14.バルコニー視点 多忙
(シリスはまだ戻ってこないのか…)
バルコニー王は、王宮に居ながらそう思っていた。
シリスが寄越した胡散臭い秘書と共に作業をしていた。但し、胡散臭いが、本当に仕事ができる為、何も言えない。
…だが愛嬌がない為、正直苦手ではあった。何処か冷たい目線を送ってくる為、正直シリスと早く交代して欲しい。と思っている。
(いや、もう戻って来ないか。忙しいとか言っていたし。…国民の反乱分子の制圧に行っているから)
と、バルコニー王は思った。
バルコニー王はユーミアがいなくなり、国民感情が負に向かっている。その自覚があった。それでシリスが王宮から離れた所に行っている事も知っていた。
それでやっと自分が何をやっていたかバルコニー王はわかった。地位が高いユーミアが王宮から消えて、地位が低いミセスを王妃にしてしまったせいで、憧れ、兎に角、我も我もと。利権争いが活発になっている。触発される人間が多くなるのだ。
(…しかし、今責任がある仕事をしてるせいか思考が重厚になっているようなそんな気がする…)
実質ユーミアが居なくなった分の仕事が回り、自分でやり始めている所が多い。その為、ラビアに回っていた重要な仕事が回り、自分がどれくらいの仕事をしなければいけないのかわかってきた。あの秘書がどこからか持ってくるからだ。
(何者なんだよあの秘書…)
しかし、バルコニーは王になってから、自主性がなくなり人形のようになってしまったように感じていた。…そういや、何の為に王になったんだろうな。このままいても無意味なんじゃないか?そんな思いが渦巻いていた。
(ーバルコニー!まって!バルコニー)
最近昔のユーミアに呼ばれる夢を見る。
(そういえば昔のユーミアは今のミセスと似てたな。性格が)
学生時代の事をここ最近バルコニー王は考えている。
てっきり王はシリスがなるものだと思っていた。だから、自分が王になって嬉しかった。その時は決意は固かった。
(そういや、ユーミアに嬉々として報告してたな)
結局、自分ではなくシリスが王になれば良かった。
そうなれば良かったんだ…。
「ねえ!バルコニー!バルコニー!」
すると、ドンドンとドアを叩く音が聞こえた。
「…なんだ。ミセス」
「ねぇ、バルコニー!旅行に行きましょう!」
「は?」
「そんな息詰め状態じゃ、疲れるから気晴らしに旅行でも行きましょうよ」
「……」
「そのお金出してくれるわよね?」
ミセスはキラキラ目を輝かせながら、バルコニーに頼んだ。
「ミセス、今は一番大変な状況なんだ。ユーミアが辞めたせいで国民が反感を持っている。そんな時に旅行なんて出掛けてみろ。いつか刺されるぞ」
「大丈夫よ」
「…ミセス、ミセスはもう王妃だろう?あのな。王妃だったら、それなりの立場を理解してもらわないといけないんだよ」
「はあ?でも言ったじゃない!私は仕事できないから、バルコニーがちゃんとするのよ!って。あたしはちゃんと言ったわよ!」
「それは言ったが、…『王妃』の冠を被っている以上、ある程度の教養というか…それなりの嗜みがないと不味いんだよ…国を守る立場なんだから。だから今は大人しくしてておいてくれ」
「なにそれ?あたしに自由がないってこと?」
すると、ミセスは泣き出す。
「何?何だか、ユーミア王妃に言っている事をあたしに言ってない?あたしこわあい。あたしまだ若いし、未経験だしい。あたしが慣れないのは当然じゃない?なのに、そんな責任重大なことをさせて、そうしたらどうなるかわからないの??王様なのに??国のトップに立ってるくせに??」
「…いや、だから…」
そういうことじゃないのに…。と、バルコニー王は思う。ただ、旅行に行くな。と言ってることが何処が重大なんだ。とバルコニーは若干呆れた。
「いや、ただ、ミセスの事が心配で言ってるだけだよ…。じゃあ、ミセスが一人で行ったら良い…。ああそうだ。ラビアと行けばいいんじゃないか?そしたら、ミセスは旅行に行けるだろ?」
それに、ミセスはひくっと顔をつり上がらせる。
「どうして、そんなこと言うのよ!」
「は?」
「あたしはバルコニーと行きたいの!だったら何故行かないの!?ねぇ!?」
「いやだから、とにかく、ミセスはともかく俺が行くと今は不味いんだよ…」
「どうでもいいでしょ!そんなこと!」
「どうでも良くないから言ってるんだろ…」
「何よ!もういいわよ!折角私が誘ったのに何その態度!?しーらない!」
すると、ミセスは怒りながらドアを開けて出ていった。
(でも、言ってることは真実じゃないか?今は王妃の立場を守っておかないと、後で不味いことになる)
バルコニー王は冷や汗かきながら、そう思う。
ミセスってこんな人間だったのか…と、バルコニー王は思った。
(はぁ。なんかダルいな…)
はぁ。とミセスの事を思いながら、バルコニー王は思った。
(ダルいというか…なんかミセスに対して愛情がないな)
と思っていた。
バルコニーはミセスに、何か違和感があったが、上手く伝えられずにいた。そして、何故捨てた女であるユーミアの事を求めるのかも分からなかった。
(しかし、ああ。そうか。ユーミアは責任重大な『王妃』という立場を守ってくれてたんだな)
ユーミアは学生時代より女傑みたいになってしまったが、確かにユーミアは真面目で、一生懸命で、人に迷惑を掛けるようなことなどしない。自分のやっている事を手伝ってくれていた。ミセスみたいに、怒りに狂って、八つ当たりなどしない。バルコニーはそれに今更気付いた。
ユーミアが真面目だったからこそ、自分は王として存在することが出来たのだ。
(今更気付くなんて、本当に馬鹿だった。ユーミアが、又、王妃に、戻ってきてくれたら)
と、バルコニー王は思う。
(…もう、間に合わないか)
と、バルコニーは思った。




