自重しない少年。
俺は、五歳になった。
目の前には、俺の学友として付けられた同い年の少年が四人、DOGEZAしている。いや、させたんだが。
「なぁ。」
「はっ。」
「なんで、持って来てないの?ユニコーンの鬣。」
ユニコーン。
一角を持つ白馬。
処女にしか心を開かず、また触れる事もできない。
強力な魔力を身に宿し、その美しさもあって割りと人気のある魔物である。
ちなみに、角と血液は様々な薬の材料に、毛皮は魔術師のローブに、鬣は弓の弦や杖の芯に使われる。
宮殿の宝物庫目録に、ユニコーンの角があったので、鬣も揃えちゃおうと、この四人に持って来いと命じたのだ。
昨日の夜に。
今は、早朝である。
楽しみで寝れなかったのだ。
「申し訳ありません。当家では所有しておらず」
なんか言い訳を始めた少年。
シルクが生地なのはもちろん、金糸や銀糸で繊細な刺繍が施された極上の礼服を来た、将来は爽やか系イケメンになりそうな少年である。
確か、現宰相の公爵家嫡男だったかな。
もちろん、蹴っ飛ばした。
ボールみたいに跳ねながら、ぶっ飛んでいく。
「次。」
ピクピクしてる少年を見届けて、残りの三人に視線を戻す。
脳みそ撒き散らさずに済んだのだ。感謝して欲しいね。
皆、顔を上げず、プルプル震えている。
ちょっと可愛がってやっただけなんだけどな。
いやさ、初対面でタメ口だったのよ。皇太子の俺に。
やっぱ、いくら法律とかそうゆうのが緩い異世界でもさぁ、上下関係って大事じゃん。
五歳だし、ちょっと早いかなぁって思ったんだけど、言葉って早い方が覚えが良いって言うじゃない?
地下牢でじっくり調教してやったよ。
「も、申し訳ございません!ただいま臣下総出で調達しております故」
少年の一人が、震える声で必死に弁明している。
蹴っ飛ばしても良いが、ちょっと遊んでやろうか。
蹴るとか殴るとか、そういうのは理由いらないし、いつでも出来るからな。
「いつ?いつ持ってくんの?」
「は、はっ!」
少年が滝のように汗を流している。
泣いてるんじゃないかってぐらい、顔からポタポタ水滴が落ちていた。
あ、ちなみに泣いたら問答無用でサヨウナラである。
俺は泣くガキが嫌いなのだ。
「聞こえなかったか?いつ、と俺は聞いたぞ。」
「あ、明後日には、必ず。」
あらー。まぁ無理だろうな。
ユニコーンが生息する最寄りの森まで、最速の飛竜で、極限まで荷物減らしても片道半月はかかる。
帝都の商人の手元にないのも、確認済みだ。
世界各地を旅する隊商が、偶然持ち込まない限り、明後日と言うのは難しいだろう。
「待てん。今日中に持って来い。」
まぁ、お約束ですよね。やっぱ大事だよね。お約束。
三人が一斉に顔を上げた。
皆、老けたなぁ。それに、なんか青褪めてるし。
五歳っぽくないぞ。もっと純真無垢に生きなきゃ。
「し、しかし。」
「あぁ、時間が足りんか?なら、今すぐ探しに行って来い。顔を上げたのも、不問にしてやる。良かったな。ほら、さっさと行ってこい。」
プライスレスなスマイルで言ってやると、ピクピクしてた少年を担いで、三人は出て行った。
さぁ、どうするつもりなんだろな。
四人共、使えないクズだが、一つだけ俺が評価している所がある。
四人それぞれが、チームワークを理解しているのだ。
公爵嫡男はリーダーである。何事にも率先して動き、成果を最大限に、被害を最小に収めるべく行動する。
俺と話していた少年は、内政官を輩出する重鎮貴族の息子だ。
彼はモノに関する知識があった。
帝国の主要農作物や、産出する鉱物や宝石、魔物から採れる素材、果てはそれらを扱う商人、著名な職人や冒険者など、まるで辞書の如き記憶力を持っている。
もう一人は、代々優秀な将軍を輩出する名門貴族の長男。
厳格な父親に、三歳から手解きを受け、他にも著名な剣豪などに師事している。
書見も欠かさず、戦略や戦術に関しても蓄積を続けており、幸いな事にその方面に優れた才覚を持っていた。
最後の少年は、特にこれと言った才覚はない。
出身も、地方の小さな領主の三男である。
では、何故俺の側に侍る事を許されているかと言うと、俺の『魔眼・鑑定』に引っかかったからだ。
ちなみに、俺の魔眼で彼を見ると、こんなのが出てくる。
【マルコ・ヤドヴィック】(5歳)
HP 6/6
MP 12/12
力 4
体力 4
敏捷 5
賢さ 31
『幸運の申し子』『皇太子の奴隷』
このステータスの解説をするならば、めちゃくちゃ運が良い俺の奴隷。
あ、賢さが高いのは、俺の教育の賜物な。
運は運だけではどうにもならないが、なんせ他の三名がそこそこ動けるからな。こいつがいれば、たいていの事はなんとかなる。
ん、奴隷ってのが気になるって?
地下牢で教育したんだぜ?そんぐらい当たり前だろ。むしろ俺との絆に狂喜して、靴を舐めてもらいたいね。
まぁ、そんな感じで、この四人はなんだかんだで俺の命令を実現できなかった事はない。
それぞれの能力や伝手を、常に連携しながらフルに使っている。中々良い傾向だ。
こいつらは、将来俺の側近になるんだからな。
多少の事は、難なくクリアしてもらわないと困る。
彼らは、夜になって、やっとユニコーンの鬣を持って来た。
帝都中を駆け回り、使える人間は全て使い、商人ではなく、冒険者を片っ端から訪ねて回ったそうだ。
その中で、偶然、ユニコーンの鬣を使った杖を持っている高位の魔導師を見つけ、相場の三倍の金貨を積んで買い取り、職人に分解させたそうだ。
「ふーん。よくやったな。」
揃って跪く彼らにそう言うと、彼らの緊張が解けるのを感じた。
まぁ、大変だったろうしな。時間制限もあったし、今までの命令の中でも、中々の難易度だった。
一人が、跪いたまま安心したような溜息をついた。
「あと、これを十本な。明日の朝までに。」
もちろん、俺は笑顔だった。




