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黎明の空  作者: 綴樹
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境界線2


魔術の塔、というのは、アルカンディス魔法自治区所有の異次元との境界と接している塔のことである。

この世界には元々妖魔族と人間しかいないが、他の次元からも別種族がやってくることがある。

その場合突如空間を裂いて現れるのだが、その発生率が異様に高い、恐らく別の次元との接触地点となっている・・・それが魔術の塔である。

なぜそんな名前がついたのか、授業中単語が右から左へ抜けて行く私にはさっぱり残ってはいないがおそらく勤勉な兄弟子あたりなら知っているだろう。

つまりこの塔の中には見たこともないような化け物達がうようよいるのである。



妖精さんとかいないかな。可愛いやつ。



なんとなく現実逃避をしながらひたすら足を動かす。


右、左、右、左。



「カメリア様はちょうど50階、憩いの間にいます。」



落ち着いた兄弟子の声にかぶさるように断末魔が響き渡る。


気にしない気にしない。

右、左、右、左。



「まだ12階ですよ。まさかこんな低層でへばったのではないでしょうね?カメリア様をお待たせするなんて言語道断。死んでも歩き続けなさい。」


死んだら歩けません。


右、左、右、左。


目の前を魚人が泳いでいった。

空気抵抗やら重力やらを色々計算してみたいところだ。

今、腐乱死体を踏んだような気がする。

くにゃってした。くにゃって。


右、左、右、左。


「おや、また侵入者がいたようですね。あちらに人間の死体がたくさんありますよ。」


それに群がってるのがなにかなんて考えない考えない。


右、左、右、左。


「・・・・リンシャ。人がせっかく気を使って話してやっているというのに無視するとは何事ですか。」

「・・・・・・・・。」

右、左、右、左。



「・・・リンシャ?結界解きますよ?」

「すみませんごめんなさい!!!!!!でも周りを認識したくないんです!!!!」



現在私は魔術の塔を師匠の所へ向かっている。

天下無双の師匠の結界に守られながら。


優しい師匠は私用に結界石を作ってくださっていたのだ。

これさえあれば他人が私に近づくことはできない。近づいてきた有象無象をばしばし弾いて進むことができる。

けれどこの結界は透明で美しいオレンジ色。周りの酷い状況も手に取るようにわかるのだ。


誰が見たいものか。血みどろグロテスクな周りの状況を。

ああ、また死体の山が。



「それにしても師匠は何故こんなところに。」

「ご友人になにか頼まれたそうですよ。まったく。カメリア様をこのようなところへ呼び立てるとは・・・。」


ぶつぶつ呪いの言葉を吐き始めた兄弟子に恐れおののいて被害者の方にエールを送る。

見た目天使の顔がどす黒く染まっているのは見ないふり。全力で顔を逸らした。



そのまま黙々と歩き続けること数時間。

どんだけ一フロアが広いんだこの塔。一本道なのはありがたいが何せ無駄に疲れる。

足が鉛のように重くなってきた・・・。



「あのー、今何階でしたっけ?」

「26階ですが。」

「だ、大分上りましたね・・・。」

「まだ半分ですよ。」

「も、もう足が・・・。」

「なんですって?」


どうやら早く師匠に会いたいらしい兄弟子は鬼の形相で振り返る。



・・・怖い。



「・・・なんでもありません大丈夫です。」



そうは言うものの、足はふらふら、呼吸も覚束ない有様で、とてもじゃないがこのまま進むことは不可能だ。


しかし事態はここで暗転する。

一息つこうと壁に手をやった・・・とたん、ずずず、と音がして建物が揺れはじめたのだ。


「のわああああ!私のせいじゃありませーん!!!!」

「何を阿呆なことを言っているんです!・・・カメリア様!」


タイミングが良すぎて思わず弁解してしまったが、兄弟子は取り合ってくれずそのまま最愛のお師匠様のところへ駆け上っていった。

正直私は追いかけられない。

師匠が心配だからといって無力な私を放置していくとは・・・。

足跡が遠ざかっていく音だけが木霊し、私は置いていかれたことに愕然としながら揺れが収まるのをひたすら待つ。



「ああもう、これがスオウさんならあっさり50階まで転移してくれ」



るのに。と続けようとして思わず言葉を引っ込めた。


いつからだ。


いつからこれほど怠慢になった。



「悪い傾向だ・・・。」

今はいない半妖魔族の青年にあなたのせいですよと悪態をつきながらひたすら前を目指す。

聞こえてるよ、リンシャ。と声が聞こえた気がして振り向いた。


・・・・本当に、悪い傾向だ。



揺れが酷くまっすぐに歩くこともかなわない。

壁伝いに必死で足を動かして、ようやく次の階へ。階段を何かの首が転がり落ちていき、とっさに目を瞑る。

転がり落ちていった固体が通り過ぎたのをじっと待ってからそろそろ目を開けるが何も見えない。


「そうか、真っ暗なんだ。」



光が一つもないフロア。

右を見ても左を見ても闇、闇、闇。

足は動いているが、平衡感覚を失いそうでリンシャはとっさに走り出した。


「一直線に駆け抜ければなんとかなふごおお!!!」


ごつ、と壁と激突してひっくり返る。

同時に足元にあったなにかぬるっとしたものに足を取られてバランスを崩し・・・。



後頭部に衝撃を感じた瞬間、意識がフェードアウトしたのは言うまでもない。


恥ずかしい、誰も居なくて良かった・・・と意識を失う前に思ったとか思う暇がなかったとか。





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