山脈の村
人間の足で歩けるように、という要求を意外にもスオウさんはあっさり受け入れてくれた。妹を早く助けたいのは山々だったが、どちらかというと今から妖魔族の土地へ殴りこみ、というのはいささか心の準備が出来ていない。それにその亜空間は人の身には耐えられないそうで、その場を支配している妖魔王の庇護か、魔術師たちの一部が持っている特別なシールドを所持しなければならないらしい。それにはまず、師匠たちのいる魔術の塔へ行かなければならない。
とりあえず10年は大丈夫、とスオウさんのお墨付きを信じて、今は行動するしかない。
スオウさんが私の旅についてくる、と言う形を取っている以上、別に私が気を使うことは無いと思うけれども、一応。長い旅になりますよ、と言うと、長生きゆえの暇をもてあましている彼はあっさり了解の意を示してくれた。
「ローゼイラ貴国の沿岸にある岸壁からあいつのいる異次元へ飛べるよ。」
「ということは天城帝国を横断して、アルカンディス、神王国を経由して行くのが一番近道ですね・・・。その間に魔術の塔に寄らねばなりませんが。」
「ふふ、歩きの旅か・・・。人間だと思ってたころ以来だ。懐かしいなあ・・・。」
なんだそれは。
しかも何気に嬉しそうなのは何故ですか。
そんなこんなで山脈を越え、麓の刹下村へたどりつい-----------------------
「なんですかこれーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
「あらら。」
「あらら、じゃないですよ!どうなってるんですか!?ほんの数日前は普通の村でしたよ?」
「それを何とかするのが魔術師の仕事でしょう?」
「いやそうなんですが私にだって苦手なものが!!!ぎゃーーーーーーーーーー!!!」
「なんて色気の無い悲鳴」と面白そうに述べている男は完全無視。
私は目の前の虫の山から逃げ回る。
ムカデにクモにゴキブリにイモムシ・・・・の巨大化した群れが。
こちらを確認後、虫の群れは何故か私のほうへ。
「と、ととととりあえず燃えちゃってくださいませーーーーーーーーーーーーーー!!!」
懐から火の紋の符を取り出してばら撒きながら、叫ぶ、叫ぶ。
燃える燃える。しかし視覚には最悪。
ぐねぐねうねうね。
悶えながらこちらに襲い掛かっ・・・
「ぎゃーーーーーーーいやーーーーーーー人殺しーーーーー!!!!」
「・・・今明らかに違う単語が」
「火事だ火災だ親父だーーーーーーーーーーーーーー!!!」
「いやいや起こしてんの君だから。」
「そんなわけないじゃないですか!これはお師匠様の符なんです!!!だから火事の原因はお師匠様
ということにひいいいいいい!!!!」
「・・・それは責任転換って言うんだよ・・・まあ、面白いからいいけど。」
「って何で自分は結界張って悠々と見てるんですか!」
「人間は不便だよね。呪文唱えないと魔法使えないなんて。」
少し小首を傾げただけで私の周りがほのかに光り、虫たちが面白いぐらいにはじけ飛んでいく。
・・・ついでに視覚も隠してくれればよかったのにと少し理不尽なことを考えつつ・・・、改めて周りを見ようとして・・・見たくなくなって俯いた。
・・・吐きそうだ。
数日前、スオウさんの管理化の森へ行くためにこの村を通った。その時は普通の村だったのに、これはいったいどうしたことだろう?
いやそれにしてもスオウさんがひどい。
私を見て笑いをこらえているのが見え見えなのが酷すぎる。
「そういえば、リンシャはどの程度の魔術師なの?それによって僕の役割もいろいろ変わってくるだろうし」
「最下位です。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
即答したのに向こうは何故か沈黙。なぜ?
「・・・・・・・・ごめん。もう一回。」
「最下位です。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
信じられない、と言わんばかりにスオウさんは目を見開いた。それはもうぽかん、と言う感じに。
「・・・私そんな大物に見えますか?」
「や、見えないけど。」
そっちも即答かよ。
それにしてもスオウさんの結界は完璧である。今の最中でもべしん、べしん、という情けない音を立てて虫たちがはじかれているのだ。
しばらくして自分を取り戻したスオウさんは(気を取り直して、という感じが見え見えだ。)おそるおそる尋ねてきた。
「・・・ちなみに最下位の魔術師たちはどんな仕事を?」
「そうですね、大体は治療とかの薬を煎じたり、おまじないの呪具を作ったり、家とか建てるときの簡単なお祓い・・・とか。」
言ってる傍からスオウさんががっくりと言う感じに肩を落としていく。
「・・・まさか、まさかそんなレベルで妖魔王に会おうとしていたなんて・・・・。」
いやだから別に、戦闘行為をするために探していたわけではないんですってば。
ただ妹を殺した方がどのような人・・・いや、妖魔族なのか見極めようと・・・。
「にしたって無理があると思うけどねえ・・・。」
あまりに才能の無かった私をお師匠様が心配していろいろ札やら何やら持たせてくれたのだ。はっきり言って荷物のほとんどが師匠の呪符である。
「それっておちこぼれって言うんじゃ「ほっといてください」」
まあ気を取り直して。
「と、いうわけでお願いします。」
やっつけてくださいと率直に頼んでみた。勿論お辞儀して。せっかく付いてきてくれてるし、自分の身の丈にあったことをしないと。
「・・・すごい簡単に・・まあいいけど。」
そう言って、彼はつい、っと手を振りました。
それだけ。
ただ、それだけの造作でした。
その町の虫たちは綺麗に人の形になり・・・・。
「え、人ですか!?」
「うわ~~~~~~~~火事だ!」
「水!水持って来い!」
「誰がつけやがったんだ!!!」
・・・・・・・・・・・・・大騒ぎになりました。
誤字脱字あったらすみません。