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また明日が来ると思ってた

作者: 未明
掲載日:2026/05/16

何気ない会話が、

あとから「最後だった」と気づくことがあります。


この作品は、

そんな“間に合わなかった気持ち”を書きました。


少しでも誰かの記憶と重なれば幸いです。

あの日も、いつもと同じだった。


通知欄に名前が出て、

配信が始まって、

コメント欄が流れていく。


特別な日じゃなかった。


記念日でも、

卒業配信でも、

重大発表でもない。


ただの火曜日の夜だった。


俺がその人を見つけたのは、二年前。


仕事から帰って、

なんとなく開いたおすすめ欄にいた、小さな配信者だった。


同接は三十人くらい。

マイク音質も少し悪くて、

ゲームも上手いわけじゃなくて、

でも、妙に居心地がよかった。


「今日コンビニでさ、アイス落とした」


そんな、どうでもいい話を、

楽しそうに笑いながら話す人だった。


最初は“ながら見”だった。


でも気づけば、

仕事終わりに配信を開くのが日課になっていた。


コメントを読まれるだけで嬉しくて、

「おつかれ」って言われるだけで、

救われた気持ちになった。


現実では誰にも言えない疲れを、

その人の声だけが、

少し軽くしてくれた。


ある日、

俺は残業でかなり参っていた。


終電近くの電車で、

スマホを見ながら、

ふと配信を開いた。


「こんばんは〜。今日も生き延びた人、えらい」


その一言で、

なぜか涙が出そうになった。


コメント欄に、


「今日マジでしんどかった」


と打った。


流れるコメントの中に埋もれると思った。


でもその人は、

ちゃんと拾ってくれた。


「お、しんどかったか〜。じゃあ今日はここに避難な」


笑いながら、

そう言った。


たったそれだけだった。


でも、

誰にも気づかれなかった苦しさを、

初めて見つけてもらえた気がした。


それから、

俺は少しずつ常連になった。


メンバーシップにも入ったし、

スパチャも投げた。


でも、

“ガチ恋”ではなかったと思う。


たぶん。


ただ、

その人がこの世界に存在して、

今日も配信してくれることが、

安心だった。


最後のやり取りも、

本当に普通だった。


その日、配信は短かった。


「明日ちょっと早いから今日は早めに終わる!」


コメント欄には、

「了解〜」

「おやすみ!」

「無理すんな〜」


そんな言葉が並んでいた。


俺も軽い気持ちで、


「また明日〜」


って送った。


その人は笑って、


「はーい、また明日!」


って返した。


でも、

“明日”は来なかった。


次の日になっても、

配信通知は来なかった。


最初は誰も気にしていなかった。


「寝坊かな」

「忙しいのかも」


そんな空気だった。


でも、

三日経っても、

一週間経っても、

何もなかった。


Xの更新も止まっていた。


そして、

二週間後。


運営アカウントから、

短い文章だけが投稿された。


『本人の事情により、今後の活動継続が困難となりました』


理由は書かれていなかった。


病気なのか、

事故なのか、

心が限界だったのか。


何も分からなかった。


コメント欄は、

「嘘だろ」

「待ってる」

「戻ってきて」

で埋まった。


でも、

俺の頭にずっと残っていたのは、

最後の会話だった。


「また明日!」


たったそれだけ。


もっと感謝を伝えればよかった。


あなたに救われてたって、

言えばよかった。


でも、

“また会える前提”だった。


人って、

終わると思ってないものには、

ちゃんと別れを言えない。


それから半年後。


俺は帰り道、

コンビニでアイスを買った。


会計を済ませて外に出た瞬間、

手が滑って、

アイスを落とした。


地面に転がるアイスを見て、

ふいに、

あの声を思い出した。


「今日コンビニでさ、アイス落とした」


最初に聞いた、

あのどうでもいい話。


気づいたら、

少し笑っていた。


同時に、

泣きそうにもなっていた。


もう配信はない。


通知も来ない。


声も聞けない。


でも、

人生がしんどかった夜に、

確かに救われた時間だけは、

消えなかった。


人との関係って、

続いた長さじゃないのかもしれない。


どれだけ深く、

“そこにいてくれたか”なんだと思う。


家に帰って、

スマホを開いた。


もう更新されないアカウント。


最後の配信アーカイブ。


最後のコメント欄。


そこには今でも、

半年前の俺がいた。


「また明日〜」


その文字を見ながら、

俺は小さく笑った。


「……ありがとな」

「また明日」


普段なら何気ない言葉なのに、

戻れなくなった瞬間から、

急に重みを持つことがあります。


この作品を書きながら、

自分自身も“誰かとの最後”を思い出しました。


読んでくださってありがとうございます。

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