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架空の森  作者: ありま翔
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その後――K記者の場合



その後――K記者の場合



当時私は駈けだしの社会部の記者で、当初からこの報道を担当していました。

行方不明の少女の安否は十日を過ぎた後、死亡説に傾いたように思われます、

そして県警は最後の捜索をしました。

重点は転落箇所の発見とか不自然な土の跡というように、事故並びに事件による遺体ならびに遺留品の発見だったと思います。

マスコミに取り上げられたにもかかわらず警察の発表は、捜査報告だけの簡単のものでした。完全な手づまりでした。だから、大学生による少女の発見は喜びを持って迎えられ、皆が安堵したわけでした。

少女は医師の診断を受け、心神耗弱による記憶障害とされました。

そのとき言った「架空の森」のフレーズが受け、その取材は私がしたものだったのですが、大きく取り上げられました。

UFO説まで出た「架空の森」事件ではありましたが、私の中では引っかかるものを残しながらも終わっていました。


それがなぜ今、この事件を改めて思いだし、ひとむかし前の話をしているかというと、ひろを見たからです。それも全国紙で。

むろん犯罪を犯したわけではありません。

映画の新人女優賞を受賞したからでした。あいにくその映画はみていなかったので、さっそく映画館に足を運んでみました。なぜだかはわかりません、大きくなったひろを確認したかったのかもしれません。

そしてわかったこと。

それはひろはひろであったことでした。キラキラ輝くひとみに、照れたようでそれでまた挑むような口元。遠くを見つめている視線があっという間に凝縮してくるその瞬間、狂気かとも思えるほどの妖しい光がともる目元。最初に病室を訪れたときと同じでした。十歳の少女にコケットリーを感じた不思議な時でした。

映画の中で彼女は少し不幸な役どころでしたが、そのことはあまり関係ないくらい彼女は彼女を演じていたのだろうと思えます。演技について私が語ることはないのですが、役は彼女の中で消化されていて、完璧の演技といってよかった。ブラボーと拍手をしたい感じでした。



2000年9月5日、林ひろ(10)は失踪します。

家族が警察に届けたのは夕方6時過ぎ。

学校が最初異変に気付きました。届け出もなく、急の欠席だったからです。一時限の終了を待って担任が少女の自宅に連絡を入れると母・くみ(42)が出て、「熱が出て、家で休んでいます。届けが遅れて済みませんでした」と答えたので、学校側は納得して彼女のことは忘れたようです。ひろには兄(14)がいます。

気が動転してと母は説明していますが、この返答は不可解でした。


そのあと、くみは昼休みに父親の方に連絡しています。

父・正(45)は、それほど重要視はしなくて、よくある寄り道のように感じたと言っていましたが、少し様子を見るよう妻に言ったそうです。

妻は心当たりのあるところに所在の確認をしています。

それから正の帰宅を待って、未だひろが戻らないので、警察に届け出たわけです。

110番通報でした。

警察の発表では、落ち着いた声で「娘が今朝から見つからない。調べてほしい」と述べたそうです。

正が手広く建設・不動産業をやっていることもあり、警察では身代金目的の誘拐の線も視野に入れて迅速に捜査を開始しました。そして自宅から学校の周辺、Sシステム等も使い車両、それに目撃者の聞き込みも始めました。

彼女は制服を着てランドセルを背負っているから、目立ちます。が、特定には骨が折れました。


スクール・バスの指定場所までの目撃証言はあるのですが、その後がつかめません。そんなことで夜のこともあり、犯罪者からの連絡もなく、その日は過ぎました。

朝の一報で市バスの運転手がひろを確認しました。それも学校とは逆方向で、終点の森入り口で降りたそうです。

ここまでは記事にしています。



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