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第10話:芹沢の焚き火

京都へ向かう宿場町。水戸の荒くれ者、芹沢鴨が暴れていた。「部屋が狭い!酒がまずい!そもそも気に入らん!!」と、あろうことか道の真ん中で巨大な焚き火を始めたのだ。火の粉が舞い宿場中がパニックになる中、土方はニヤリと笑って近藤の背中を押した。

「……勇、出番だ。お前がガツンと言ってやってくれ」

だが、近藤は絶体絶命のピンチにいた。道中、妻つねの握り飯が恋しくなった近藤は、昨晩の宿で自分でおにぎりを握ってみたのだ。しかし、慣れない手つきで作ったそれはサッカーボールほどもあるカチカチの巨大な米の塊になった。それを無理に飲み込んだせいで人生最大の腹痛が波のように押し寄せていた。

(……トシ、無理だ動けない。今、一歩でも踏み出したら、僕は武士としての尊厳と胃袋の米をすべて失う……!)

近藤は顔を土色にし脂汗を滝のように流しながら、必死に仁王立ちで胃の激痛に耐え続けた。その、燃え盛る炎を前にしても眉一つ動かさず凄まじい形相で立ち尽くす姿を見た芹沢は毒気を抜かれたように鉄扇を収めた。

「……面白い。俺の炎を前にして、瞬き一つせんとはな。この岩石野郎、ただの田舎侍じゃねえ」

芹沢は近藤の沈黙の腹痛を死をも恐れぬ豪胆さと読み違え、一目置くようになった。土方はその横で近藤の耳元に囁いた。

「いいぜ勇、あの怪物がビビってる。そのまま黙って、おにぎりの腹痛を耐え続けるんだ」

こうして近藤は、自作のおにぎりによる腹痛のおかげで京都最恐の危険な男と奇跡の握手を交わすことになったのである。

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