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第37話:不死身の勇
鳥羽伏見の戦いが始まった。辺りは轟音と硝煙に包まれ、新政府軍の最新鋭の銃弾が雨あられと降り注ぐ。近藤はあまりの恐怖に脳が防衛本能を働かせ、「これは現実ではない。ただの庭掃除だ」という強烈な自己暗示に陥った。
「……なんだ、この黒い豆みたいな虫は。ぶんぶん飛んでいて鬱陶しいなぁ」
近藤は虚ろな目で至近距離をかすめる弾丸を蚊を追い払うかのように素手で「しっ、しっ」と適当に振り払った。
その様子を物陰から見ていた敵兵たちは、あまりの光景に銃を落とした。
「……ば、化け物だ! 近藤勇は、飛んでくる弾丸を手で払い落としているぞ!」
近藤が「……あ、また虫が来た。あっち行け!」と勢いよく腕を振ると、たまたま手に当たり偶然跳ねた小石が敵の陣地に当たり敵軍は「跳ね返した弾が飛んできた!」と大パニックに陥った。
土方はその混乱を逃さず「見ろ!局長には鉛の玉など効かねえんだ!」と叫んで全軍を突撃させた。近藤はただ「……虫が多いから、早くお家に帰りたいよぉ」と涙目で手を振り続け、図らずも「弾丸を弾く不死身の怪物」としての地位を確立してしまったのである。




