第2話:最終奥義伝授
試衛館の裏手で近藤は、土方へ泣きついていた。
「トシ、やっぱりダメだ。今朝も門下生に挨拶しようとしただけで、相手がヒィー!と叫んで逃げ出したんだ。ただのオハヨウを言おうとしただけなのに!」
「いいか勇、お前がいらぬ口を開くからいけないんだ。鬼瓦は、喋らない。お前は、ただ黙って相手を威圧していればいい」
土方は、そう言いながら懐から手ぬぐいを取り出した。
「だが、どうしても緊張が抑えきれなくて口が震える時がある。その震えを誤魔化すための、とっておきの秘策を教えてやる」
「秘策……?」
「いいか、よく見てろよ」
土方は近藤の大きな拳を掴むと、それを無理やり近藤自身の大きな口の中へと押し込んだ。
「……っ!? むぐぐぐっ!」
「よし、そのまま。いいか勇、これからは緊張して言葉に詰まったら自分の拳をその大きな口に放り込め。周りの奴らは底知れぬ自信ゆえに奇行に走っているか、あるいは何か恐ろしい奥義の準備をしている様にしか見えない」
近藤は頬をパンパンに膨らませ、涙目で土方を見つめた。
「……んぐっ、んぐぐ(トシ、これ息が苦しいんだけど)!」
「恐ろしい……完璧だ。その苦しそうな顔が、今にも爆発しそうな殺気に見えるぞ」
土方は満足げに頷いた。これが後に新選組局長の豪胆な癖として伝説になる、哀しき最終奥義の誕生であった。




