第11話:壬生の田舎者
中山道での腹痛の仁王立ちを経て、近藤たちはついに京都の壬生へ到着した。だが、息つく暇もなくリーダーの清河八郎が「江戸へ帰る」と言い出したのだ。近藤はあまりの勝手さにパニックになりつつも、つねとの約束の黙っていろ!を必死に守り清河を無言で睨みつけた。実はまだお腹がゴロゴロ鳴っていただけなのだが清河はそれを命懸けの抗議と読み違えて逃げ出し、近藤たちの京都残留が決定した。
こうして壬生浪士組が発足したが近藤は、困り果てていた。とにかく、京都の人が怖いのだ。屯所となった八木邸の奥で近藤は、岩のように固まっていた。
「……トシ、外に出たくない。近所の人たちが僕を笑っている気がするんだ。怖い…」
だが、この逃避の石化が周囲には全く別のものに映っていた。挨拶に訪れた新入り隊士たちは、一言も発さず眉間に皺を寄せる近藤の姿に戦慄した。
「見ろ、あの不動の構え。これこそ、底知れぬ鬼の威厳だ」
近藤はただ「……いつになったら、この人たちは帰ってくれるんだろう」と溜息をついただけなのだが隊士たちは局長の深い思慮に感じ入り、勝手に居住まいを正した。
土方は、近藤の横で不敵に囁く。
「いいぜ勇。その人見知り、最高に効いてるぞ」
こうして、日本一シャイな局長による京都生活が幕を開けたのである。




