産まれる前に。
奇妙な場所だ。
何も見えない、と言う場所はただ真っ暗な空間を想像していたが、実際は真っ白だった。
単一の色彩に視界が埋まると、何も見えないと脳は定義するらしい。
困惑はない。
ただ、不思議だった。
「やぁ、こんばんは。」
声と同時に、真っ白な空間に青年が姿を現した。
やはり、困惑はない。
どこまでも俺は冷静で、その事に違和感はあるものの、それを深く突き詰める事よりも、あなたは誰?ここは何処?といった好奇心の方が勝る。
「君は死んじゃってるからね。生存本能が働かないんだよ。」
青年がニコニコしながら、中々重大な発表をしてくれた。
「俺、死んでるんですか?」
口に出したつもりだった。
いや、実際に音は聞こえるのだが、これまた違和感がある。
「うん。事故に遭ってね。それはもう盛大に君の身体はぐっちゃぐちゃになったから、復元が追いつかなかったんだ。どうせ、すぐに産まれてもらうから、かまわないだろう?」
かまわなくはないが、問題ないなら…やっぱ良くないな。
「ここは?あなたは、誰ですか?」
「君達が言う『天国』とか『あの世』、『黄泉の国』まぁ、色々言い方があるね。僕は神様だと思ってもらってかまわない。その一部、と言った方が正確だけど。」
おっと、これはもしかして、アレですか。
転生チーレムってやつですか。
グラマーボンキュッボンなおねーさんとか侍らしてアレしたりするアレですか。
「そうゆう事。あんなのやった事ないんだけどねー。でも、面白そうだし、僕もやってみたくなったんだ。僕は創造するのは得意だけど、想像するのは不得手でね。」
まぁ、リアルタイムで色んな映画見てるようなもんだろうしな。神様なんて。
「さて、時間もないし、ちょっと説明済ましちゃうよ。」
それから自称神様は、俺がこれから産まれる事になる世界や環境について、大まかに説明してくれた。
世界の名前は『ラグーン』
その中で三番目に広い大陸『アルレシア』を統一した『ベルフェレン帝国』第四代皇帝嫡男として、俺は産まれるそうだ。
魔法あり、亜人あり、ファンタジーっぽい生き物はだいたいあり。
文明は明確に定義できないが、ファンタジーに収まる範囲でしか発達してない。
要約すると、こんな感じ。
うむ。苦しゅうない。
「あ、それからさ。君の能力なんだけど、どうしようか。たいていの能力は創れるんだけど、如何せん上手く想像できなくてね。こんなのが良いって言ってくれたら、すごい助かる。」
え、チート能力無制限っすか。
「とりあえず、病気とかの耐性は欲しいですね。問答無用で無効にするぐらいの。」
「りょーかいー。」
『全状態異常無効』を獲得しました。
「あとは武術と魔法のチートスキルも欲しいっす。あ、もちろんステータスもチート全開で。」
「はーい。」
『武神』『魔神』『無限体力』『無限魔力』『武具の知識』『魔道の知識』を獲得しました。
全ステータスが数字表記の概念を突破しました。
うむ。これで途中退場はあり得なくなった。
少なくとも、時速200kmでトラックがぶつかって来ても受け止める自信がある。
「あとは、鑑定スキルと精神力かなぁ。」
「ほいほい。」
『魔眼・鑑定』『不屈の精神』を獲得しました。
「そういや、ゲームっぽいステータスとかスキルとか、向こうにあるんですかね?」
「住民達が認知するレベルでは存在しないねー。ジョブとかそんなのも、なしなしだよー。あったらつまんないじゃん。」
そのつまんないのを全力でやってるんだけどなぁ。
「そっすか。あぁ、あとなんか覇者のオーラ的なの下さい。」
「グイグイいくねー。」
『神覇気』を獲得しました。
「こんなもんで良いかい?そろそろ時間切れが近いんだけど。」
「んじゃぁ、最後に、才能の塊みたいなの下さい。暇つぶしにあれこれやりたいんで。あと、めっちゃ強力な精力も。」
「これで最後だよー。」
『天賦の才』『夜王』を獲得しました。
「ありがとうございました。」
「いいよ。僕も楽しみたいしね。じゃ、いってらっしゃい。」
突然、視界が暗転した。
まぁ、楽しみではある。
日本に残してきた家族や友人、彼女やエロゲなど心残りは多いが、死んでしまったんだから仕方ない。
次の人生を、キッチリと生きよう。
この日、ベルフェレナ帝国後宮で、産声があがる。
後に、ベルフェレナ帝国の絶頂期を築き上げながら「魔王」と後世に評された男。
ローバルク・ベルフェレナ二世の誕生である。
彼は産まれた瞬間から、周囲のものを跪かせたと言う。
伝説が、始まった。
テンプレなのは多分始めだけ。