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黎明の空  作者: 綴樹
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雪の降らない町4


「その子供は即死。サユキは目の前の夫婦の表情と、町人たちの表情と、足元の赤い血溜りを見て、ようやく我に返ったといいます。・・・そしてそのまま半狂乱になって逃げ出しました。そのときのショックでリリィは子供を流してしまったそうです。憎悪と共にナユタとリリィはサユキを追いかけました。しかし見つからない。上級の魔術師二人が探してもサユキは見つからなかったのです。そして三年後、彼らは変わり果てた彼女を見つけます。」



「彼女は、どこに?」



「今の雪花遺跡に。・・・妖魔族に半分食われ、それでも妄執に囚われて逆に妖魔族を喰らい、その四肢を得・・・彼女は半分魔物と化していたといいます。このままではこの村もいつかサユキに滅ぼされてしまうかもしれない。しかしそんな遺跡にリリィを近づけるわけにはいかない。ナユタはこっそり自分の両親に事情を話し、リリィを匿ってもらうように頼みました。ナユタの両親は勿論驚きサユキに同情しましたが、自分の息子が帰ってきてくれたことを喜び、リリィの美しさと悲しい儚さにも同情し匿うことを約束しました。」



「・・・なんか完全に彼女が悪役ですよね・・・。」

「はいはいリンシャ。続き聞くよ。」

「わかってますけど・・・。」




「しかし危険を冒して魔物を退治しに行く夫に、リリィは自分も付いていくと言って聞きません。私には貴方しかいない、と泣きじゃくる彼女に、ナユタは自分の魔力を結晶化し赤い指輪を作ります。これが自分の分身だから、自分が帰ってくるまでこれをもっていてほしい、と。決意の固いナユタにリリィは迷いながらも彼を送り出しました。しかし彼は一日経っても戻ってこない。リリィは不安になって赤い指輪をナユタの両親に託し止める彼らを振り切って石造りの城へ向かいました。そこで彼女が見たものは・・・血まみれで地に伏している夫と、同じように血まみれでありながら辛うじてまだ息のある魔物でした。彼女は叫び、夫のもとへと駆け寄りましたがナユタはもう息を引き取った後。リリィは絶望しながらも夫の遺志を継ぎ、サユキだった魔物を殺しました。その後、心配して駆けつけたナユタの両親が彼女に追いつき、変わり果てた息子の姿に涙しました。彼らは息子の亡骸を家に連れて帰り、その晩・・・少し目を放した隙にリリィが夫の手を握ったまま自害しているのを見つけます。」



机の上に目をやる彼女に、その赤い指輪がこの目の前にある指輪なのだろうと推測する。



「村人たちに事情を話し、棺の中に悲しいその夫婦を入れ彼らを英雄として丁重に埋葬したのだと言います。そしてそれ以来、不思議なことに遺跡周辺では全く雪が降らなくなり・・・サユキの祟りではないかと恐れた村人たちが徐々にそこを離れ、この村が出来ました。」




*****




彼女が語り終え、去って行った後もしばらくサユキのことを思った。


夢に出てきたあの女性は、サユキなのだろう。少なくとも白い髪ではなかった。


「少なくとも悲しんではいましたが、狂気に犯されているようには見えませんでしたけど・・・。」

「何の話?」



不思議そうに聞いてくるスオウさんに、一応夢の内容を告げる。

妄想だ、と言われてしまうかと思いきや、真剣に考え込んでしまった。


「なるほどねぇ・・・。話の後半にサユキの両親は出てこないし・・・。それにその指輪がナユタの魔術で作られたものなら、魔力を吸い取るなんてことはないだろうし。」



しばらく考えて、よし、とスオウさんが立ち上がった。



「リンシャの体調が整ったら、もう一度遺跡に行ってみよう。」

「ええええええええ。素通りしないんですか!?」


ついうっかり本音が出てしまう。

スオウさん、まさか面白そうだからって首突っ込んだんじゃ、いやいや違う。きっとあの女の人が美人だったからか。やっぱりスオウさんむっつり・・・

「ふふ。」

「ごめんなさい!!!!!」

途中でスオウさんが目を細めて微笑んだのでとっさに謝った。条件反射だ。

しかし慌てる私をよそに、スオウさんはふう、とわざとらしくため息をついた。



「リンシャ。君一応魔術師だよね。」

「え、はい、一応・・・。」

「じゃあ自分が今どんな状況にあるかぐらい把握しなさい。」

「え。」



慌てて自分のうちを探ると、なにやら変な感じがする。なんだこれ。

・・・・・いや。まさか。そんな。これは。



「まままままさか。わたし。」

「うん。」

「あの指輪に・・・。」

「魔力取り込まれてこの土地に縛られちゃってるみたいだねぇ。」

「ぎゃああああああやっぱり!?」



どうやらあの指輪に定期的に魔力を送り込む餌にされてしまっているようだ。

これはますますおかしい。

どうしてそんなに魔力がいるのだろう。



「どどどどどうすれば。」

「僕が強制的にはがしてもいいけど・・・そうするとリンシャのほうが僕の力に耐えられなくてぱーん、と、破裂しちゃうね。」

「いやーーーーー!!!」

「大丈夫大丈夫やらないから。そうなるとやっぱり指輪の謎を解くしかないでしょ?」



なにやらとても楽しそうなスオウさんを横目に、力なくうなだれる。

どうやらそれでスオウさんは積極的に話を聞く気になったらしい。

また迷惑をかけてしまう。謝ろうと視線を上げると、やはり楽しそうなスオウさんの楽しそうな呟きを耳にしてしまった。




「探偵ごっこ、してみたかったんだよねぇ・・・。」




こっちは死活問題なんですが。

雪の降らない町、思ったより長くなりそうです。

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