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ここまでお読みいただきありがとうございます。
本話より最終章に入ります。
残り5話前後となりますが、引き続きよろしくお願いいたします。
雪がチラつく景色の中、馬車に揺られてゆっくりとした速度で私たちは北へと向かっている。
馬車の外には2人の護衛が馬に乗って、つかづ離れずの距離で着いてきている。
窓から外を覗く私に気づいた、護衛であるフェルナンド様が微笑んだ。
私とキャロルは、先日発見された新種の薬草の確認を行うため、北の町マジソニーへ向かってる。
護衛にはフェルナンド様と同じ部隊の一番隊長であるコーサスさんがついてくれている。
そして、もう一人、馬車の中に客人が乗っていた。
あのダグラス家のご令嬢ベニキアさんだ。
彼女のことを余りよく思っていないキャロルも気まずい私も、もちろんベニキアさんも車内では一言もしゃべらず、ただ、黙って時が過ぎるのを待っていた。
ぼんやりと外の景色を見ながら、私は2週間前にこの出張を言い渡されたことを思い返した。
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研究室でアレクシオに呼ばれた私とキャロルは、何事かと2人して顔を合わせて彼の席の前に立つ。
「薬草の新種が見つかった。再来週から2人で、北のマジソニーへ行ってきてくれ」
「室長、かまいませんが、そういった回収や調査は3部の仕事かと」
「ここ最近新種の発見が続いてな、人手が足りないということで、うちに依頼が回ってきた」
私たち研究室は細かく分かれると3つの部に分かれる。
1部が薬草の育成・研究、2部が私がいる部署で調合や実験を行っている、3部がフィールドワーク専門の薬草の回収・調査だ。
「人手を割く条件に、この前開発した薬の人体実験用に使える粋が良い部下を1人、回してもらうことになっているから、しっかりやってこい」
「相変わらず鬼ですね、室長」
「あと、護衛に第2団長のフェルナンドと第2団1番隊長のコーサスが付く。迷惑をかるなよ」
アレクシオは、私をちらりと見た。
もしかして、わざわざフェルナンド様を指名してくれたんだろうか。
「以上だ」
それだけ言って、アレクシオは手元の資料に目線を下げた。
私はアレクシオに自分で決めた想いを告げた日から、自分を変えることに決めた。
まずは外見だ。
黒縁の大きな眼鏡をやめた。
代わりのアクセサリー感覚で身につけける形のものを、アレクシオがプレゼントしてくれた。また、髪型も短さを補うような工夫して、顔の横の部分だけ編みこんで結ってみたり、髪飾りをつけてみたりと変化をもたせる。
だが、服装は今のところ男性用の研究室の服で通勤している。
他の女性達は、行き帰りはドレスを着ている人が多い。
この間キャロルがお古を沢山くれたのだが、私は面倒臭いから、まだこのままで良い、と言ったらその場で小一時間怒られた。
だって、ヒールはなれないし、脱着に時間かかるし、他に専用の小物とか装飾品とかそれなりに身につけないとだし、しっかりと化粧をしないといけないし、と色々面倒なのだ。本格的に始めるには手間もお金も掛かりすぎる。
それにキャロルも一度男装をしてみるといい。
そのとてつもない身軽さを知れば、きっと虜になること間違いないよっ。
そう言い訳したら、さらに説教が延長された。
だが、無理だ。ごめんキャロル。
そんな中、王宮では密かに私を男だと思って愛でていた女性たちには、私の変貌に衝撃を受けたらしい。
やっぱり女なんだと落ち込む一派が、彼は男の娘だったのよ!と言っていた一派に吸収され勢力を拡大したとか。……仕事中になにやってるんですか、あなたたち。
とにかく、大きな変化ではないにしても、女性らしく変わった姿を見て欲しくて、フェルナンド様にいつ会えるかドキドキしながら待っていたが、知ってもらうのは当分先だとわかった。
北の山賊が、今年始めからじわじわと勢力を持ち始め、奪略や強盗など月を追うごとに増えていた。
その度に取り締まりや捕獲をしていたが、一向に収まる気配を見せない山賊達に、今回王立騎士団の中核である第2騎士団を出兵させ、壊滅する作戦に出たのだ。
もちろん団長であるフェルナンド様は出撃準備のため、更に多忙になり今までのように、お昼や帰りに会うことは無くなった。出撃後は、約2ヶ月かけての殲滅作戦のため、ほぼ北方に行きっぱなしになっているようだ。
しかし、私たちが出発する1週間前には騎士団は帰還するらしく、お疲れのフェルナンド様には申し訳ないが私は出発まで楽しみでならず、そわそわしながら一週間を過ごしたのだ。
1週間後、王宮に戻ってきたフェルナンドが、王宮でローザリアを少年だと思っている衛兵の男性陣達に、アイツは男か女どっちなんだ!と大勢から問い詰められ、恋敵を恐れたフェルナンドが『男だ』と言ってしまったばかりに、「俺ちょっと、花街行ってノーマルだって確認してくるわ」と旅立つ姿が多く見かけられたという。
ローザリア劇場
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◆侍女達の一幕 ~男の娘論争~
侍女1:彼は『男の娘』だったのよ!
侍女2:何をバカなことをっ。
侍女3:そうよ! 彼が『男の娘』だとして、女の子の下着を穿いてるっていうの?!
侍女1:ああ、そうだ。
侍女2:そして、スカートの下を覗こうとするのを、
頬を染めて「やめてよ、バカ」とか言うとでも?!
侍女1:勿論だ。
侍女2:ゴクリ(ありだ……)
侍女3:ゴクリ(ありだ……)
侍女1:(ふっ、落ちたな)




