境界線3
静かな草原に、二人の子供が歩いている。
何処の草原かはわからない。
ただそこは悲しいほどに静かで、空はどんよりと曇っていた。
一人は金色の髪、翡翠の瞳の子供。
一人は紺色の髪、紅玉の瞳の子供。
全く色合いは異なるのに、どこか似た雰囲気を持つ子供たち。
顔立ちは似ているがその表情は対極。静と動。
金色の子供の表情は光り輝き、紺色の子供は酷く大人びた、静かな表情だった。
金の子供は楽しそうに歩き、紺の子供はただまっすぐ前方を見遣っていた。
しばらく歩いていたが、ふと紺の子供が目線をあげた。
金の子供は気づかない。
何があるのだろうとそちらを見遣ると、空間を裂いて白い女が姿を現した。
(・・・スオウさんの、お母さん・・・。)
白い女は両手を瞳と同じく真っ赤に染めて微笑んでいた。
血。
それでも金の子供は顔を輝かせて母の元へ走る。
紺の子供は足を止めてその光景をじっと見ていた。
すると不思議なことに、白い女の髪が金色になった。
金の子供と同じ、色に。
やがて白い女は金の子供を血に塗れた腕で抱き、その場から姿を消した。
紺の子供はただ、その光景をじっと見ていた。
***
「おかあさん」
場面が変わった。
高名な魔術師の家、その一室。
壁や柱には呪術的な装飾が多様に施され、いたずらをしようものなら拳骨ではすまなかった。
その部屋にはやはり小さい子供が二人。
金色の髪、翡翠の瞳の子供。
茶色の瞳、灰の瞳の子供。
・・・・私と妹、か。
先程の兄弟と違ってまったく似ていない姉妹。
表情も似てはいない。
輝くばかりの表情の金の子供とどこかおどおどした茶色の私。
金の子供はドアの方に向かって再びお母さん、と声をかけた。
私は不思議そうにドアを見ている。魔法の力をほとんど持たない私は気配一つ探れないのだ。
しばらくしてドアを開けて母が入ってきた。
金の子供は嬉しそうに母に飛びついた。
私はじっとその光景を見ている。
あれ。
なんかおかしい。
母は飛びついてきた子供を見て少し驚いた顔をした。
しばらく腕の中の子供を不思議そうに見ていた母は、私を手招きして部屋から出て行った。
金の子供は腕に抱いたままで。
いやいや違和感が半端ない。
なんだ?
なにがおかしかった?
そうだ。
母だ。
母は、妹と同じ金髪ではなかったか。
それなのに、この映像の母は、何故私と同じ茶色の髪だった?
***
どこか東の国を連想させる建物、その広い一室にこれまた民族風の衣装をまとった少年が座っていた。
ああ、また場面が変わった、ときょろきょろ周りを見回す。
三度目ともなるとなんとなく落ち着いてしまう。どうせ向こうはこちらが見えていないのだ。
つまりあの部屋の中心で座っている美しい少年が・・・。
(・・・スオウ、さん。)
目を伏せ、瞑想しているかのようなその姿。
何を考えているのだろう。
(もうちょっと、近寄っても。)
ふ、と少年が目を開けた。
(・・・うわあ、少年でも色気半端ない・・・。)
さすがスオウさん、とよくわからない賞賛を送り・・・こちらを見ている少年と目が合った。
(え、あれ。)
そう、今、目があっているのだ。
いや、もしかして合っているような気がしているだけ?
よくわからなかったのでとりあえず猿のポーズを取ってみた。
「ぶ、あはははは!」
噴き出された。ばっちり見られている。
いやいやいや。
(な、なんで!?)
「ああ良かった元気そうだ。久しぶり、リンシャ。」
にっこり笑って少年が手を振った。
気を失いそうになった。