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第26話:西郷どんの腹痛
京の路上で新選組と薩摩藩の一行が鉢合わせた。目の前には巨漢の西郷隆盛が仁王立ちしている。近藤は威圧感とストレスで猛烈な腹痛に襲われた。
「……痛い、今ここで漏らしたら武士人生は終わりだ。我慢しろ勇……」
脂汗を流し、西郷を睨みつける形相で震える近藤。だが実は対峙する西郷もまた、昨晩の食べ過ぎで極限の腹痛に耐えていた。西郷は、目の前の近藤の震えを見て戦慄した。
(……おはん、拙者の腹の鳴る音に気づいちょるのか、なんと鋭い男か!)
沈黙の中、土方が周囲に聞こえるような大声で不敵に笑った。
「西郷先生、これ以上近づかねえ方がいい。うちの局長は今、己の中の獣を抑えるので精一杯でしてね」
土方は近藤の背中を支えるフリをして「漏らすなよ」と耳元で冷酷に囁いた。一方、西郷は近藤の震えを自分を逃がさぬという気迫だと読み違え、冷や汗を流して道を譲った。
「近藤殿……これほどの気を放つ男とは、今は時ではなか」
西郷は近藤を恐るべき伏龍と断定し、互いにトイレへ急ぐべく無用な衝突を避けた。後に龍虎の対峙と語り継がれる伝説は、二人の必死な我慢が生んだ奇跡であった。




