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架空の森  作者: ありま翔
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――こずえの場合



――こずえの場合




私はこずえ、主婦です。

月に一度、市内からバスに乗って40分ぐらいかけてここへきます。

終点まで、ボーっとして過ごすのは悪くありません。


忙しすぎると感じていました。

こんなはずではなかった、のかもしれない。

母まで倒れてしまうとは正直思わなかった。


介護は子供の務めかなと感じます。

余裕があるならそのぐらいしてあげたい。

夫も少し不便だろうけど、理解してくれているし、でも頭で考えているより楽じゃない。

肉体労働だし、神経もすり減る。

父は病人で、病人らしくひどくわがままだし、ときどき意地悪になる。


こんなことその時は考えてもいなかったけど、そろそろ限界に来ていたのかもしれない。

父の介護や、それぞれの仕事でもう伸びきっていたのかしら。


母が倒れて、一命は取り留めたけど、

ふつうの日常を送ることができなくなった。

その施設が市の郊外の森にあった。


わたしは母の様子を見に行く。

そしてひと月の費用を払い、医者にあって容体を聞く。


母は必ず、ええーとだれでしたか、と尋ねる。

わたしは、あなたの娘のこずえよ、と答える。

本当に分からないのだろうか。

お医者さんに聞いても、そういう時もあるかもしれない、と答えるだけだ。

だれにも本当のことはわからない。


でもそのあとすぐ了解するようだ。そして何十年も前のことを話す。

あのときお父さんはきつねだったよ、と言われてもわたしにはわからない。

よく狐に化かされたそうだ。



終点のバスストップは広場になっている。

バスはそこから折り返すからだった。

森入り口と記されてはいるけど、そちらの方に行ったことはない。

施設はほんの少し戻ったところにあったから。



その森で事件が起きたことは知らなかった。



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