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晩餐会

……………………


 ──晩餐会



 その次の日の夕刻。


 ジークたちは招かれていたオルデンシュタイン家の晩餐会に参加するために、その場に相応しい服に着替えていた。


「どうよ?」


「お似合いですよ、勇者ジーク」


 ジークは借り物のタキシード姿でいつものカジュアルな姿から一変していた。彼は似合っているか不安だったが、ロジーたちは笑顔で似合っていると太鼓判を押してくれた。


「で、魔女はまだか?」


「そろそろのはずなのです」


 セラフィーネもドレスに着替えているはずであり、ジークはそれを待っていた。しばらく待つとそのセラフィーネがやってくる。


「待たせたな」


 セラフィーネはシンプルな赤いシルクのドレス姿であり、床まで伸びる長いスカートと凝った刺繍が特徴的なそれを纏ったセラフィーネはどこかのお嬢様のようであった。今日は珍しくハイヒールを履いているせいか、どこか背も高く見える。


「おう。あんたも似合ってるな」


「世辞はやめろ。そろそろ時間だろう。行くぞ」


「別に世辞じゃないんだけどな」


 ジークはセラフィーネの言葉をやれやれと肩をすくめ、それからオルデンシュタイン家が準備してくれた馬車に向かう。


「こちらへどうぞ、勇者ジーク様、魔女セラフィーネ様」


 迎えに来たのは執事のベルンハルトであり、彼が恭しく頭を下げてジークたちを馬車に迎える。


 ジークたちが馬車に乗ると早速馬車はオルデンシュタイン家の屋敷に向かった。


 馬車は神々の神殿の丘を下り、市街地を抜け、やや静かな区域に出る。ここら辺は高級住宅街なのか、落ち着いた雰囲気ながら広い敷地を有する家屋が立ち並んでいる。


「……エミール様は何か言っておいででしたでしょうか?」


 そんな高級住宅地に入ったときにベルンハルトがジークたちにそう尋ねた。どこか縋るような口調にジークは困ったように眉を歪める。


「一応話は聞いたけど、俺の口から言ってもしょうがないだろ?」


「……そうですね。申し訳ありません」


 ジークはそう言い、ベルンハルトはそれ以上しつこくは聞かなかった。


 それから馬車はある邸宅の正門を潜り、エントランスの前へと向かっていく。


「お客様をお連れした。勇者ジーク様と魔女セラフィーネ様だ」


「お待ちしておりました」


 ベルンハルトがエントランスで待機していた使用人たちにそう言い、使用人たちは一斉にジークたちに頭を下げて恭しく彼らを出迎える。


「どうも。今日はよろしく」


 ジークは使用人たちにそう挨拶し、ベルンハルトに連れられて屋敷の奥へ。


 屋敷の中は歴史を感じさせる作りをしており、古くはあるが品のある古さだ。インテリアなどは金をかけているのだろう。どれもこの屋敷の落ち着いた雰囲気に合うもので、金持ちの悪趣味というものがない。


「こちらで旦那様がお待ちです」


 そんな屋敷の中を進んでいくと広間に案内された。


「おお。あなた方が勇者ジーク殿と魔女セラフィーネ殿か」


 広間の中にはひとりの中年の男性がいた。燃えるような赤毛と翡翠色の瞳をした男性だ。その毛髪の色と瞳の色はびっくりするほどエマにそっくりだった。


「えーっと。あなたがオルデンシュタイン家の?」


「ああ。私がオルデンシュタイン家の当主アルブレヒトです。どうぞよろしくお願いします、ジーク殿」


 その人物こそオルデンシュタイン家の当主であるアルブレヒトであった。


「初めましてだな。他に客はいるのか?」


「ええ。二組ほど」


 セラフィーネが広い部屋の中に置かれた長いテーブルを見て尋ねるのにアルブレヒトはそう答えた。それからアルブレヒトはジークたちの後ろの方に視線を向けていることにジークが気づく。


「エミールなら来ないよ」


 視線に気づいたジークはそう言うとアルブレヒトは表情を大きく変えなかったが、それでも僅かに落胆の色を見せた。


「あの子は今も行商人を?」


「ああ。それで知り合ったからな。まあ、いろいろと大変そうだぜ。山賊に捕まったり、悪魔崇拝者に殺されかかったり」


「山賊に捕まったとは……?」


「俺たちが出会ったときの話なんだが……」


 ジークはエマに出会ったときの話をした。トリニティ教徒との戦いで山賊化した傭兵たちにエマが囚われており、それを助け出したときの話だ。


 その話を聞いていたアルブレヒトは険しい表情を浮かべていたが、話を最後まで聞くとジークたちに深く頭を下げた。


「あの子の危機を救ってくださってありがとうございます。なんとお礼をしていいか」


「多分、それはエミールが望んでないんじゃないかな」


 エマは自分を助けてもらったことへのお礼は自分でするつもりだろう。一方的ながら険悪な関係にあるオルデンシュタイン家にそれを肩代わりしてもらうのは、彼女は絶対に拒否するとエマの事情を聞いているジークは思った。


「そうですな……。ですが、今日は魔法学園を救ってくださったということでお礼をさせていただきます。どうぞゆっくりしていかれてください」


 アルブレヒトはそう言い、それと同じくして他の二組の客が姿を見せた。


「やあやあ。アルブレヒト、お招きいただき感謝するよ」


 そういって現れたのはアルブレヒトと同年齢ほどの中年男性で、黒髪をオールバックにして整え、白い派手なタキシードを身に着けていた。


 軍人なのだろうか。かなり鍛えられた体をしているのが服を着ていても分かる。歩き方も軍人のそれだ。軍人の歩きからは訓練で叩き込まれるため、特徴的な動きになりやすい。特に陸軍の軍人はそうだ。


「ああ。オスヴァルト、ようこそ。紹介しよう、こちらは勇者ジーク殿と魔女セラフィーネ殿だ。今回魔法学園を危機から救ってくださった英雄たちだ」


「おお。これはこれは。お会いできて光栄だ。私はオスヴァルト。ヴィンターシュタイン商会の会長をしている。どうぞよろしく」


 オスヴァルトと呼ばれた男はにやりと笑い、値踏みするようにジークとセラフィーネの方を見た。ジークもそんなオスヴァルトを上から下まででゆっくり眺める。


「あんた、元軍人かね?」


 それからジークはそう指摘した。


「ほう。分かるかな? 陸軍に将校として15年奉仕した。その金を持ってヴィンターシュタイン商会を立てたのだよ」


「ふうん。軍人から商売人とは珍しい」


「よく言われるが、私が主に取引しているのは政情不安な場所でね。陸軍将校としての知識と経験が役に立つことが多く、危険を犯しているからリターンも大きいのだよ」


「へえ」


 オスヴァルトが説明する内容にジークは感心していた。そして自分もそういう危険地帯で商売すれば儲かるのだろうかなどと考えたりする。ジークは陸軍将校としての知識はないが、不死身なのでリスクはないのだ。


 そしてオスヴァルトに続いて次の客が来る。


「こんばんは、アルブレヒト殿。今日はお招きいただきありがとうございます」


 次の客は夫婦だった。アルブレヒトより若い夫婦で、夫だろう男性は黒いタキシードを纏い、女性の方は濃紺のイブニングドレスだ。


「やあ、ツェーザル、コーネリア。君たちにも紹介しよう。こちらは我らが魔法学園を危機から救ってくださった勇者ジーク殿と魔女セラフィーネ殿だ」


「お会いできて光栄です。私はツェーザルと申します。若輩者ですが魔法学園の理事のひとりを務めさせていただいております。こちらは妻のコーネリア」


 次の客人も紹介され、ツェーザルと名乗った男性とコーネリアと紹介された女性が笑顔でジークたちにあいさつする。


「魔法学園の理事さんか。そういえば市長のネルファも理事だって聞いてたけど、学園の理事って一体何人で構成されているんだ?」


「魔法学園理事会は12名の理事とその中から選挙で選ばれる1名の理事長からなります。理事には私やアルブレヒト殿のように資金を供出していることから選ばれているものや、ネルファ殿のようにルーネンヴァルトにおいて責任ある地位にあるから選ばれている方もいますね」


「なるほどな。つまりそちらは魔法は?」


「恥ずかしながらあまり使えません。かつては魔法使いを志したこともあるのですが、商売人の方が割に合っているらしく。今はルーネンヴァルトでいくつかの交易会社を経営しております」


 どうやら今回の晩餐会の集まりは、基本的に商売人同士の繋がりによるものらしい。ジークたちはやや浮いているが、彼らが主賓だと考えれば、まあそこまでおかしくはない。同じ商売人仲間に知己を得た著名人を紹介するようなものだ。


「では、どうぞ席に。これからゆるりと談笑しながら食事を楽しみましょう」


 アルブレヒトが笑顔でそう言い、ジークたちは使用人に導かれて席に座る。


 まずは食前酒と前菜が出された。白ワインに魚介類のマリネだ。


「この度は勇者ジーク殿と魔女セラフィーネ殿を讃えて」


「英雄を讃えて」


 まずはアルブレヒトたちがジークたちを讃えて乾杯する。ジークもちょっと気恥ずかしいが、完敗に参加してそれからワインを味わった。甘めの美味しいワインだ。


「しかし、私たちは魔法学園であのような事件が起きるとは思ってもみませんでした。恐ろしいことです」


「私は悪魔崇拝者による事件だと聞いておりますぞ?」


 ツェーザルがそう不安そうに言うのにオスヴァルトがそう指摘する。


「ええ。犯人はよりによって同じ学園理事であったロタール殿だと分かっています。彼は悪魔崇拝者だったようです」


「なんと!? それは本当なのですか?」


 まだ情報が出回っていないのかアルブレヒトの言葉に驚くツェーザル。彼はそのままジークたちに真偽を確かめるように視線を向ける。


「ああ。ロタールは黒書結社っていう組織の幹部だった。死霊術(ネクロマンシー)を使って大暴れさ。最後にはリッチーにまで至ったし、強敵だったね」


 ジークワインをお替りしながらそう答えた。ただ酒は飲めるうちに飲んでおこうという貧乏思考なジークなのだ。


「ほう。勇者ジークが強敵と認めるほどの相手だったのですな、ロタール理事は?」


「私も強敵だったと認めよう。デュラハンを複数従え、ドラゴンゾンビまでもを操り、リッチーに至ったのだ。死霊術師(ネクロマンサー)としてはかなり高位の術者であった。もっとも最後に勝ったのは我々だがな」


 オスヴァルトが興味を持って尋ね、セラフィーネがジークに代わるようにワインを片手に答えた。


「魔法学園では久しく実戦向きの魔法は教えていないかと思いましたが、そのような実力者が隠れていたとは。面白いこともあるものですな」


「面白くはないでしょう、オスヴァルト殿。テロに魔法が使われたのですから」


「失礼。つい昔の感覚になってしまった。陸軍時代は私の知る魔法はいかにして敵を殺すかというものばかりで、魔法の価値というのはいかに大勢を殺せるかという一点にあったものでしてね」


 苦言を呈するツェーザルにオスヴァルトが謝罪してそう続ける。


「へえ。あんたは陸軍士官だった上に魔法使いなのか?」


「ええ、勇者ジーク。私は魔法使いで編成される部隊の指揮官を主に勤めたことで評価されたのだ。魔法は現代の戦いにおいてはあまり重要と思われておらず、確かに戦略的な戦局を左右するには弱い。だが、局所的、戦術的には使いこなせれば優位に立てる」


 魔法は現代戦から徐々に去っていった技術だ。兵の均質化と大量動員の時代において、少数の人間しか使用できない魔法というのは逆風が吹いていた。


 だが、それでもオスヴァルトが言うには戦術的価値はあるそうだ。


「昔は魔法使いこそが戦場を左右したものだがな。時代は変わったものだ。今の戦争は退屈だとは言わぬが、魔法使いが活躍した時代が懐かしくもなる」


「おお。まさに、まさにだ、魔女セラフィーネ。私も魔法使いが戦場に君臨する王のようであった時代が恋しいよ。もっともあなたと違って私は直接その時代を経験したわけではなく、書物でそれを知るのみだがね」


 セラフィーネがどこか懐かしそうにそう言うと、オスヴァルトが役者がするように大げさに大きく首を振って同意した。


「さて、そろそろ次に皿に進もう」


 全員が食前酒と前菜を味わったのを確認すると、次の皿としてスープが提供された。これもまたエビなどの魚介類で出汁を取ったもので、彩りよく盛り付けてある。


「ジーク殿。まだ機密であるならばお答えせずともいいのですが、悪魔崇拝者たちの捜査は順調なのでしょうか?」


「んー。まあ、進んではいるね。憲兵隊が今は主に進めてるから、俺たちはまた次のテロなどがあれば対応に当たるってところだよ」


「なるほど。エミールも憲兵隊に協力を? アイゼンローゼ商会の知り合いからそのような話を聞いたのですが……」


「ああ。ロタールが黒書結社の人間だって突き止めたのもエミールとアレクサンドラだしな。助かってるよ」


 アルブレヒトが尋ねるのにジークはスープを味わいながらそう答える。スープには魚介の旨味と野菜の優しい味が染み出ており、実に美味い。


 ここにいる人間はエミールについて知っているのか、アルブレヒトに『エミールとは誰か?』と質問するものはいない。ツェーザルとコーネリアは心配そうにアルブレヒトの方を見て、オスヴァルトはシェフが腕を振るったスープを味わうことに集中している。


「あの子が悪魔崇拝者を暴いたのですね」


 アルブレヒトはそう呟くように言い、スープをスプーンで口に運ぶ。


「勇者ジーク殿、魔女セラフィーネ殿。魔法学園ではゾンビから大勢の学生を救ってくださったと聞いています。そのお話を聞かせてはいただけませんか?」


「ああ。いいぜ。そうだな。まず俺たちが最初に向かったのは──」


 ジークはツェーザルの求めで魔法学園での事件について語り始めた。ゾンビやレイスの群れからアンネリーゼたちを救ったことや、ゾンビに囲まれた教室から何人もの学生を救助した話だ。


「流石は勇者と魔女と呼ばれるだけの方々ではあります。八面六臂の大活躍ですね」


「いやあ、その場その場でできることをやっただけだよ」


 ツェーザルとコーネリアがほめたたえるのにジークは気恥ずかしそうにそう返した。


「寡兵で大軍を破るのは実に美しい。軍事の上でそれに勝るほど美しい軍事行動はないだろう」


 話を聞いていたオスヴァルトもそう言ってジークとセラフィーネを讃える。


「私もできればそのような活躍をしてみたいものだった。しかし、軍人時代にはそのような機会には恵まれなかったのが残念だ」


「寡兵で戦争をやらざるを得なくなるようなことは本来避けるべきだからな。だが、確かに英雄とは危機を乗り切ってこそ生まれるものだ」


「ああ。まさに英雄の条件だ」


 セラフィーネが部分的に同意してみせ、オスヴァルトは深く頷く。


「そして、エレガントでもある。少数の精鋭たちが多くを殺すというのは、実にエレガントだ」


 オスヴァルトはそう言って赤ワインをくいっと飲み干した。


「さて、そろそろデザートとしましょう。食事は楽しんでいただけましたかな?」


「大満足」


 今日のコース料理には子牛のステーキも提供されており、久しぶりに美味い肉も食べられてジークは満足していたのだった。


……………………

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