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黎明の空  作者: 綴樹
13/28

雪の降らない町5

『たすけなければ、あの人を。』



雪の中、彼女は虚空を睨みつけて決意した。



『必ず、助けてみせるわ・・・。』



*****



「リンシャ。」

「ぎゃあああああああああ!」


目を開けると目の前に恐ろしく綺麗な顔があったらどうするだろうか。

叫ぶだろう。

確実に。



「また、夢を見てた?」

「ええ、はい。」


動悸を抑えつつ答えると、スオウさんは顔をしかめて目の前の壁を睨んだ。


今、スオウさんと私は指輪を持って雪花遺跡にいる。

スオウさんの力を使って転移しただけなのでそれほど疲れてはいない。

しかし遺跡の一番奥の壁に突き当たったとき、唐突に眠気が襲い・・・恐らく魔力が吸い取られたんだと思うが・・・倒れてしまったというわけだ。


「この壁にうっすらとだけど転移陣の跡がある。500年前のものかな?古い。この先に、リンシャの力は送られているんだと思うけど・・・。」

「いったい何のために?」

「それがさっぱりわからないね。・・・とりあえずこの先に進んでみるけど、リンシャはどうする?」

「ついていきますよ自分の問題ですし!」

「じゃあお手をどうぞ、お嬢さん。」


スオウさんが茶目っ気たっぷりに私の手を取った。

そのまま「よいしょ」と掛け声をかけてずぼ、と壁に入る。



「えええええ、そんな情緒のない入り方!?」

「だいたいこんなものだよ。」

「さようでございますか・・・。」


そのままずぶずぶと壁に入り・・・・目を開けると。




「・・・、雪・・・。」



一面に雪が舞っていた。



「なるほどね・・・。」

スオウさんが得心がいったと頷く。

「このあたり一体の雪をこちらに移していたんだ。一年間常に降り続けるように。だから雪が降らなかったんだろうね・・・。」



雪、雪、雪。


真っ白な世界。

最初に見たあの光景を思い出す。

そしてその真ん中に、巨大な氷のオブジェがあった。

その中に人影。

氷が厚すぎて誰が眠っているのかわからない。

巨大な氷は天高く聳え立ち、恐ろしいまでの威圧感を放っていた。

その現実にありえない、幻想的な風景にスオウさんの髪がなびく。

真っ白な世界。

吸い込まれそうな暗闇に溶け込みながらもどこか艶めいて光る紺色の髪。

そして輝く赤い目。



「寒。」

「情緒!スオウさん情緒考えてください!!!」

「リンシャ。現実は受け止めないといけないよ。」

「私の感動を!感動を返してください・・・・!!!!」


幻想的な風景に溶け込んでいる幻想的な美しさのスオウさんを見て感動したのに何事か。

情緒なんぞ何も感じないらしいスオウさんは寒いからとっとと済ませたいといわんばかりに氷に近づく。



「これは、妖魔族の仕業だね。」

「そうなんですか???」

「かすかに気配がする。・・・・・・僕の大嫌いな気配だ。」


最後の言葉を吐いたスオウさんがいつになく険しい顔をした。

シュオル、という妖魔族と何か関係があるのだろうか。それとも別件か。


「とにかく壊してみる?」

「・・・壊して大丈夫なんでしょうか。そもそも一体何のためにこれが・・・。」

「リンシャの魔力は間違いなくこの奥の人物に届けられている。」


そういうとスオウさんはそっと氷に触れた。


「・・・多分、今この氷を溶いたら・・・この奥の人、死ぬね。」

「どういう、ことですか?」

「この氷には時封じの呪が掛けられている。永遠に死なない、けど、動くことも出来ない。」

「な、なんのために・・・?」


サユキさんが妖魔族と契約して、っていうのはどうだろう?でも永遠に命を永らえさせてどうするんだろう。



「・・・確か、必ず助ける、って言ってた・・・。」



そうだ。サユキさんは必ず助ける、と言っていた。



誰を?



「ナユタさんを、助けるってこと・・?」



ナユタさんを。彼女は助けようとした・・・?

雪景色の中にいるのは、おそらく男性。

つまりこれは、ナユタさん?



「・・・ということは、ナユタさんを氷付けにしたのは・・・。」

「リリィだろうね。」

「うわあ!」


いきなりスオウさんが思考に入ってきたので変な声を上げて飛びずさる。

どうやら心も読まれていたようだ。


「リリィさんが妖魔族・・・ってことは、ナユタさんは・・・。」

「御伽噺と真実が一緒とは限らないよ。・・・リンシャ?」

「・・・すみません・・・。」



また眠気が襲ってくる。

足元がおぼつかなくなり、目の前がゆれた。

スオウさんの腕がとっさに支えてくれる。

そのまま意識が消えるかと思ったが、なにやら膨大な何かが体の中に流れ込んできてそうはならなかった。

はっとして目を開けると、スオウさんの手が眉間に当てられ、そこから魔力を流し込んでくれたのだとわかる。

・・・しかしこれは。


「す、スオウ、さん、流しすぎ・・・。」

「え!?今ほんとに気を使って物凄く少量にしたのに・・・!?」


動揺した声が降ってきた。

本当に気を使ってくれたらしいが、それでも私の許容を遥かに上回ってしまったらしい。

気分が良くなりすぎて逆に気持ち悪い。

酔ってしまったようだ。

しばらくぐるぐるしていたが、ようやく慣れてきた。


「ええと、とりあえず、ありがとうございます・・・。」

「うん。じゃあ、この氷壊してしまおうか。」

笑顔でさらっとスオウさんが破壊論を提案した。

「いやそれ、中の人死んでしまうって・・・。」

「だってリンシャ、辛そうだし。」

「いやいやいやいや!!!私が辛そうでなんでそういう結論に!」



「リンシャ。」



ふと真面目な声になって、スオウさんがこちらを見た。

相変わらず芸術品のような繊細な容姿。

秀麗、というか、彼の場合艶麗、というか。

赤い瞳に見据えられると呼吸が止まる。

案外顔が近かったのでついうっかり後ずさりをしようとしてがし、と腕をつかまれ止められた。


「ひ。」


怯えて声にならなさそうな私を見てスオウさんはうっとりするような笑みを浮かべる。

あのスオウさん楽しんでいらっしゃいませんか。

「あのね、リンシャ。僕は結構君の事を気に入ってるんだ。」

「は、はぁ。」

それはなんとなく。というかそうでなければ着いてきたり助けてくれたりしない・・・。

しかし一体私の何処に気に入る要素が。

そのまま内緒話をするように顔を近づけられておもわず目を瞑る。

「僕らは気に入ったものをね、他人に好きにされるのが許せないんだよね。」


それは妖魔族の習性。

自分が気に入ればそれを自分のものにしたくなる。

強大な力を持った彼らは玩具の如くそれを欲する。


人を。国を。城を。


山を。谷を。花を。


普段は見せないスオウさんの妖魔族の習性を垣間見て、ぞくりと背筋が戦慄く。



「でもリンシャが望むのなら殺さないで解決してあげてもいいよ。」

「え。」


思わず目を開けて、後悔してすぐにまた瞑った。

駄目だ。ドアップはまだ耐えられない。

いつのまに吐息が触れるほど近づいたのだろう。

ついでにいつの間にか腕をつかんでいた手が腰に回っているのを発見。

力は入っていない。

支えてもらっているだけなのに、体が全く動かない。

頭の中で警報がなる。

やばいやばいやばい。

今のところこれが限界値だった。


「望みます望みます!ついでにもう大丈夫ですからはなしてくださいいいいいいい!!!!」


半泣きで叫ぶと案外すんなり腕が離れ、大変楽しそうなスオウさんが視界に移った。

この性悪な妖魔族の御方はどうやら私の反応を見て楽しんでいたらしい。

なんて悪趣味な。



「じゃあリンシャの望むままに。あ、お礼に後で血、頂戴ね。」

「はいはいはい・・・。」



なにやらどっと疲れて私はスオウさんを見送った。


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