第1話『未来音』
午後の教室。鉛筆のカリカリという音だけが静かに響く。カイはノートに向かいながら、自分の能力について考えていた。
「俺の能力って、本当に役に立つのか…」
机の端に置かれた砂時計を見つめながら、カイは思った。ほんの少しだけ未来が見える──それだけの能力だ。高校生にしては地味すぎる。派手な異能者たちに比べれば、正直、しょぼいとしか言いようがなかった。
しかし、守るべきものが目の前にあるとき、それがどれほど役立つかは別だ。心の奥に、微かな決意が芽生える。
そのとき、隣の席のリョウが椅子につまずき、机の端に手を伸ばして倒れそうになる。
「ぶつかる…危ない!」
カイは反射的に手を伸ばし、リョウの腕を掴む。わずかに遅れれば机の角に頭を打つところだった。未来音が鋭く響く。「転ぶ…だけじゃ済まない」
リョウは息を整え、驚いた顔でカイを見る。
「お、お前…なんで分かったんだ?」
カイは微かに笑う。
「わからない。でも、体が自然に動いただけだ」
心の奥で、カイは小さな自信を感じる。しかし、それはまだ序章に過ぎない。校舎の影の向こう、遠くで黒い影が動く。
「未来は…動き始めている」
その声は風のように遠く、低く響いた。カイは目を細め、影の方を見つめる。何か、まだ見えない敵の気配がする──そんな予感が胸をざわつかせた。
教室の外では、微かなざわめきと風の音が交錯し、午後の空気を揺らす。
次に何が起こるのか、誰もまだ知らない。小さな波紋は、確実に広がり始めていた。




