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「ローザリア!」
王宮の入り口を司る門の奥から、フェルナンド様が駆け足でやって来た。
私の横には、北の町へ向かう馬車がと警備の人間が乗る馬がすでに待機している。
約2ヶ月ぶりの彼の姿に、自然と自分の頬が緩むのがわかった。
フェルナンド様は以前より少し痩せてしまったようだ。
でも、それは彼の美しさを損なうこともなく、逆に精悍さが増してより素敵になっていた。
「ローザリア、随分綺麗になったね、見違えたよ。俺にもっとよく顔を見せて」
フェルナンド様の手が私の顔に触れる。
「2ヶ月ぶりなのに妹に挨拶も無しなんて随分ですね、お兄様」
私の隣に立つキャロルが呆れた声で言った。
「あ、キャロルいたのか」
「酷いですわ! いましたよ、ローザリアの横に」
「悪い悪い、キャロルも見ないうちに綺麗になったんじゃないか?」
「なったんです!」
相変わらずなかのいい兄弟に私は笑った。
「フェルナンド様道中、よろしくお願いします」
私は小さく頭を下げた。
「もちろんだ。君のためなら何処へだってついていくよ。そうだ、ローザリアは馬に乗ったことはあるか?」
「いいえ、ありません」
「じゃあ、少し寒いかもしれないが、俺が後ろから暖めてあげるし、落ちないようしっかりと君の体を包み込んであげるから、俺の馬に乗っ」
「乗せれる訳ねぇだろ、このアホが!」
スコンと心地よい音とセリフともに、フェルナンド様の頭がはたかれる。
フェルナンド様の背中から、小柄な男性が現れた。
明るい茶色の髪を左右に跳ねさせ、同じ茶色の瞳は大きく、全体的に少年のような幼さがある男性だった。
「護衛の馬に、護衛対象者を乗せようとするな、アホ!」
彼はまくし立てて、フェルナンド様をもう一度はたく。
「とまあ、ふう、キャロル嬢お久しぶりです。あとローザリア嬢は始めまして。第2団一番隊長のコーサスです。よろしく」
コーサスさんがにっこり笑った。
人好きするような笑顔だ。
「フェルナンド、急遽もう一人馬車に乗るヤツ増えたぞ」
コーサスさんが、後ろを親指で指し示す。
ゆったりと、金髪の女性がこちらに歩いてきていた。
その姿に、コーサスさんを除く3名はそれぞれ、歓迎しているとはいえない表情になる。
令嬢のお辞儀をとった女性の胸がたわわに揺れた。
旅をする格好とは言いがたい、パーティー用のドレスを着ている。
「フェルナンド様、お久しぶりでございます」
妖艶に笑った彼女こそ、ダグラス家の令嬢ベニキアさんだった。
フェルナンド様の腕に自身の腕を絡ませ、胸を押し当てる。
「そうだ、わたくし馬車酔いしますの。ですから、フェルナンド様の馬に乗せていただけないかしら。寒いでしょうから後ろから暖めてくださいませんか、あと、落ちないように」
「はい、乗せませんよー。ご令嬢達は、みんな一緒に馬車に乗りましょうねー」
コーサスさんが、ベニキアさんをフェルナンド様から引き離すと、私たちを馬車に乗り込ませる。
「では、北の町へ出発!」
景気のよさそうな掛け声とは裏腹に、暗雲立ち込める旅立ちとなった。
ローザリア劇場
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◆コーサス君危機一髪(飛び出し確定)
ベニキア:「わたくし馬車酔いしますの」(押し当てる胸)
ローザリ:「・・・」(フェルナンド様も大きい胸が好きなのかな)
キャロル:「・・・」(あのゲスなところが嫌いなのよ。胸も私より大きいし)
コーサス:「くす、お2人とも、(嫉妬するとか)『可愛らしい』ですよね」
ロ・キャ:(胸のサイズのことか?!)
コーサス:(あれ、悪寒が・・・。)




