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架空の森  作者: ありま翔
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その後――K記者の場合 2



その後――K記者の場合 2




その後の手掛かりは一切なしです。

そこで、私は脇記事として森にまつわる人物の取材をしています。

バスストップでアポを取ったり、周辺を歩き回ったりして話を聞ける人を探しました。

こちらに時間の余裕があったことと、他紙で報道がなかったことで特ダネの可能性があったからです。

まあ、それは成功したとはいえるのですが。

当時から市の財政は悪化しており、公園の管理も第三セクターに譲渡されることが決まりそうな時期だったので、デスクは社会ネタで引っ張ろうとしていました。宅地開発の許認可の問題も取りざたされていました。

どういうことかというと、公園のずさんな管理が人身事故を起こしたのではないか、という読みです。そういう事実がないとしても世論を喚起することができますし、行政に圧力がかけられると考えたからでした。ひょうたんに駒ではありませんが宅地造成の許認可絡みの贈収賄も浮かび上がるかもしれません。

父親の正は、その渦中の人でもあったので、いろんな憶測が飛び交ったのも事実です。

結局は何も明らかにはされませんでしたが。


私が一番不自然に感じていたのはひろの服装です。

一月近くも森の中にいたはずのひろの衣服があまり乱れていないという事実です。

それは報道されましたが、不審者による乱暴という文脈で語られていて、そういう事実はなかったことの証明のように言われていました。

結果がよかったから、多くのことに触れないでおこうというような雰囲気がありました。

こちらは余談ですが、人間の社会というのは不思議なもので何にでも流れのようなものがあります。大げさに言えば時代の空気のようなものがあって、なかなか抗えないようです。


新聞記者が推論や憶測を語ってはいけないので、私はみずきの行方を調べました。


彼女は東京のコンピュータシステムの会社に勤めていました。

アポを取って指定された日時に電話をかけました。

彼女は明るく聡明な女性ですが、どこか捉えどころのない印象を与えます。

近況などを伝えあってから、実はと話を切り出しました。

彼女と私の接点はそこにしかありませんから、彼女も何を聞かれるか解っていたでしょう。


あなたとひろさんはあのとき初めて会ったのですか。

そうです、と彼女は端的に答えました。

それでは、改めて聞きますが彼女に初めて会ったのはいつですか。

しばらく沈黙が続きました。

そのとき私には満月が見えていました。ひろが森に入り込んだ日と発見された時の。


私がさらに何か言うべきなのかと考えたとき、

ごめんなさい、と彼女は話し始めた。

あのときそういうふうに訊かれていたらどう答えただろうかと考えていたのです。私たちが考えていたより事は大げさに進んでしまったのです。私が何か言う隙間などもうありませんでした。

あれからひろには何度も会っています。私たちは友だちですが、でもあの時の話をすることはありません。

答えは簡単です。もう忘れました。

どんな事があったのか、それはひろが話していたとおりです。

あれは架空の森の話です。



何か言おうかと思ったが何も言わず、礼を言って電話を切った。

森自体がすでに架空のものになっていることに気付いたからだった。




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