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Dive  作者: 檸檬
7/12

Dive7

 ヤーウェにはパッシブスキルというスキルが存在する。それは常時発動しているスキルであり、特別使用する必要も無く、影響、効果を与えてくれる物である。


 彼がマスターとなった二つの職業。格闘家モンクと召喚師。その二つにも多くのパッシブスキルが存在している。むしろそのパッシブスキルが職業の特徴を出してるともいえる。このゲームにはキャラクター自身のレベルは無く、職業のレベルが全てとなっている。正確には職業レベルを上げて得られるスキルが、であろうが。


 話を戻そう。格闘家モンクのパッシブスキルとして有名なのはHP増加、回避率増加、武器未所持による攻撃力増加、オート回避等が有る。そして召喚師はMP増加、召喚キャストタイム減少、召喚獣強化等が有った。


 マスタークラスを得るということはバッシブスキルも引継ぎできるという事で、単純な話、彼は300+300+280、つまりLv880と言っても過言ではなかった。如何考えてもバランスブレイカーも良いとこだろう。なにせ、見た目完全な呪術師でありながら、Lv60のグリズリーを素手でタコ殴りにしていたのだから。










 Dive 7

 冒険者、そもそもその仕組みが理解できない










「ギルドねぇ……、やはり加入したほうが良い、か」

 正直な所ギルドは一度加入している。テスターの時にだが。しかしこのギルドシステム実は配布されるギルドカードに番号が振られていたのだ。俺がたしかNo,3だったはず。しかし、ゲームが開始される時、一桁ナンバーを抽選形式、もしくはイベントの景品にしようとの事で俺達テスターのギルド登録はデリートされたのだった。つまり今の俺はギルドに所属していないフリーランス状態。金もあるので全く問題は無いのだが、ギルドは身分証明書の代わりともなるため、持っておいたほうが良い。特にこの世界で生きていく上では。


 しかたがないか、と重い腰を上げギルド登録に向かうことにする。ゲームではプレイヤーはLv20になりこの大都市に訪れて一番最初に行う事でもある。たしか登録するだけのクエストもあり、そこで初級ポーションを数個貰えた筈だ。俺が使ったところで数ドット程度しかHPは回復しないのだろうが。


 外に出て暖かい日差しに当たり、自然と出てくる欠伸をかみ殺す。さて、行きますかね、とギルドに向かって歩き始めた。ちなみにフェリは羽織っているローブのフードの中で寝ている。良いご身分な事だ。


 そう言えば忘れていたが、今俺が装備しているこのローブ、カルフマインのローブと言い敵対値を下げてくれる効果を持っている。正直そんな効果は如何でも良いのだが、踝まである丈の長さと、そのシンプルなデザインが気に入っておりテスターの時もずっと付けていた物だ。現実と見間違うほどのこの世界ではそういった見た目に拘って装備をそろえる人も沢山居た、俺としては共感できるのだが、日がな一日中ビキニで過ごしている人も居たのでそれはどうなのだろう、と思ったこともあった。


 そんな事を考えている間にギルドに着いた。その建物はかなりの大きさを誇っており、高さは2階建てなのだが、その広さが凄い。チームの編成からクエスト掲示板、そして裏庭ではスキルの試し打ちが出来る案山子のベンジャミン君が居たはずだ。カランという鐘の音を鳴らしながら木製の扉を開く、同時に喧騒が聞こえてくる。現実の人と変わらないAIシステムを有効活用し、同じプレイヤー同士だけではなくAIともPTが組むことが出来たこの場所は、今はすべてAI、いやヤーウェの人々だけが存在している。


 ヒューマンの都市なだけあってヒューマン族が多いが、ちらほらとエルフやドラゴニック、そしてワーキャット、ワーウルフも居るようだ。そんな彼等を横目に受付に向かう。まずは登録しない事には始まらない、栗色の髪をショートカットにし、少しだけ毛先がウェーブがかった彼女。ギルドの受付の女性であるリーア=フレンズ、一日に何百人とプレイヤーの相手をし、特には口説かれたこともあるだろう彼女に話しかける事にした。


「ギルド登録をしたいんだが、いいか?」


「はい、有難う御座います。って、あれ? どこかでお会いしたことありましたか?」


 3年前のテスターの記憶は全てリセットされているはずだったのだが、目を細め、こちらを見てくる彼女。リセットが上手く働いていないのか、それとも。


「人の記憶と一緒、完全に消すことなんて出来ないのよ。ざまぁないわねあのバカ共」

 フードからひょこっと顔を出して耳元で喋るフェリ、なるほど、そういえば記憶消去の話の時最後まで反対していたのだったな。人の記憶を勝手に弄るなんて、と。脳を弄る為のMMOを広めようとしているのにずいぶんとふざけた話だ、といろいろ言われた彼女の落ち込みようは酷かった。それを言った相手を殴り飛ばした俺もずいぶんとえらい目にあったのだが。喧嘩が強くも無いのに殴りかかるのはやめるべきだとは思うのだが、体が勝手に動くのだから仕方が無い。


 しかし、覚えていると言っても、所詮うっすらと、霞みがかった霧の中に居るようにぼんやりと、なんとなく、程度に過ぎないだろう。生憎と俺はあったことは無い、と返し、登録を進めてもらうことにした。ギルドの説明はご必要ですか? と問われたがどうせ変わっていないだろうし、断った。フェリが念のために聞いておいたほうが言いと言うので、フェリをその場において、こいつに話しておいてくれとその場を離れた。


 フェリを見た彼女の反応は目に見えるほど明らかに動揺し、フェアリー族! そんな! 存在していたなんて! と騒いでいる。たしかにプレイヤーが居なくなればフェアリー族が居なくなるのも間違いないのだが、それにしたって驚きすぎだろう。そう考えていた所で俺は決定的に勘違いしていたことに気が付いた。俺はずっとMMOの世界に入り込んだと思っていたのだが、この世界はもしかして、3年間MMOとして世界に広がったゲームではあるが、そのバックアップとしてあったシステムなのだから、MMOが始まる前の、そうヤーウェの人々しか居なかった状態、つまりMMOが始まる寸前の世界に転送されたのではないのか、と。


「あれ、言ってなかったっけ?」

 とはフェリの談。とりあえずその小さな頭にデコピンをかました後、クエスト掲示板を見に行く事にした。物凄い騙された感がある、あの野郎。よくよく考えてみれば、プレイヤーが3年間居た世界に飛んだのであれば、たかがLv70の【白虎】程度で騒ぐのはおかしい、あの世界ではその程度の人間は腐るほど居た。さらに言うならマスター持ちも多かったのだ、【エアドラゴン】や【飛燕龍】なんて見慣れたものになっていたはずだ。何で気が付かなかったのやら、というかそれ所では無かったという話でも有るのだが、なんにせよもう一発くらいフェリにデコピンしてやろうと決意した。


 ギルドについてお話しよう。


 ギルドシステムは皆さん良くご存知ゲームシステムによくある冒険者である。街に存在しているギルドに行き、そこに張られている手配書、護衛依頼、配達依頼、小間使いから手伝い、日曜大工等々、要するに便利屋、雑用係といったところだ。モンスターのドロップ品を求めたりする物もある。自由度が高すぎたこの世界では人々から受けれるクエストも沢山あったが、このギルドで請けれる仕事もそれこそ星の数ほどあった。


 ギルドのランクはE~A、そしてSランクとなっており、クエストクリアによって貰えるギルドポイントが一定以上に達するとクラスアップとなる。システムコンソールに後何ポイントでクラスアップが表示され、クラスアップすると自動的に所持しているギルドカードの色が変わる。Eはホワイト、Dはグリーン、Cはアイアン、Bはブロンズ、Aはシルバー、Sはゴールドといった形だ。ランクによって受けられるクエストは変動し、下のクエストを受ければ報酬は同じだが溜まるポイントは減る、場合によっては無くなる。上のクエストは一つ上まで受けることが出来、同格、もしくは一つ上のクエストは表記どおりのポイントを貰うことが出来る。まぁ、その辺のイメージはゲームに準じているので追々話そう。


「終わったのか?」

 リーアから説明を受けていたフェリに声をかける。いつの間にか仲良くなっていたようで完全なガールズトークとなっている。俺に声をかけられて初めて気が付いたのか、驚いた顔でこちらに振り返り、そして話に関しては一通り聞いたよ、と返してくる。


「そうか、じゃあ悪いがついでにクエスト報告をさせてもらおうか」

 カウンターの上に座っているフェリをぽい、とフードの中に放り込み、あぁぁっ! と悲鳴が聞こえたような気がするがそれはおいといて、引き攣った笑顔でこちらを見るリーアに深緑亭の依頼、グリズリーの肉×5、鍛冶屋ガルバンからの依頼、ビックフッドの爪×1・ウルフウッドの牙5個を渡した。


「まさか、既にお持ちに……、いえ、それよりビックフッドの爪なんてそんな簡単に手にはいる物では」


「さっさと報酬を寄越せ、別にあんたが驚こうが驚かなかろうが結果は変わらんだろう」

 ギルドカードを彼女に放り投げ、先を促す。フードの中で貴方の口の悪さはもう一生直らないのでしょうね、と嘆き声が聞こえるが無視する。もはやこれが俺のしゃべり方なのだから仕方が無い。慌てて品の確認を行った後、直ぐに報酬を渡してくれた。深緑亭は5万リブ、鍛冶屋ガルバンは20万リブだ。そいつをインベントリに突っ込み、その場を後にする。手には数枚の手配書、別に金に困っている訳ではないが、ギルドランクは高ければ高いほど優遇される、目立つのは面倒なので精々CランクかBランク程度になったら後は放置する予定だ。


 ギィ、と入ってきたときと同様に木製の扉を開き外に出て手配書に記されていたモンスターが居る方向に向かうことにした。ギルドに居た時から粘つくような視線を感じていたのを無視したまま。


 ギルドを出た後暫く歩き、そして路地裏に入っていく、暗殺者の職は取らなかったので気配察知や闇隠れなどのスキルは残念ながら持っていない。しかし、明らかにこちらをつけている男が5人、ギルド所属者なのだろうが、如何考えてもろくな事を考えていなそうな顔付きだ。顔付きは正直人の事は言えないのだが。人気が無くなっていく路地裏、その行き止まりでため息を付き、振り返る。そして通路の角に向かって声をかけた。


「それで、何の用かな?」


 同時に影から数人の男たちが出てくる、その手には既に武器が握られており、ニヤニヤと軽薄な笑みを浮かべている。


「へっへ、それなりに腕が立つようだなにぃちゃん。ま、しかし所詮はいい所のぼっちゃんか、偶然爪を手に入れたって所だろう? 呪術師の様だがビックフッドは魔術じゃ倒せねぇ、常識だぜ?」


 げらげらと笑いながら話して来る男。まぁ、たしかにビックフッドは蹴り殺したから魔術は使っていない。とはいえ俺のレベルならビックフットの魔術抵抗性の高い毛ごと蒸し焼きに出来るのだが。


「とりあえず有り金全部置いていきな。さっきの報酬が懐に入っている事は知ってんだぜ?」


 ふむ、と考える、そして後ろのフェリと話をする。このパターンはありえる話なのか? と。


「たぶん、補正や抑制がなくなってしまった弊害かもしれない。日々修正する修正プログラムからも切り離されちゃったし、有る意味本当に人間らしくなっちゃった可能性は有るわ」

 

 なるほどねぇ、と頷く。さらに言うなら蘇生、修復する機能も失われている、死は死、蘇生魔法とかならいけるかもしれないが、システムによる自動蘇生は無いと考えたほうが良い、か。


「悪いがこいつらならかまわんよなフェリ」


「私は、嫌よ」


「はぁ、くだらんな。殺す時に殺す、そうしないと死ぬのは自分だ」


「貴方のその考えだけは好きになれないわ。貴方の過去の話を聞けばそういう気持ちになるのも分かるけど」


「ならば、目を瞑っておけ」

 そう言ってローブから腕を出す。ゆらりと右腕を前に、左腕を下に、独特の構えを取る。格闘家モンクLv180スキル【獅子咆哮】まるで陽炎のようにエイスの周りがぼやけていく。


「あ゛ぁ? なめやがってやる気か? おい、お前等やっちまえ、殺しても半額はドロップすんだろうよ!」

 そう叫び声を上げた男、そしてその数秒後顔を細胞レベルでバラされた。


「なっ!」


「え?」


「な、なにが!」

 既に男たちの視界にエイスは居ない。【獅子咆哮】の一撃、中距離攻撃の一つであるその技は5mまでの距離に存在する敵に衝撃派を与える技だ。本来であれば昏倒や、コンボに繋げる初撃に使うのだが、そのレベル差のあまり、食らった相手は頭を爆散させたのだ。


「ふっ」

 ギャリ、と地面を踏みしめる。格闘家モンクの真髄はここから始まる。素手による攻撃は他職に比べ圧倒的にダメージが低い。だがしかし、格闘家モンクはスキルの連結使用が可能であった。つまりコンボである。その最大数の連続コンボは24連撃を誇る、手数の量でこの職は火力を出していたのだ。

 二撃目が入る、既に最初のターゲットは死亡を確認。隣に居たターゲットに自動再設定され、コンボの続きが始まる。システムの自動補正により体が動かされる。【刃斬】、突き刺さる手刀、そして【残光】振り上げられる腕、上半身が半分に切り裂かれ、血を撒き散らすそのターゲットが倒れる前に次のターゲットの前に移動する。


 ようやく状況が掴めたのだろう、武器を構えて攻撃を加えようとするが、格闘家モンクのパッシブスキル、体裁きが発動する。ステータス値を基準とし、一定以上の差が発生している場合100%で攻撃を回避するスキル。するりと振り下ろされた剣を避け、【流撃】。ドン、と手の平を心臓に当てる。衝撃が突き抜け対象の背中の肉がはじけるのを確認する。そのまま横の一人を蹴り上げる【翔脚】、バン、という音を鳴らし、本来であれば宙に浮かせる技だが、耐え切れなかったその男の体が弾ける。


 そこでようやくコンボは終了した。格闘家モンクのスキルの中でもかなり少ない方のコンボなのだが、既にそこには腰を抜かして座り込む男が一人だけ残っており、他はただの肉と化していた。

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