思わずこみ上げてくる涙がこぼれないよう、唇をかみ締める。


私はなんと言うことをしたのだろう。

お金のためとはいえ、あのフェルナンド様の心に深い傷を負わせてしまったのだ。


考えれば考えるほど、自分への怒り一杯になり、顔が熱くなるのがわかった。


私に出来ることは何だろう。心の傷は無理でも、せめて何か出来ないだろうか。

ぐっと、白衣を握り締めたポケットに入っているものを思い出した。


あるじゃないか、私にできることが。


ポケットに手を入れ、小さな軟膏の入れ物を手に握る。


今朝方作った、切り傷や打ち身によく効くお薬だ。

女性でもつけやすいように、ブルダリアという爽やかな香りのする花のエッセンスを調合している。

もちろん成分も現状のものより向上させた自信の一品だ。


席を立ち、フェルナンド様のそばに近づく。

座ったままの彼を見上げるように両膝を突き、顔を見上げて心に決めたことを告げた。


「フェルナンド様の(お尻の)傷が癒えるまで、(治療のため)お傍にいさせて下さい」


「ローザリア……」


フェルナンド様の手をとり、そっと、お尻にも効くであろう薬を手のひらに置いた。

そのまま、両手でゴツゴツした手を包み込む。


お尻の傷に関しては、何の心配はいらないというように微笑みかけた。

信頼しきった顔で彼も微笑み、私を見てくれた。


蕩ける様な甘い笑みをたたえた顔が、少しづく近づいてくる。


しかし、そこで、現実に幸せな時間は終わりを告げるように、遠くで午後1時を告げる鐘が鳴った。


私はフェルナンド様のから離れ、頭を下げた。


「それでは、休憩時間が終わりますので戻ります」


あ、そうだ、薬の使い方を言ってなかった。

うっかり、うっかり。


「その薬、お尻の患部に朝晩ちゃんと塗ってくださいね」

「え?」

「それ、凄くよく効くんです。切り傷などに。もちろん、お尻の傷にも」

「ええ?ローザリア?」

「意に染まぬ男性と、そういうことになってお尻を痛めたことは、元はといえば私のせいですし。私、誠意一杯治療させていただきますから。それでは」


私は、フェルナンド様を残し、走って職場に戻っていった。


その日、新たな薬の開発に意欲をたぎらせたローザリアを、職場のみんなが首を傾げることになる。


一方、立ち尽くすフェルナンドは、ローザリアに誤解されていることにようやく気づき、ローザリアの誤解を解くため、攻めの一手に走ることを決め、同僚の残念な目線を受けることになる。


その後、男装のローザリアに幾度も迫るフェルナンドの姿を見た何も知らない女性たちが、阿鼻叫喚の渦に陥ることを2人が知るのは、少し先の話。

2014/10/19 誤字修正


お読みいただき、ありがとうございます。

ひとまず、ここで、一度ローザリア視点のお話は終わります。


次回からは何話か、フェルナンド視点の話となります。


ローザリアの冒険

***************

ローザリア:>アイテム

◆ローザリアは、軟膏をフェルナンドに投げつけた!

◆フェルナンドは、50ポイントの精神ダメージを受けた!

◆フェルナンドは、体が麻痺して動けない!

◆ローザリアは、微笑んでいる

◆フェルナンドは、体が麻痺して動けない!

◆ローザリアは、微笑を深めている

◆ローザリアは、逃げ出した!

フェルナンド:(涙目)

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