自重しない初陣 其の六
対陣する事、半月。
親父が決戦に敗れた。
当然、敗戦のきっかけは親父の戦死だ。
兵を鼓舞しようと、前線に出たところに流れ矢がプスッと首に行っちゃったらしい。
残念だね。可哀想だね。
射ったの俺だけど。
瞬間移動マジ便利。
これで皇帝の地位は俺のものである。
敗軍が、こちらに向かって集結している事から、余計な事を仕出かそうとするやつもいないだろ。
いくらかは、敵軍に降った貴族なんかもいるようだが、むしろ有難うございます、って感じだ。
侵略戦争じゃないぶん、ご褒美の領地がないからな!主に俺の直轄領的な意味で。
ちなみに、我が軍の士気は最低である。
平然としている俺の麾下が、物凄い浮いてるぐらいには最低である。
さて、そろそろ芝居を始めるか。
「出陣する。」
軍議の席である。
あーでもない、こーでもないと唾飛ばしあっていた貴族達の顔が、一斉にこっちを向いた。
即位式こそしていないものの、皇帝のお言葉である。
決戦派の皆さんは喜色を浮かべ、帝都籠城派の皆さんは青褪めている。
気に入られないと、殺されるとでも言わんばかりだな。
その通りだけど。
「せ、せめて集結中のお味方を待つべきかと。」
この後に及んで、まだ俺に意見するか。
まぁ、良い。
今は、な。
「先にお前らに見せといてやる、それだけだ。行くぞ。」
見ればわかるしね。
銅鑼だのラッパだのの、出陣の合図が鳴り響く。
一糸乱れぬ布陣。
敵軍に向かいながら、中央に歩兵の方陣が三つ並べ、その後ろを騎兵がついていく。
変われば変わるものである。
生き残ったのは八千ほどか。
敵に殺された兵士がいないあたり、この軍の全てを物語ってるな。うん。
「我が名は、ローバルク・ベルフェレナ。ベルフェレナ帝国が皇帝である。」
俺は、と言うと、先頭で名乗りをあげていた。
オリハルコン製の金に輝く兜、鎧も同じくオリハルコンだが、ミスリルの彫金細工を散りばめてあり、所々を結ぶ紐はユニコーンの鬣を撚ったものだ。
剣の鞘は、エルフの里から献上された世界樹の枝を寄木して拵えた。
剣は、芯に真竜の牙を使ったアダマンタイト製だが、刃鉄は、硬さの関係でやはりオリハルコンだ。
今の俺は歩く世界遺産、もといキンキラキンのど派手な若き皇帝である。
敵軍だけでなく、味方からも、どよめきが広がる。
皇帝が先頭にいるんだからな。そりゃそうだ。
なんだこのど派手な貴族、ぐらいにしか思われてなかったんだろう。
「貴様らは、私の後を歩けば良い。我が前に、未だ敵は無し。我が軍は、未だ敗北を知らず。」
少しでも、魔力を感知できる者がいれば、俺の周囲に魔力が竜巻のように舞い上がっているのがわかるだろう。
いや、ひょっとしたら、誰にでも目視できるレベルかもしれない。
既に、味方は愚か、敵軍にすら魔力酔いで倒れている者がいる。
「我が父の無念、今この時より灌ぐ。」
上空に創ったのは、重力の塊だ。
光すら引き込むそれは、徐々に敵軍の頭上に近づき、ゆっくりと発動し始めた。
旗が、吸い込まれる前にひしゃげる。
敵兵の持つ武器が、兜が、暗闇の塊に異様な音を立てて呑み込まれる。
敵軍は既に恐慌状態だ。
兵が、馬が、将が、等しく潰され肉塊になりながら吸い込まれる。
逃げても、無駄だ。
地に足が着かないのに、どうやって走ると言うのか。
六万の断末魔が響き渡る。
味方で、声を発する者はいなかった。




