第5話:深読み山南敬助
試衛館の食卓に新たな顔ぶれが加わった、山南敬助。北辰一刀流の免許皆伝でありながら、およそ武士らしからぬ物腰の柔らかさと膨大な知識を持つインテリ剣士だ。彼は、常に武士のあるべき姿という高い理想を追い求めている。
今日の飯も、相変わらず薄い粥と漬物だけ。近藤は空腹と将来への不安で、ついに溜息とともに本音が漏れた。
「……はぁ。もう、多摩のおうちに帰りたいなぁ」
それは、多摩の実家で温かい飯を食べてゴロゴロしていたいという切実な弱音だった。
しかし、これを聞いた山南は、ハッとして箸を止めた。
「……今なんと仰いましたか、近藤さん」
「えっ? いや、あの……」
近藤が言い淀むと山南は、メガネの奥の瞳をキラリと輝かせ身を乗り出した。
「おうちに帰りたい……そうか! つまり近藤さんは今の腐り果てた幕府を嘆き日本があるべき本来の姿、つまり天子様を中心とした一つの大きな家族というお家に立ち返るべきだと仰っているんですね!」
「……え?」
「さすがだ!」
山南は感極まって膝を打った。
「知を隠し、あえて卑近な言葉で国家の根幹を説く。なんという高潔な精神だ……!」
近藤が「いや、実家の大根が……美味しくて……」と言いかけた瞬間、土方が横から鋭い目配せを投げた。
「……その通りだ。勇はいつだって、この国の明日を見てる。山南先生、よくぞ見抜いてくれた」
山南は、一生の師を見つけたと言わんばかりに猛然とメモを取り始め、近藤はますます逃げ場を失っていくのであった。




