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第36話:将軍徳川慶喜
幕府が政権を返上した直後、近藤は最後の将軍徳川慶喜に拝謁することになった。
「……もう辞めるんだよね? 挨拶だけして、すぐ帰っていいんだよね?」
近藤は今日こそ解散の許可をもらうと心に決めていたが慶喜の前に座ると、そのあまりの気品と周囲に漂う絶望的な空気感に圧倒されてしまった。
近藤は緊張の限界を迎え、酸欠で白目を剥きそうになりながら慶喜を必死に凝視した。
「……だめだ、意識が遠のく。倒れちゃいけない。前を見ろ、前を……!」
その、もはやこの世の者とは思えない凄絶な形相」を見た慶喜は深く感銘を受けた。
「……見事だ……幕府が沈もうとする今、これほどまでに不敵な面構えで我を見つめる者がいたとは。近藤、お前こそ真の忠臣だ」
慶喜は近藤の失神寸前の顔を揺るぎない覚悟と読み違え、彼を幕臣に取り立てると宣言してしまった。
近藤は「えっ、今なんて……?」と呆然としたが土方は横で「おめでとう、旗本様」と冷たく微笑んだ。近藤の穏やかな隠居生活は、またしても遙か先へと遠のくのであった。




