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Dive  作者: 檸檬
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Dive12

 ヤーウェの世界ではアイテムをインベントリから出すとシステムコンソールの中にあったようなデフォルメの形ではなく、リアルな素材として出現する。


 インベントリを圧迫していた素材系アイテムを、建てた屋敷の地下に設置した棚に並べることにした。とはいっても建築素材は殆ど要らないであろう事から、売っても問題なさそうな素材は売り払ったので、ここにあるのは鍛冶系の素材アイテムなのだが。


「これでは地下室は直ぐに埋まってしまうな、別途倉庫を作る事にするか」

 薄暗い地下室の中でそう呟くエイス。目の前には大量の鉄鋼石、鋼、鋼鉄、柄素材、等々が大量に置かれている。どちらにせよ将来的に作り上げた武器、防具類を置く為のスペースも必要となってくるのだ。10畳程度の倉庫ならキャストタイム10分程で作れるだろうし、満杯になってからでも良いだろうと考えたエイスはその薄暗い地下室から外へ出るのだった。


 











 Dive12

 鍛冶屋開業










 ヤーウェの世界の鍛冶師というサブ職業。その職業は名前の通り武具の製作から修理、分解などを行う職業である。ドロップ品の武器と違い、製作された武器は一定の確率でレア、所謂通常より性能が高い武器、ないしは防具が作られるというメリットがあった。また、その武器に製作者の銘を入れることが出来、鍛冶職人一本でヤーウェの世界を楽しんでいた人も居たくらいだ。


 武具を製作する事で経験値も得ることが出来たので武具作成だけでそこそこのレベルだった人も居る。まぁ、この世界では戦い慣れる、という事も必要だったので対モンスター戦で使えるかと言ったら難しい所ではあったが。武具の製作はランダムに存在している採掘で手に入るアイテムもそうだが、モンスターからドロップされるアイテムも使う場合がある。以前ギルドで取引したアイテム、鍛冶職人からの依頼があったことからもわかるだろう。たしか簡単な投げナイフの素材だった、と思い出しながらシステムコンソールをスクロールさせ、目的の項目を見つける。



 鍛冶師Lv20スキル【骨製ナイフ*20】(投げナイフに分類)装備可能職業 騎士・重戦士・暗殺者・狙撃者・神聖術士

 必要素材:ビックフッドの爪×1・ウルフウッドの牙*5


 どうやらものの見事に装備できそうに無いアイテムだ、まぁ装備できたとしてもするつもりは無いのだが。

 正直こんな物を作ったところで意味がないし、どうせ店として大々的にやるつもりも無いので興味が無い。もし作るならこの辺だろうか、と目的のスキルをタップする。


 鍛冶師Lv55スキル【ナイトランサー】(槍に分類)装備可能職業 騎士・重戦士

 必要素材:鉄鋼石*30・銀*2・アルダングの鱗*5・ヴァリオギの根*5


 鍛冶師Lv60スキル【ファルコバスター】(長剣に分類)装備可能職業 騎士・重戦士・暗殺者

 必要素材:鉄鋼石*30・銀*5・フォンドウィフの爪*10・フォンドウィフの羽*5・ロックタイルの鱗*2


 両方装備可能レベルは高い、新人騎士には装備できないかもしれないが、そんな奴等に売るつもりも無いので問題ないだろう。

 必要素材を持ってきて、窯の傍でシステムコンソールをポップアップ。アイテムを釜の中に突っ込み目的のスキルを使用する。緑色のバーが表示され、数分後、見事な槍と剣が出来上がった。


「まぁ、こんなものか。付与を付けてやっても良いが、正直このレベルの武器には勿体無い。このままで良いだろう。そもそも本当に売るかどうかも分からんしな」

 鍛冶場に出来上がった武器を適当に立てかけ、無事スキルが発動する事を確認した俺は、折角だからともう少し何かを作ろうかな、と鍛冶場スキルのリストをスクロールする。


 このヤーウェの世界では武具は装備可能レベルがある。性格には装備可能職業レベルだろうか。その必要レベルに達していないと制限を受け、性能の20%~50%ダウンを受ける。その差はレベル差が大きければ大きいほどダウン制限は大きい。まぁ、必要STR(力)が足りなくてそもそも持てないという場合もあるのだが。ちなみにレベル制限を解消する為のスキルもある、だが殆どの人は取らないだろう、ポイントが勿体無いからだ。たしかLv1で5まで上の装備制限無し、Lv2で10、Lv3で15だったか? だが正直それならレベルを上げてしまった方が良い。3ポイントものスキルポイントは貴重なのだ。


 そう考えながらスクロールをしていたところで一つの項目で指が止まる。


 鍛冶師スキルLv100【ヴァルフェリオ・アインス】(特殊長剣に分類)装備可能職業 騎士・重戦士

 必要素材:クリスタル金剛石*10・ダイヤモンド*1・ガルヴァインの心臓*1・トートの宝石セット*1

 

 長剣の中でも特殊性能を持ち、Lv100の武器ながらレア性能を持つ武器として親しまれた剣だ。人によっては強化しまくりLv200近くでも使ってた人が居た。Lv300でもサブ武器として持っている人すら居たくらいだ。

 その特性は魔法攻撃を吸収する事と、スキル使用時のMP消費をカットする事に有る。魔法ダメージの10%吸収、内5%HPMP変換という性能と、スキル使用MP半減という特性を持っているのだ。10%の吸収は大きい、それが相手のダメージが大きければ大きいほど吸収量は増え、なおかつ回復できるので実質15%のダメージ減となるのだ。そしてスキル使用半減はスキルが基本となるこの世界ではとてもありがたい。常にスキルで消費されるMPを計算し、今の残りMPを考えながらスキルを組み立てるその自由度が広がるのだから。攻撃力だけ見ても同レベルの武器と比べて頭一つ抜き出ており、騎士、もしくは重戦士のキャラクターはこの武器をこぞって奪い合った。取引所では5億リブを超える価格が付いた事も有る。


 この武器に目が留まると同時にあの騎士団長の顔を思い出す。ため息を付きながらどこか哀れんだ顔でこちらを見てくるあの女。はぁ、とため息を付いた後くだらんと呟き鍛冶場を後にした。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「で、なんでてめぇがここに居る……」

 鍛冶場から戻った最初の一言、屋敷の一室、客間として作り上げたその部屋。簡易的な丸テーブルと箪笥が置かれ、開かれた襖からは石庭が見えている。


「友人に合いに着たらまずいのかね?」

 おそらくフェリが出したのだろう、湯のみに注がれたお茶を飲んでいる女性。この城塞都市の騎士団長ラニア=フォドリゲス。ほう、これはなかなか、と言いながら出された菓子を摘んでいる。対面に座っているのはフェリ、まるでリスのように口を膨らませお菓子を突いている。


「誰がてめぇの友人だ!」


「フェリだが? もしかして君はフェリの友人関係に口を出すほど傲慢で、そしてその友人が訪ねてきては困るような事でもしているのか?」

 首をかしげて答えてくる目の前の女。金色のウェーブがかった髪がさらりと流れ、日の光を反射しきらきらと輝いている。


「ちっ、勝手にしろ」

 そう吐き捨て客間を後にする、と、後ろから声がかかった。


「あぁ、まってくれ。君にも用件があるんだ」


「あぁ? 悪いが俺には無い、じゃぁな」

 そう言い捨て今度こそその場を後にする。さきほど武器作成の時に彼女をイメージした事もありどことなく居心地が悪く、胸糞悪い。ちっ、と舌打ちした後自室に戻る事にした。



「まったくもって合いも変わらず、いや分かりやすい男でもあるな」

 くっくっく、と笑いながらフェリに同意を求めるラニア、その目じりは下がっており、微笑ましい者を見たかのような表情をしている。


「なんかごめんなさいラニアさん」

 小さな体でぺこりと頭を下げるフェリ。彼女はきっと心の底から思っているだろう、彼女ラニアが大人でよかった、と。


「ラニアで良い、彼の性格はなんとなく分かった。正直城の貴族連中なんぞより余程好感が持てる」

 手を自分の顔の前で振り、答えてくるラニア。貴族の部分で眉を潜めていたが、何か思うところがあるのだろうか。そう考えた所で前回の尾行の件を思い出す。


「え? 城の貴族? そうか……、補正プログラムが効かなくなったから持っている権力に酔ってしまう人も出てきたのか……」


「ん? 何のことだ?」

 こちらの呟きが聞こえたか、何事かと聞いて来る。それに首を振って答え話題をかえた。


「あ、ううん、なんでもないの。それよりエイスに用件ってなんだったの?」


「前日の調べでブラックグリズリーを一撃で倒したと聞いてな。他の連中は恐怖のあまり幻覚でも見たのだろうと言う者も居るが、私はそうは思わない、部下の一人を吹き飛ばした力量を考えるとな」

 話題変えに特に疑問を挟むことも無く、答えてくれるラニア。こういう部分がまた大人だなぁ、と思いながら彼女の話を聞く。


 話の内容は有る意味予想通りであり、考えられる懸案事項の一つでもあった。唯一の救いとしては彼女が味方、と言うと微妙かもしれないがこちら側に立ってくれていることだろう。


「なるほど」


「城塞都市としては彼の力量を把握しておきたいのさ、それに加えて彼が使えるのか使えないのか、そして味方なのか敵なのか、をね」

 肩を竦めて話す彼女。確かにその通りで、正直そのくらいの事はされるのは当然であり、理解はしていたのが。それを馬鹿正直に話していい物ではない。そしてそれが分からない彼女でもないと思うのだが。不思議に思った私は聞き返す。


「そんなに正直に言っちゃって良いんですか?」


「構わないさ、彼は裏でこそこそやるより正直に話したほうが良いと思うからな」

 それに対しての答えは簡潔。なるほど、大人だ、人を良く見ている。


「まぁ、それは否定しませんけど、彼使われることを嫌いますから。使いたいなら力ずくでやれって言うと思いますよ」


「それは、なかなか骨が折れそうな事だ」

 そう呟き彼女は庭の石庭に目を移し、残っていたお茶を飲み干した。

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