自重しない初陣 其の二
幕舎の外に出ると、あちこちから声があがっていた。
が、兵士用の幕舎から出てくる者の数が少ない。
その上、出てきた者は鎧兜はもちろん、武器すら手にしていない者ばかりだ。
駆け寄り、一人、即座に頭蓋から叩き斬った。
使えない兵は、混乱の種にしかならない。
「全員、叩き起こせ。軍装を整えよ。」
真っ二つになった死骸の傍で腰を抜かしていた男に、そう言って幕舎に戻った。
奇襲をかけたのは、麾下の一千である。
実戦の前に、どれほど使えるか、試したのだ。
斥候からの報告が正しければ、敵軍と合間見えるのは、おそらく十日後。
それまで、砦が落とされようと、村が焼かれようと、ここで待つ。
俺の任務は、決戦場に向かわせない為の足止めであって、領民を守る事ではない。
戦争なのだ。
正直、知り合いでもない人間がいくら死のうと、知ったこっちゃない。
知り合いでも、死ねば良いと思う事があるのに、赤の他人にくれてやる慈悲など持ち合わせてない。
「制圧、完了致しました。」
赤の軍装に身を包んだバーボロスが、幕舎に入ってきた。
その全身に、軍装とは違う赤が、こびりついている。
「首は。」
「将軍を一人、将校を七人、兵は二百ほど。将軍は娼婦を連れておりましたので。」
言うなれば、粛清である。
まぁ、これはついでだ。
「バーボロス。」
「はっ。」
「血糊は落として来い。見苦しい。二度目はないからな。」
バーボロスが青褪めた。
戦場だから、などと言えば、即刻、首が胴から離れる事になる。
俺の視覚と嗅覚が不快だと言っている。
つまり、それは俺の臣下として、奴隷としての不敬である。
「行け。後始末は、ブランディットにやらせろ。」
手を振って、バーボロスを追い出し、地図を卓に広げた。
つまらない。
一応、国難の時ではあるので、神妙にそれらしい事をしてやってるが、ぶっちゃけ俺一人でもなんとかなる。
俺が敵軍を殲滅しないのは、まず第一に、めんどくさい事。
第二に、側近や俺の派閥にいる貴族共に、実績を作らせる事。
第三に、この戦争中に親父の暗殺を狙っている事。
それだけだ。
まぁ、親父の暗殺はやろうがやるまいが、どっちでも良いんだが。
国難を救う為に、国王が戦死するなんて、中々の美談だろう?
この戦争が終わってから、病気になってもらって死んでくれても良いが、戦死の方が色々利用しやすいし、後腐れもないし、やっといた方が良いだろ。
わかっちゃいるんだが、俺が率いてる軍の使えなさに苛立ちが募る。
さっさと終わらせたい。
俺が我慢せにゃならん事など、本当はあってはならんのだ。
まったく、うちの下僕は揃いも揃ってクズばかりだ。
最近、ちょっと優しくし過ぎたかも知れん。
自分の立場と言うモノを、思い出させてやらんとな。




