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北の町マジソニーへの道のりは、片道2日の工程だ。
出発当日、夕方には目的地の中間地点に位置する町に到着できた。
早めの夕食も済ませ、予定していた宿屋も無事泊まることが出来た。
順調な滑り出しにほっと一息ついたところに、宿屋でひと悶着あった。
「ベニキアさん、今日貴女はわたしと同じ部屋よ」
「嫌ですわ! わたくし一人がよくてよ!」
「いいえ、女同士積もる話がわたしには一杯にあるので、同じ部屋になっていただくわ」
キャロルが、ベキニアさんと同じ部屋になるんだとごね始めたのだ。
「どうしよっか? あれ」
「どうしましょう」
コーサスさんと2人で言い争う2人を観察する。
部屋は2人部屋が2つと、1人部屋が1つ。
2人部屋の一つは護衛の2人で使用し、残りの2部屋の部屋割りで揉めている。
「おい、フェルナンド。あれどうにかしろよ。どっちもお前の担当だろ」
「担当って何だ。そんな面倒なものになった覚えがない」
「兄貴担当と、付きまとわれ担当」
はぁとフェルナンド様がため息をつく。
すると、キャロルがベキニアさんを連れてやって来た。
「この旅のまとめ役であるお兄様が、部屋割りを決めてください! ベキニアさんもそれなら良いでしょ」
「もちろん、フェルナンド様の決定には従いますわ」
「ローザリアが一人部屋だ」
即答でフェルナンド様は決定を下した。
キャロルはニコリと笑い、ベニキアさんと腕を組んだ。
「さぁ、いきますよ! ベニキアさん」
「やっ、ちょっとっ、待って」
ベニキアさんは、キャロルに引きずられるように部屋へと入っていった。
「ローザリア嬢も部屋にいきなよ。念のためあんまり外を出歩かないでね」
「わかっています」
コーサスさんは、さっさと部屋に一人入っていく。私も自分の荷物を手に持ち歩き出した時、フェルナンド様が私の腕を捕らえて、顔を耳に寄せ、一言囁いてすぐに自分の部屋に入っていった。
「後で部屋に行くから」
そういわれた私は、顔を真っ赤にして暫らく立ち尽くしていた。
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どうしよう、フェルナンド様がやってきてしまう。
もっと可愛い感じの洋服に着替えたほうがいいかな。
あっちにうろうろ、こっちにうろうろしながら、彼を待つ。
しかし、一向にフェルナンド様がやってくる気配がない。
時間も深夜を差す時刻に変わっている。
私から行ってもいいのだろうか?
そっと扉を開けて、廊下を覗いた。
「あ、ローザリア嬢でてきちゃった?」
声をしたほうを見れば、コーサスさんが廊下の突き当たりの窓辺に一人、背を持たれかけて立っていた。
彼が私に、おいでと手招きをする。
「フェルナンドのヤツ、今ベニキア嬢に引っ付かれて対応中」
驚いて彼を見上げると、あっと言った。
「ごめんごめん、キャロル嬢も居る部屋に3人一緒にいる」
こわばった肩の力を抜くと、コーサスさんは気まずげに聞いてきた。
「あーと、フェルナンドから聞いたんだけど、あいつのの気持ち、ローザリア嬢知ってるんだよね。」
「……はい」
「じゃあ、付き合うにしても嫌っているにしても、さっさと答えだしてやってよ」
にっこりとコーサスさんが笑う。
「じゃないと、あいついつまで立っても次へ進めないし。まぁ、出来るだけ早めにお願いな?」
私は返事はせず、曖昧に笑っておく。
「もう、うるさいのなんのって、バカの一つ覚えみたいにローザリアローザリアって。お前はオウムかって突っ込みたくなるんだ。いや、もう突っ込んでるな。とにかく、俺の平穏のためにもどうにかしてやって」
よいしょと、コーサスさんは窓辺から離れ、私の背に手を当てた。
「今日は寝な。もう遅いし。フェルナンドには寝たって言っておく」
「そう、ですね。そうします」
部屋の前まで送られて彼を見上げれば、そんなに不安そうに見えたのか、頭をぽんぽんとされた。
ベットに一人横になると、少しの寂しさを胸に私は静かに眠りについた。
翌朝、声を掛けてきたフェルナンド様への態度がちょっと冷たくなったのは、いたしかたないと思う。
あからさまに壁に手をついて落ち込むフェルナンド様がコーサスさんに、さっさといくぞと頭をはたかれてるのを横目に馬車に乗り込む。
そして、すでに座っていたベニキアさんを複雑な表情で見つめたのだった。
ローザリア劇場
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◇童話『金の斧と銀の斧』パロディ
ローザ:「ああどうしましょう。フェルナンド様が部屋に来るのに、着る服が泉に落ちたわー」
キャロ:「可愛そうなローザリア、あなたが落としたのは、
この色々透けちゃうネクリジェですか?際どい感じのネグリジェですか?」
ローザ:(ちょっと、そんなの台本にないよ!)
キャロ:「どちらですか」
ローザ:「3番の、隙のないワンピースで」
フェル:「3番、だと?!」




