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黎明の空  作者: 綴樹
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雪の降らない町2

二話ほど誰かの過去話です。


「昔、この町はあの遺跡の周辺にありました。冬になれば一面雪景色になる美しい町だったと言います。」

「山のふもとですからね・・・。」

「今、あの遺跡の周辺には雪が降りません。」

「え。」



驚きに目を見張る。それはどういうことだろう。



「あの周辺だけが、降らなくなってしまったんです。」




**************



500年ほど前、村に一人の若者がいた。


名はナユタ。


彼は幼い頃から才覚を発揮した優れた魔術師であった。

この天城帝国の首都、天城に招聘され、20歳にも届かないうちから様々な功績を残し、天才魔術師として持て囃されていた。



そんな彼が田舎の実家に帰ってきたのは、結婚のためだった。

幼い頃からの幼馴染の女性、サユキとの。



勿論何の障害もなかった。

帰ってくるたびに両親よりも先に彼女の元へ駆けつけ、尚且つ月に一回は彼女を王都へ招くほど仲のよい二人は、両親は勿論、村中の人々から祝福されていた。




あとは結婚式を待つばかりとなった冬の最中、サユキは村のはずれで女性が倒れているのを発見した。

輝く白い髪は雪に埋もれ、唇は紫色に変色していたが、まるで雪の精霊のような美しい少女であった。



これは大変、と、サユキは彼女を家に連れて帰り、火を炊いて暖めた。

薪が切れてしまいそうになった頃、ナユタが家を訪ねてくる。



ナユタに理由を話し、父にお願いして薪を運び入れてもらうから、少女を頼むとサユキは願い、ナユタはこの心優しい幼馴染を思って優しく頷いた。




サユキが外へ出たその頃、倒れていた少女は目を覚ます。



「貴方は、誰ですか。わたしはどうしてこんなところに。」


「僕はナユタ。この村に住んでいる魔術師。君の名前は?」


「わたしは。・・・わたしは、リリィ。」



軽く目を伏せ心細げに答えた美しい少女にナユタは思わず目を奪われ守ってあげたい衝動に駆られた。

けれど彼には愛すべきサユキがいる。




「君はこの村のはずれで倒れていたんだ。それを僕の婚約者が見つけて連れて帰ったんだよ。」



「そうなんですか・・・。ありがとうございます、ナユタ様。婚約者様。」



にっこり微笑んだ彼女はとても愛らしく、ナユタはしばらく自分の心と葛藤を繰り返す。



「どうして倒れていたか、話せるかい?」



そう尋ねると、リリィははっと目を見張り、大粒の涙を流しながらナユタに取りすがる。



「どうかお信じください。この村の危機なのです。」



困惑しながら事情を尋ねると、こういうことだった。



この村の近くに石造りの建物がある。そこは妖魔族の住む城の一つ。

実はリリィの住む別大陸の村にも同様の建物があり、ある満月の夜に突然妖魔族があふれるようにそこから出現し村人たちを攫って行ったのだ。

偶然物置にいた自分は見つからず、詳細を他の村の人や魔術師たちにも話したが、建物には何もおらず住んでいる形跡もない。

そればかりか魔術の痕跡もないのだという。

彼らはリリィの言葉を信じず事件は放置された。



「わたしは納得できず、手がかりを探して旅をしました。」



そして隣の国で同じような建物を見つけた。

しばらく滞在したが特に何も起こらず、また次の村へと移動した頃、重大なことに気づく。

その日はあの時からちょうど一年前後、満月の日だということに。

慌てて引き返すと、その村にはもう一人も人はいなくなっていた・・・。



「証明してもらおうと城の者を呼んだのですが、やはり何も見つけられず・・・。」



それでもなにか手がかりをと旅を続け、この村を探し当てたのだという。


「どうか、お信じください・・・!」

「信じるよ。」



涙ながらに訴え震えるリリィの愛らしさに思わず肩を抱きしめ、力強くナユタは頷いた。

この少女はこんなに儚い風情でありながら気丈にも謎を追い続けているのだ。

ナユタがはじめて信じてくれた人だとリリィは嬉しそうに言い、満月の夜はちょうど一ヵ月後だと伝えた。


帰ってきたサユキに事の次第を伝えると、彼女は恐ろしそうに身を震わせた。



「なんて恐ろしいこと。」

「真相を確かめに、明日少し石造りの建物を見てこようと思うんだ。」

「でも危険ではないかしら。」

「大丈夫。僕を誰だと思ってるんだい?」


自信たっぷりにナユタは言い、ようやくサユキは安心した顔を見せた。


「私も連れて行ってください。これでも魔術師としての実力は高いのです。」


サユキは驚いたように言う。


「あなたも魔術師だったのね。・・・でも貴方は倒れそうになっていたのよ。もう少し休まないと。」

「いいえ。やっと真相がわかるかもしれないのですもの。じっとしてなんて・・・。」


目を伏せた儚くいじらしい態度にサユキは何も言えなくなり、ナユタは頷いた。




「わかった。大丈夫、サユキ。リリィは僕が守るから。」




サユキはナユタが力強く言うのを頼もしく感じながら、雪のように儚く美しいリリィを見て少しだけ不安を感じていた。


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