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腐敗卿パイモン

……………………


 ──腐敗卿パイモン



 セラフィーネたちの前に立ちふさがる3体のデュラハン。


 纏っている黒い甲冑は全身を覆う古い時代のものであり、マスケットという小火器が存在する現代において実用性は今やほとんどない。それでも敵に威圧感を与えるには十分なものであった。


 ただし、セラフィーネはそのような甲冑を見せつけられたところで戦意を炊きつけられはしても威圧感を前に怯むことはない。


「ロジー。下がっていろ。ここは私が突破口を開く」


「了解なのです!」


 ロジーは憲兵とともに下がり、セラフィーネは朽ちた剣を手に間に出る。


「デュラハンよ。死してなお騎士であり続けられるか私が確かめてやろう」


 セラフィーネはそう言って朽ちた剣を手に駆けた。その狙いは中央で前に出ている1体のデュラハンだ。デュラハンたちは全員が戦斧で武装しており、セラフィーネの接近に対して3体すべてが連動したかのように動く。


 最初にセラフィーネと接触したデュラハンは斧を振り上げ、セラフィーネに向けて真っすぐに振り下ろした。セラフィーネはにっと不敵に笑うとさっと右によけて攻撃を回避し、脇から朽ちた剣をデュラハンの左腕に突き立て引き裂く。


「そら!」


 さらにセラフィーネは蹴りを入れデュラハンの体幹を揺らがす。よろめいたデュラハンにさらにセラフィーネが斬撃を加えて今度は右腕を斬り落とした。


 両腕を失ったデュラハンはその身を使ってセラフィーネへの体当たりを試みるが、小柄なセラフィーネは軽くそれを回避。さらに蹴りを叩き込んで今度こそデュラハンをエントランスの床に叩き倒した。


「ふん。この程度か?」


 しかし、まだデュラハンは2体存在している。デュラハンたちは今度は連携して2体同時にセラフィーネに遅いかかった。


「甘いぞ。その程度!」


 2体のデュラハンが左右から戦斧を振るうのをセラフィーネは後ろにステップして回避すると召喚した朽ちた剣を次々にデュラハンに叩き込む。デュラハンの纏っていた甲冑は予想通り役に立たず、朽ちた剣によって貫かれた。


「……妙だな。手ごたえがない」


 セラフィーネはデュラハンたちが弱すぎることに気づいた。


 デュラハンといえばもっと恐ろしい怪物であったはずだ。これではただの鎧をまとった巨躯の男であり、伝説の化け物とは言えない。


 セラフィーネがそう思って2体のデュラハンと対峙していたときだ。


 不意に銃声が響いた。憲兵隊のマスケットではない。それよりも大きなものだ。


「なっ……!」


 銃弾は前方にいた1体のデュラハンを貫通してセラフィーネに達し、彼女の腹部が抉られて(はらわた)が吹き飛ぶ。


「味方ごとだと……! どこから……!?」


 セラフィーネが視線を走らせる。


「あそこです、魔女セラフィーネ!」


 ロジーが声を上げた先には憲兵のマスケットの倍の口径はありそうな、ほとんど大砲でも呼ぶべきものを構えたデュラハンが2体。セラフィーネにその銃口を向けている。


「伏兵か……。しかし、また騎士に相応しくない武器を……」


 セラフィーネは忌々しげに銃を構えるデュラハンたちを見る。


 さらにここで最初にセラフィーネに両腕を切断されたデュラハンが起き上がり、背後からセラフィーネに襲い掛かった。前方から銃に狙われ、その銃の狙いがいつ後方のロジーたちに向くか分からない以上、セラフィーネに選べる選択肢は前進のみ。


 彼女は思い切り前に出て銃を持ったデュラハンを最優先で片付けようとする。


「間に合うか──!?」


 デュラハンは次弾を装填し始めており、火薬と弾薬をマスケットに詰める。大口径の中なだけあって装填には時間がかかるが、セラフィーネとの距離は十分に離れていた。


 次弾が装填され砲撃のような銃声がこだまする。


「ぐうっ……!」


 デュラハンが狙ったのは不幸中の幸いにしてセラフィーネであった。彼女は銃弾で左横腹を吹き飛ばされ、顔面の右半分も吹き飛ばされた。脳漿が散り、眼球が砕け、(はらわた)がまき散らされる。


「だが!」


 それでもセラフィーネは前に出て銃を持ったデュラハンを朽ちた剣で狙う。召喚された朽ちた剣が放たれ、すぐさま次弾を装填し始めていたデュラハンの両腕を斬り落とした。地面に銃が落ち、ごろりと重量感のある音がする。


「あと1体……!」


 デュラハンのもう1体はまだ装填作業中だ。セラフィーネは間に合うように思われた。


 だが──。


「ぐうっ……!」


 セラフィーネの背後から復活したデュラハンたちが追いつき彼女に体当たりする。それによってセラフィーネは地面に押し倒され、抵抗するも押さえつけられてしまう。いくら彼女でも3体の巨躯に押し倒されてはそう簡単には脱せない。


「魔女セラフィーネ! 今、援護を──」


 ロジーが支援しようとするのに彼女の頬を銃弾が横切った。つうっと白い肌から赤い血が流れてくる。


「そこまでにしてもらおう、諸君」


 そして、吹き抜けの2階からひとりの男とゾンビたちが姿を見せた。


 それは死人の仮面をかぶった男──すなわち学園理事ロタールであり、黒書結社の幹部たる腐敗卿パイモンだ。


 そしてマスケットで武装した無数のゾンビたちが戦列を組んでずらりと布陣する。彼らは前列が次弾を装填し始め、後列は銃口をセラフィーネとロジーたちに向ける。


「お前は……」


「私は腐敗卿パイモン。黒書結社の幹部のひとりであり、人間の愚かさを克服せんとするものなり」


 セラフィーネが問うのにパイモンはそう答えた。


「黒書結社……つまり貴様は悪魔崇拝者か」


 セラフィーネは自分を押さえつけているデュラハンを力尽くでぐぐぐっと押し上げるが、デュラハンはさらに体重をかけてセラフィーネを押さえつけた。


「おかしな真似はしないことだ。君は不死身だろうが、あそこにいる連中はそうではあるまい。撃ち合いになれば死人がでるだろう」


 そんなセラフィーネにパイモンがそう言い、ゾンビたちが前方にいるロジーたちにじっとマスケットの銃口を照準し続ける。


 ロジーたちは運悪くパイモンに人質にされてしまった形だ。


「だが、安心したまえ。私は誰かれ構わず殺したくて暴れているわけではない。殺戮以外の目的があってのことだ」


 パイモンはそうセラフィーネたちに向けて語る。


「目的とは大図書館ですか?」


「その通り。神々が隠している記録を暴くことこそが私たちの目的だ」


 ロジーが尋ね、パイモンはそう答えた。


「今の神々はいかにして神々になったのか。神々の存在そのものについての疑問への答えを私は求めている。彼らがどのようにして神々としての不老不死の肉体を手に入れたのか、とね」


「不老不死が貴様の願いか?」


「私が求めるのはただの不老不死ではない。人間が肉の体の愚かしさを捨てるための不老不死だ。肉の体に囚われている限り、我々には限界がある。肉の体がもたらす限界に縛られ──愚鈍であり続けるのだ」


 セラフィーネが尋ねるのにパイモンはまさに教師が講義をするように語り始める。


「歴史上、どれだけ聡明な王も年老いれば過ちを犯した。そもそもどうして人間は過つのか。それは人間が飢え、病み、老いるが故ではないのか?」


 パイモンはそう問いかける形をとったが答えを聞かずに続けていく。


「肉の体は不安定である。人間はそれゆえに戦争を起こし、敵対者を虐殺し、助けることない神々に祈る。もし、人間が神々のように不老不死であり、飢えることも、病むことも、老いることもなければ状況は一変するだろう」


「机上の空論だな。全て憶測にすぎない」


「だが、試す価値はある。犠牲を払ってでも」


 セラフィーネが嘲るように言うが、パイモンは気にせずそういう。


「そもそもどうやって不老不死を実現する気なのです? 不老不死になる方法が大図書館にある本に書いてあるとでも?」


 ロジーは冷静にそう尋ねるが、彼女の口調はパイモンのそれを否定していた。


 そう、不老不死になる手段が本に書いてあるなどということがある得るはずもない。そんなことがあれば、これまで実際にその知識で不老不死になった人間がいなければおかしいのだから。


「その確信はある。言っただろう神々がどうやって神々となったのかを解き明かすべきであると。神々は最初から神々ではなかったという考えが、我々の中にはほとんど事実として存在しているのだ」


「神々が神々ではなかった……?」


 意味不明なパイモンの言葉にロジーたちは怪訝そうな表情を浮かべる。怪訝そうといえばまだマシだが、セラフィーネなどは気の狂った男を見る目をしていた。


「そうだ。この宇宙の最初の最初、初めから神々はずっと神々であったとお前たちはそう思っているのか? 愚かな。神々はこの惑星が生まれ、人類という種が生まれてから神となったのだ」


「その根拠はなんだ? また憶測か?」


「古生物学だ。この惑星には人類以前に反映していた種が存在した。それは人間とは似ても似つかぬ生き物であったのだよ。それなのにその創造主が人間の姿をした神だと、お前たちは思っているのか?」


 セラフィーネがまた嘲りを込めていうのに今度はパイモンも彼女を嘲った。


「この宇宙を創造した本当の創造主は他に存在してる。それは間違いない。そして、神々は何かしらの手段でその創造主から神々としての不老不死を与えられたのだ」


 この世界では荒唐無稽な見解であった。


 創造主というものが存在するということ自体が奇抜な考えなのだ。現代の地球であろうと全てを創造した創造主が存在するということがなかなか受け入れられないように、この世界でも天地の全てを作った存在がいるというのは妙な意見であった。


 各地に建国神話や創造神話があるとしても、それらは()()する神々をっその起点に据えているから受け入れられているのだ。


 だが、それを大真面目に、冗談ではなくパイモンは唱えている。


「君と勇者ジークもまた神々から不老不死を与えられた存在だ。神々は不老不死について知識があることは間違いない。私の考える創造主が存在しなくても、それだけは間違いない事実だ」


 そう言いパイモンはデュラハンに取り押さえられているセラフィーネの下に歩み寄ってくる。死人の仮面の向こうで彼がどんな表情をしているかはうかがえない。


「その不老不死の知識と技術を私は知りたい。そして全ての人類にそれを与えたい。そうすれば人間の愚かさゆえに起こされるくだらない過ちはなくなるのだ」


 だが、パイモンは自らの言葉に酔っているかのようにそう述べた。


「それこそくだらん」


 しかし、セラフィーネはそう断じる。


「私もジークも不老不死になったから過ちを犯さなかったということはない。ただその時間を必死に生きてきただけだ。不老不死は何もかも解決する便利な手段ではないぞ」


 セラフィーネはそうパイモンに告げる。


 彼女は不老不死だが、過ちを犯さなかったわけではない。過ちを修正する機会があっただけであり、不老不死であろうと人は過つということをその身をもってして知っている人間であった。


「なるほど。そう反論するか。だが、君の想定している前提と私の想定している前提は異なっている」


 パイモンはそう言いながらセラフィーネを見下ろす。


「私は全ての人類が満ち足りた不老不死であることを想定している。君が経験したのはせいぜい神々と勇者ジークが不老不死である程度の世界だろう。私の考えている理想郷とは大きく異なる」


「理想郷と来たか。誇大妄想もそこまでくれば芸術だな」


「言っているがいい。その理想郷を実現するためなら、私はどれだけの犠牲も容認するつもりだ。君やその友人の犠牲もな」


 セラフィーネがあくまで嘲るのにパイモンはデュラハンに命じてセラフィーネを立たせる。そしてデュラハンに拘束されたまま立たされたセラフィーネの前に立ち、パイモンは片手で顎を摩る。


「君は不老不死だ。神々に与えられた不老不死である。私はそれがどのようになされたかを知りたい。それはどのようにして理解できるだろうかと考えていたが、シンプルにばらばらに解剖してしまうのもいいかもしれないな」


 拘束されたセラフィーネを前にパイモンは僅かな含み笑いをしながらそういう。


「私をこのまま辱められると思ったら大間違いだぞ?」


 セラフィーネがにやりと笑うのにパイモンの表情が警戒のそれへと変わった。


 次の瞬間セラフィーネたちに頭上に無数の朽ちた剣が召喚され、それがセラフィーネたちに降り注いだ。当然彼女を拘束しているデュラハンにもそれは降り注ぎ、デュラハンたちは串刺しにされていく。


「ほう! わが身を顧みない攻撃とは。実に不老不死らしい」


 パイモンは背後の下がって攻撃を回避しており、デュラハンもろとも串刺しにされたセラフィーネを見て実に感心した様子でそう言った。


「だが、忘れたかね? 私はそこにいる君と違って不老不死ではない人間をいつでも狙えるのだぞ?」


 そういってパイモンはマスケットを構えるゾンビたちにロジーたちを狙わせ、射撃を命じるように腕を振り下ろした。


 銃声が一斉に響き、ゾンビたちが発砲した。


 それによってロジーたちは──。


「させねえよ」


 ロジーたちを撃ち抜くはずだった銃弾は止められていた。


 そう、他でもないジークの手によって。彼の握る“月影”によって銃弾は全て叩き落された。彼は間に合ったのだ。


「遅いぞ、ジーク」


「何言ってる、魔女。きっかり30分以内だ」


 セラフィーネが背後を振り返って言うのにジークは不敵に笑ってそう返し、改めてパイモンの方を見る。


「お前がロタールだな? 黒書結社の人間なんだろ?」


 ジークは睨むようにパイモンこと学園理事ロタールを見た。


「だとしたら、どうするかね? 私は私の理想のために戦っている。そして、その戦いを今になってやめるつもりはない。私は決して理想を捨てたりなどしない」


 パイモンはそう言いゾンビたちが次弾を装填し始め、さらに後列のゾンビたちはすぐさまジークたちを狙った。


「私はここに要求する。ただちに我々黒書結社に対して神々の隠した大図書館の知識を開示することを。そうでなければ、この学園いる人間を殺し続けて、ここに屍の山を築くだろう!」


 ジークたちを前にパイモンはそう要求を述べた。その一方的な要求とそれがなれない場合の行動はテロリストのそれである。


「だーれがそんな要求飲むかよ。それにお前のアンデッドはすでにほとんど退治してきた。この学園でこれ以上虐殺を行うことなんてできないぞ?」


 ジークはここまで到達するまでに多くのアンデッドをすでに撃破してきた。ゾンビもレイスも倒し、彼は孤立していた大勢の学生と教師を救出しているのだ。ここにきてパイモンが学園を人質にしても無駄である。


「ほう。本当にそう言えるかな?」


 しかし、パイモンが不敵に笑う中、ドーラ棟が自身が起きたかのように震え始めた。


「おいおい。お次は何が……!?」


 ジークたちが動揺する中で地下から何かが這い上がってくる。


「さあ、来るがいい、我がしもべドラゴンゾンビよ──!」


 パイモンのその言葉とともに地下からその怪物が姿を見せた──。


……………………

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