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第1話:その顔面凶暴につき

その顔は、一度見たら忘れられない。ゴツゴツとした骨格に深く刻まれた眉間の皺。まるで古寺の屋根で睨みを利かせる鬼瓦そのものであった。しかし、その強面の内側では、多摩の農家育ちの小心な魂が常にガタガタと震えていた。

「トシ……やっぱり無理だ。怖くて心臓が飛び出しそうだよ」

試衛館の道場で近藤勇は、幼馴染の土方歳三に泣きついていた。

元薬売りの土方は、怯える近藤の肩を強く掴んで言い聞かせた。

「いいか勇、石田散薬ってのは効能以上に効きそうな名前だから売れてるんだ。道場も同じだ、顔が怖ければ世間は勝手にお前を強いと思い込む。その震えだって、地鳴りのような殺気に見えるはずだ。足りない言葉は、俺のハッタリで補ってやる」

土方は近藤の眉間をつまみ上げ、無理やり険しい表情を固定させた。

門下生の沖田総司が挨拶に来た。近藤は驚いて声が出ず「……っ!」と呻き、皺をより深くした。

「なんて鋭い眼光だ! 近藤先生は、鬼の気迫で常に殺気を放っている!」

総司は目を輝かせ、その場に跪いた。

「違う、ただ怖いだけなんだ……」と小声で呟く近藤を横目に土方は、不敵に笑う。こうして、臆病な鬼瓦の伝説が幕を開けたのである。

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