幸せが欲しかった少女
流血表現、狂気的表現があります。
苦手な方や年齢が15以下の方は読まないで下さい。
また、2つの童話を組み合わせているので童話を元にしたオリジナル小説と思っていただけばOKです。
これはもう何年も前のお話です……
とある国のフェルツーラという村にお母さんと女の子が住んでいました。
女の子はたいそう可愛くて、いつも黒いずきんをかぶっていたので黒ずきんと呼ばれるようになりました。
「黒ずきんや、このパンとお薬をおばあさまの家に届けて下さいな」
「分かりました、お母様」
お母さんからパンの入ったカゴを貰って、おばあさんの家へと向かう黒ずきん。
「ふふ、早くおばあさまを楽にしてあげたいわ…♪」
スキップをしながら森を歩いていく黒ずきん。
◇◇
森を抜けると木造の小屋が見えた。
黒ずきんのおばあさんはあの小屋にいるのだ。
コンコン、とノックをする。
「おばあさま、黒ずきんです。お薬を届けに参りました」
扉を開け、ベッドに近寄る。
「おばあさま、ご機嫌はよろしいですか?」
「おお、黒ずきんや……」
「こちら、お薬です。どうぞ、早く楽になってくださいね」
「黒ずきんや、ありがとう…ありがとう……」
おばあさんが薬を口に含んだ時、ニヤリと黒ずきんの口角が上がった。
「うっ……!」
バタリと倒れたおばあさんを黒ずきんは見る。
「おばあさま、もうすぐ楽になられますよ」
「その薬は……大変強力ですから」
「く、ろ………ずき………」
「全て、おばあさまのせいです。お父様が家を出ていったのも、それで私とお母様の生活が苦しくなったのも…」
黒ずきんはいつものかわいらしい表情はどこへやら、冷めたい目をしておばあさんを見下ろした。
「全て、おばあさまのせいです。全て、全て、全て全て全て全て全て全て全て!!」
「…どうしました?お父様が出て行ったのも、暮らしが貧しくなったのも、自分のせいではないと思いですか?」
「おばあさま、全ておばあさまのせいです。おばあさまは私のお父様を追い出した。自分だけ贅沢な暮らしをして、遊んでいた!おばあさまは一度も私達を見ようとしなかった!」「……全て………全て、おばあさま、の……!!」
「…さようなら、おばあさま」
黒ずきんは右手に持っていた包丁をおばあさん目掛けて振り下ろした。
黒ずきんの服が鮮血で染まる。
家は鉄の匂いが充満している。
「あは……あははは………あはははははははは!!これで、私とお母様は……!」
笑い声をあげた黒ずきんの目は狂気的だった。
……あれから70年近く時が経った。「鏡よ鏡、世界で一番美しいのは誰?」
あの後、美に酔いしれた黒ずきん。
黒ずきんだったこの魔女は寂れた塔のてっぺんで魔法の鏡にそう呟いていた。
「“それは、白雪姫です”」
「……」
鏡に幸せそうな白雪姫が映る。
「許せない…許せない!また私から幸せを取るのね!」
ふと見えた林檎が魔女の手に渡る。
「……そうだ、また薬を……!!」
幸せが足りなかった少女は幸せを奪う魔女へと変貌していた。
黒ずきんはこう言うのだろう。
「…これもあなたのせいよ、白雪姫……」
END