第7話:孤高の斎藤一
試衛館の門前に一人の鋭い男が立っていた、斎藤一。江戸で人を斬り京へ逃れる途中に立ち寄ったという噂のある、素性不明の浪人だ。左利きという変則的な剣技を使い、その正体は公儀の隠密だの人斬りだの不穏な憶測が絶えない男だった。
斎藤は、江戸で囁かれる「試衛館の近藤は底知れぬ豪傑」という噂を鼻で笑っていた。
「世の中は嘘ばかりだ……あの近藤とやらも、虚勢を張った田舎侍に違いない」
彼は、そのメッキを剥がそうと近藤と対面した。
近藤は、斎藤が放つ本物の人斬りのオーラに心臓が止まりそうになっていた。あまりの恐怖に全身の神経が麻痺し瞬き一つできず、ただの岩石の置物のように固まってしまったのだ。
それを見た斎藤は、背筋に冷たいものが走るのを感じた。
「……な、なんだ、この男は。殺気をぶつけても微塵も動揺しない。呼吸すら乱さず、私の動きを完全に封じ込めている……!」
実際には、近藤はただ腰が抜けて一歩も動けなかっただけなのだが斎藤の鋭すぎる観察眼はそれを究極の脱力と読み違えた。
「……負けました。私のような小細工を弄する者に、これほど無の境地で構えられたら手も足も出ない」
斎藤は深く頭を下げた。近藤は恐怖で声が出ず「あ、う……」と漏らしたが斎藤には、それが全てを見透かした男の慈悲深い溜息に聞こえた。こうして謎多き最強の剣士が仲間に加わったのである。




