自重しない初陣 其の三
「一日くれてやる。皆殺しにして来い。」
上級将校以上、つまり大隊以上を率いる者を集めた軍議である。
標的は敵軍ではない。
地図で囲った箇所にある林に生息する魔物を、である。
この辺りで、最も強いとされている魔物でも、グリーンドラゴンの亜種、つまり毒の地竜だ。
単体の討伐ならば、熟練の冒険者が三十人もいればなんとかなる相手だ。
亜竜は群を作るんだがな。
まぁ、暇つぶしにはなる。
あと、この腑抜け共の選別だ。
「敵が迫っておりますが、そちらの対応はどうなさるおつもりか。」
いかにも、アタクシ古株貴族デス、と言ったおっさんが顔を赤らめて唾を飛ばす。
醜い。
「バーボロス。」
その一言で、おっさんの首が飛んだ。
名前?覚えてる訳ねぇだろ。どうせ伯爵家あたりの親戚筋だろう。
名代程度、一人二人首を飛ばした所で問題ない。
しかし、バーボロスは腕をあげた。
キチンと、飛ぶように首を斬るってのは、結構な技倆である。
「敵軍には、俺の麾下があたる。まぁ、睨み合っとくだけだが。」
なんかコソコソと私語が聞こえるなぁ。
「し、しかし、今この時に魔物退治などする意味が」
なんか喋ってたおっさんの首が飛ぶ。
うん。俺は同じ事を二回言うの嫌いだからな。よく察した、バーボロスよ。
「そろそろ、掃除が大変な事になりそうだから、一度だけ言っといてやろう。」
血に塗れた会議場で、非の打ち所がないであろう笑みを浮かべてやる。
「人が喋ってる時に口を挟むな。」
水を打ったかのように、場が静まりかえった。
誰も、身動き一つしない。
「よろしい。では、続きだ。明日のこの時刻までに、戦利品の整理まで済ませろ。何故とか出来る出来ないとか、そういった事を考える必要はない。俺が命じたんだからな。」
「も、もし、御命令を果たせな」
おっさんの頭が溶け出した。悲鳴は喧しいので、おっさんが触れている空気を固定する。
これで、音は漏れない。
もちろん、全部俺の魔法だ。
こういう魔法は、俺の奴隷共はまだ使えない。
いやぁ、魔法ってホント便利。
「行け。」
言うと、生き残った全員が立ち上がり、敬礼して出て行った。
こんぐらいしないと、軟弱過ぎて使えないし、動かない。
脆いオモチャでは、長く楽しめないからな。
まったく、どいつもこいつも手間をかけさせてくれる。
遊びぐらい、もっと気楽に楽しみたいんだがね。
【竜】
最大級の爬虫類。卵生。
竜と言うと、大抵は亜竜を指す。
真竜と呼ばれる個体は千年以上の長寿で、生涯で三回、発情期がある。
亜竜の寿命は百年程度。発情期は五年に一回。
赤、青、黄、緑、白、など様々な色の竜がいて、その色で得意とする属性が決まる。この属性は遺伝し、基本的には母竜の属性を受け継ぐ。
外見は巨大なトカゲ。コウモリみたいな翼が生えてるやつを飛竜、飛べない竜を地竜と呼ぶ。
牙や鱗は勿論、肉や骨にも魔力が宿っており、討伐は困難を極めるが、武具や魔法薬の材料として珍重されている。
また、非常に高い知性を有し、亜竜でも人語を解する。