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黎明の空  作者: 綴樹
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山脈の村3


途中で雪花村にも寄ってみたものの、存在する村人がおらず無人の村となっていた。全員虫になって、食べられてしまっていたとしたら最悪だ。その村から約数十キロ先、山の中にその遺跡はあった。食料の補充も十分。いざとなったらスオウさんに転移してもらおうと最早上級妖魔族様に対する恐怖も薄れつつ(良くない傾向だ)遺跡へとたどり着いた、が。



「うん、いかにもって感じだよね。」



遺跡、のはずだった。



「なんですか!この無駄に豪華でけばけばしい空間は!」

「空間っていうか屋敷?」

「屋敷っていうかお城です。」

「そうかな?そんなに高価なものおいてないよ?そう見えてハリボテ。」



なにやら目利きのスオウさんを置いて、壁のあたりに手をやると不自然な感じがした。

多分自分の空間と遺跡をつなげているのだと思うが、いかんせん私ではその程度のことしかわからず、さらにこれからどうしたらよいかもわからない。

屋敷の真ん中、偉そうに幅を取っている鳥の銅像の横を通り過ぎながら、とりあえずスオウさんの見解を聞くことにする。人任せ?・・・というより私の実力の圏外の仕事なのでこればっかりはしょうがない。



「それで妹を誑かした性悪様の部下は何処です・・・ってきゃーーーーーーー!」



思わず悲鳴。

なぜなら手をかけようとした途端、鳥の像が動いたからである。



「リンシャは面白いよね~。」

くっそ一人だけ平気な顔しやがって。

いつかぎゃふんと(死語?)言わせてやる・・・。と思ったところで素晴らしい笑顔と遭遇。本当に学習しない私である。



『アーーー』



そんなことを考えていると徐に鳥の像が口を開いたので二度びっくり。壁に急いで張り付く。



『ニンゲンか?』

「は?あ、はい。」

『・・・なぜ我に気づかず侵入できた・・・?』

「ええとそれは多分後ろの方のお力で空間飛んだので。」

『・・・・?!』



私の指の先を追って鳥の像がスオウさんの存在を認めた・・・と同時にずざっと後ずさった。先ほどの私の行動をそのまますっかり真似してくださったわけである。



『何故貴方様が!山に篭って外界のことになど興味がないようでしたのに!』

「え、引き篭もり!?」

「リンシャ、とても面白いから黙っててね?」

「・・・はい。」



やはり素晴らしい笑顔に心臓が異様な速さで鳴り出した。

あらゆる意味で。

ぶっちゃけスオウさんが怖いので鳥さんがぜんぜん怖くない。ついでに言えば鳥さんって鳥頭ではないんだな、スオウさんにきちんと敬語が使えてる、という緊張感のまるでない感想も湧いてくる。スオウさんは偉大だ。



「一応ここは僕の縄張りなんだよ、わかるね?」

『は、はい・・・。』

「シュオルの部下である君が何を思ってここを根城にしたのか知らないけど・・・。」



何故だろう。目の前でスオウさんは確かにやわらかく笑っているはずなのに、寒気が。

私に対する微笑とは何かが違う、酷く重力を伴った微笑だった。

怖いを通り越して麻痺しそうになる。



『いいいいいいえ!すみませんでした!いますぐどこかへ行きます!』

「駄目だよ?僕らは君の退治をお願いされてきたんだから・・・死んでくれなくちゃ。」

め、めちゃくちゃ言ってるこの人!じゃない妖魔族!

『そ、そんな・・・。』

「だけど、もしかしたら恩情をあげられるかもしれない。」

ゆっくり言葉を切ってスオウさんは鳥さんの額に向かって人差し指を突き出す。鳥さんは恐怖のあまりか痙攣が止まらない。拷問現場を見ているようでこちらも震えてきた。

・・・実際はスオウさんが鳥さんの銅像におでこつんしてるだけなんだけれども。



「今、お前の主人はどこにいる?」

『は、ハイネル様は・・・』

「違う。一番上のあいつのことだよ。」

『彼の御君の居場所など我らは知りませんよ・・・。』

「そう。」

冷たく言ってスオウさんが軽く指を曲げる動作をする。ヒッと声を上げて鳥さんが泣き声を上げた。

『でででですが!彼の御君は最近気に入りの女ができたので根城にいらっしゃると思います!本当です!

それ以外のことは知りません!』



「ありがとう。」



ぴ、と指をはじく動作をしたと同時に鳥さんは掻き消える。

くるりとこちらを振り返ったスオウさんは極上の笑顔で述べた。



「さ、片付いたから虫にされてさらわれた村の人たちを探そうか。」



その後、私を気遣ったのか、「殺していないよ、異空間に飛ばしただけ」と楽しそうにのたまった。

どう違うのか私にはわからない。


結局鳥の妖魔族の名前さえわからぬうちに全て終了してしまったようで、城のように見えていた空間は崩れそうな石造りの建物へと変化していた。






 ***





「・・・・・やっぱ無理です!!!!」



薄暗い石造りの建物の中、虫たちを前に私は回れ右。


「リンシャ、一人ぐらい自分で戻せるように・・・。レベルアップにならないだろう?」

スオウさんが幼子をあやすように私の頭を撫でる。・・・そんなことを言われても。

うじゃうじゃと虫が倉庫内を這い回っている。隅のほうの光が届かないところにはかすかに光る赤い目が。



・・・とりあえずひとところに集めないでほしい。失神しそうだ。



そうこうする内にさすがに業を煮やしたらしいスオウさんが一匹の蝶を残して虫を人に戻し全て村に返してくれた。残った蝶は大きく羽を広げてふるふる震えている。アゲハチョウだと思う。小さい蝶なら美しいと思えるのだが、いかんせん大きすぎて逆に怖い。



ゆっくり落ち着いて。魔術の学校で習ったことを思い出す。これは呪いの一種だから・・・。

魔術を構成し、必死で戻れ戻れと祈りながら呪を唱えた。



・・・が、戻らない。



「戻れ戻れ戻れ戻れ・・・・」



ぶつぶつ言っても戻らない。まだ魔力が足りないらしい。必死で自分の中の魔力を掻き集めてもう一度呪を唱えると、ようやく現状に変化が起きた。

ちなみに息も絶え絶えである。

目の前のスオウさんがどんな顔をしているのかあまり見たくない。


蝶がそのままの色彩を残すように美しい女性へと転化していった。




・・・・・・・・・っていうか何も着てない。意識も無い。





「ぎやああああああスオウさん見ちゃ駄目です!」

「良かったねリンシャ。成功成功。僕は目の保養。」

「駄目ですってば!スオウさん何気にむっつりですか!」

「うーん、結構な美人だね。ちょっと食餌させてもらおうか。」

「え。」

「え、ってあのねリンシャ。僕だって食餌しないと生きていけないんだよ?」



思わず現実に引き戻されて動揺する。そういえばこの目の前にいるお方は一応妖魔族だったのだ。半分だけ、と言っていたがどう違うのかいまいちわからない。

半分人間、ということだろうか?



「そ、そうですよね。別に殺すわけじゃないですし、血の一滴や二滴・・・。」

「うんうん。」

「でもせめて布かけてからにしませんか。」

「ち。」



ち、って言ったよこの人・・・。

そうですかそうですか。一見誰もが見とれるような美形なお兄さんでも中身はスケベ親・・・



「痛たたたたた!!!」

「ふふふ、正直だよねリンシャは~。」

「耳、耳がちぎれる!!!だから心読まないでください!!!」

「読んでないよ?顔に書いてあるんだよ。」

ううう、目の前には極上の笑顔なのに・・・激痛が。

「すいませんごめんなさい許してください!」

全部同じ意味だよ自分!と突っ込みつつ、いたいいたいと足をばたつかせていると、徐に耳から手を放してスオウさんはけろりとのたまった。




「じゃ、血頂戴。」




誤字脱字あったらすみません。

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