俺の幼馴染が行動的過ぎて辛い
「辛い」
と、自分の正直な気持ちを言葉にしてみると。
「そんなに否定しなくたって良いじゃない?」
彼女は悲しそうな顔でもなく、残念そうな顔でもなく、余裕綽々の薄ら笑みで言った。
「どうして辛いの?」
「辛いもんは辛い。何が辛いって、周囲の目が辛い」
学校のクラスメイトがちらちらとこちらを見てくる。昼休みなんだから皆どこか行けよ。なんで全員が全員クラスにそろってるんだ。
「みんな見てるね。なんでかなぁ?」
俺を見て彼女が言う。きっと彼女は分かってる、俺が言わんとすることを。
「お前が俺の膝の上に乗っているせいじゃないかなぁ?」
俺が言うと、彼女はわざとらしく目線を下げて、それからわぁ! と驚いて見せる。
演技の練習をした方が良い。いくらなんでもヘタクソすぎる。
「驚いたよ。ずいぶんと座り心地が良いと思ったら君の膝だったんだね」
「うん、そうなんだよ。でも膝は座る場所じゃないよね? 降りようか」
「え?」
「え?」
おっと?
「何で?」
何を言っているのか分からない。と言った表情で俺に尋ねる彼女。
俺はお前が何を考えているのか知りたい。
「何でって……、そりゃ、膝は座る場所じゃないからさ」
説明にならない説明だが、他に何て言えば良いんだ。
「え?」
「え?」
「座る場所じゃないの?」
当たり前だろ。
「え、じゃあ今まで座ってきた私は間違いを犯していたという事かい?」
そこまで仰々しくないだろうけども。
いや、教室でそう言った行為をするのは止めて欲しいし間違いに違いないだろうとは思うけども。
とりあえず、
「座る場所では無いな」
「そ、そうなのか」
わざとらしくない言い方。
だが、多分これも演技。わざとらしくも真に迫る演技もできる。それが彼女だから。
大したもんだと褒めたい一方、それを利用して迫られるのは困る。非常に。
「じゃあ私はどこに座れば良いんだ?」
「自分の席に座れば良いだろう」
廊下側から三列目の一番前な。
ちなみに、俺の席は窓側一列目の最後尾である。
「寂しいじゃないか」
「周りに友達がいるじゃん」
「彼女達より君の方がより好ましい」
「教室で言うな。いろいろと不味いから……」
ちらと教室中に目線を配り、
厳しい眼光をいろんな人からもらって、心が壊れそうになった。
「お願い。昼休みくらい、君と一緒にいさせてくれよ」
彼女は言う。上目で、悲しそうな顔で。
騙されん。それは演技だ。
「すべての休み時間俺のところに来ているじゃんか。授業中ですらこっちに来る気満々のくせに」
「うーん。ダメか」
けろり、といつも通りの笑みを取り戻す。
「色仕掛け、もとい涙仕掛けにしてやろうと思ってたんだけど」
「もはや通用しないぞ」
「だよねぇ。もう、長いからねえ」
彼女は言って、それから
再び、俺の膝の上に腰を下ろした。
「おい」
「ん?」
「何をしている」
「スキンシップ、かな?」
彼女は笑う。やめろと言っているだろうが。
「えー。もう頑固だなぁ」
「お前こそ頑なだな。どうしてそんなに座りたがるんだ」
「うん? 簡単な話だよ。私は君が…………」
そこまで言って、
「す……、スルメイカ!」
言葉を濁す。
「……あー、うん。美味いよね」
俺はいつも通り空気を読んでやることにする。
「そ、そう。美味しいんだよ。うん」
このぎこちない感じは素の彼女。演技じゃない。
中学三年の卒業式以来、ずーっと延期されてきたある一言の延長戦。
ここまでやっておいて、俺達はまだ恋人になれてない。
彼女が決して譲らない上に、言わないから。
でもまぁ、アレだよ。
待てって言うなら待ってやろう。
その程度の心の余裕はあるから。
「えっと……」
言いかけて、照れて、顔を赤く染めた彼女を見て、
「まったく、(可愛くて)辛いなぁ」
俺は小さく呟いた。