境界線4
すいませんすいません。半年ぶりです。
「・・・・・。」
「・・・・・?」
「・・・・・。」
「・・・・どうしたの?リンシャ。」
目の前のスオウさんに数秒固まっていると、心底不思議そうに問われてしまった。
いやいやいや。
どうしたの、ではないでしょうに。
なんでこんなところに。
どうしてそんな姿で。
色々聞きたいところは満載だったが今一番問いたいことはただ一つ。
「・・・サクラ姫はどこへいったんです?」
「え、最初にそれ?もう少し僕に再び巡りあえた感動とかそのあたりないの。」
「だってスオウさんは殺しても死なないじゃないですか。」
本当のことを言ったのに若干スオウさんが傷ついた表情をした。何か私おかしなこと言いましたっけ?
若干混乱しているので自分が変なことを言っているのかそうでないのかもわからない。
空間はぼやけた感じになっていたけれど、スオウさんは少年のままだった。
身長は私と同じか少し高いくらい。
こちらへ歩み寄ってくるスオウさんに駆け寄ると、とりあえず詳細を尋ねる。
「お久しぶりですスオウさん。ところでその姿はなんで今までどうしてというか本当にまさかの愛の逃避行」
「・・・リンシャ、言いたいことは頭の中で考えをまとめてからしゃべろうね?」
尋ねたけども遮られた。
「ええとですから愛の逃避行をしていたスオウさんが少年の姿でいえその前にここはどこで何故妹とか私が出てきてえーと」
「・・・・・・・・。」
肩をぽんぽん叩かれて「落ち着いて、息吸ってー吐いてー」と言われて深呼吸を数回。
ようやく落ち着いてきたと思ったら気が抜けてあっさり堪えていたものが零れてしまった。
「え、リンシャ?」
「う、う゛ぇ、す、スオ、さ、」
慌てたようにスオウさんが覗きこむ。
まあ、格好つけてもどうしようもない。
はっきり言おう。
つまり私は号泣した。
たぶんおそらくきっと、おそろしく情けない顔になっている。
呼吸も上手くできなくて、かすれた悲鳴があがる。
それでもぼろぼろぼろぼろ勝手に目から液体が溢れ出て、スオウさんの顔も良く見えない。
「う゛わあああああああああ」
自分が何故泣いているのかもよくわからず、何故止まらないのかもよくわからず漏れ出る嗚咽も何やら情けないことこの上ない。
ここで美しく再会の感動に涙を流せば少しは自分のことをほめてやれるかもしれないがこれではただ迷子の子供が親と遭遇したときに安堵して泣き喚くのと同じである。
・・・恥ずかしい。
そう思うのに少年のままの優しいスオウさんは泣き止むまでずっとよしよしと頭を撫でながら抱きしめてくれていたのであった。
・・・・本当に、あの、正気に戻ったときの恥ずかしさといったら。
********
「・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・。」
「・・・・・ええ、と、大変、お恥ずかしいところをお見せいたしまして・・・。」
「それはいいけどリンシャ、なんでそんなに離れてるの?」
ようやく声が届くぐらいの距離をあけ、恐縮しながら先程のご無礼を謝り倒していると、困ったようにスオウさんが手招きする。
いえいえ、そんな恐れ多い。
全力で首を振りながらさらに後退。
しかし目の前のスオウさんがふ、と消え、すぐ後ろに姿を現した。
な、なんで今近づくんですか恥ずかしいんですけど。
「とりあえずこっちにおいで。」
手招きする方を見遣ると再び先程の風景が姿を現した。
「え、これどうなってるんですか?」
「どうやらこの空間はこれまで育ってきた空間を再現できるみたいだからね。・・・まあもう一つ効力があるみたいだけど。僕が生活してきた中で一番平穏なところを再現してみたんだよ。」
一番平穏なところて一体スオウさんはどういう環境で育ってきたんですか。
「体が小さくなっているのもそのせいですか?」
「いや、これは自己防衛。」
「?」
異国風の建物に招き入れられて、とりあえず敷物に腰を下ろした。
「ここって、紅自治区じゃないですか?」
「そう。僕の父親の故郷だよ。」
さらっと重要なことを告げられてしまったような気がするのは気のせいか。
『紅自治区』。
天城帝国の東に位置する孤島。
この世界以外から来た神様を奉る一族が住んでいるところ。
そもそもそこに住む一族はもともとこの世界の住人ではないとかなんとか。
閉鎖的で魔法に優れた民族であり、詳しい情報は外部に漏れていない、不思議な国である。
私知っていたのは、先祖の一人(お忘れかもしれないが一応リンシャは高名な魔術師の家の出である)がその民族と交流をもっており、その独特の模様の工芸品等が家に置いてあったからである。
「さて、どこから話そうかな。」
少年姿のスオウさんはよっこいしょと隣に腰かけると腕を組んで小首をかしげた。
一か月離れていたせいかなんとなく視線を外せずぼーっとスオウさんを観察してしまいそうになるのをこらえて続きを促す。
「とりあえず夢の中の事件は解決したんですよね?」
「そう。どうも目的は彼らの魔力を吸い取ることのようだったから・・・流れを断ち切ったんだけど、向こうに気付かれてね。まあ、気付かれたところでどうにもならないから戻ろうと思った矢先、サクラ姫があの女に同調しちゃったみたいなんだ。」
「同調?」
「・・・・・。」
その途端、スオウさんは苦虫を噛み潰したような顔になった。
「好きな男を自分のものにしたいってね。」