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第42話:多摩に錦を飾る

甲州へ向かう道中、近藤一行はついに故郷多摩へと足を踏み入れた。沿道は郷土の英雄を一目見ようとする村人たちで埋め尽くされていた。近藤は内心、あまりの恥ずかしさと今から戦争に行くという事実への恐怖で顔面の筋肉が完全に制御不能に陥っていた。

「……どうしよう。みんな、死ぬなよ!とか頑張れ!とか言ってる。僕、今すぐ馬から降りて実家の物置に隠れたい……!)

近藤は溢れ出しそうな涙を必死に堪え、ひきつった口角を無理やり持ち上げて、村人たちに愛想笑いを振りまいた。

だが、極限の緊張下で作られたその笑顔は周囲の目には敵を屠る直前の冷酷かつ不敵な笑みにしか見えなかった。

「見たか、勇さんのあの笑いを! 多摩の若造が今や天下を震わせる修羅の顔だ。あんな凄みのある自信、本物の武士にしか出せねえ!」

村人たちは近藤の顔面の痙攣を勝利への確信と読み違え、狂喜乱舞して万歳三唱を送った。近藤は「……笑ってるんじゃない、顔が吊ってるだけなんだ!」と叫びたかったが、その喉の引き攣りは「フフフ……」という不気味な笑い声として漏れ出し畏怖を煽る結果となった。

土方はその横で満足そうに頷いた。

「いいぜ勇、故郷の期待をお前の看板に変えて、そのまま甲府まで突っ走るぞ」

近藤は、歓声に包まれながら二度と戻れぬかもしれない故郷の空気を震える鼻腔で必死に吸い込むのであった。

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