転生悪役令嬢おじさん、帰国祝祭で三角関係に巻き込まれる件
王都の中心広場は、かつてない賑わいを見せていた。
「健康改革記念祭」と銘打たれ、糖分控えめの屋台がずらりと並び、海藻入り味噌汁の香りが漂う。
舞台の上では筋肉隊がスクワットを披露し、子供たちが「ぎゃはは! お尻が揺れてるー!」と歓声をあげている。
国王は胸を張り、かつての肥満気味の姿からは想像できないほどスリムになっていた。
「見よ! これぞ健康外交の成果だ!」
王妃も笑みを浮かべ、以前よりも張りのある声で挨拶する。
「陛下が夜中にこっそり角砂糖を舐めなくなっただけで、ここまで変わるのですわ」
観衆「おぉぉぉ!!」「奇跡だー!」
その歓声の中で、俺――エレナ=フォン=クラウス(中身はおじさん)は、タオルを翻しながら扇子を広げた。
「おーっほっほ! この祭典は、健康の勝利でございますわ!」
しかし……俺の両脇には微妙な緊張が走っていた。
セレーネは涼やかな瞳で俺を見つめ、さらりと告げる。
「エレナ……あなたがいなければ、ここまで改革は進まなかった。
……だからこそ、もっと一緒に歩んでほしいのです」
ユリウスは筋肉を隆起させながら、声を張り上げる。
「いや! お嬢様を支えるのはこの俺だ! エレナ様、スクワットと共に未来を築こうじゃないか!」
観衆「ぎゃはは! 三角関係勃発だー!」
俺はタオルで額を拭き、内心で呻く。
「……外交より難易度の高い交渉が始まってしまいましたわね……」
祭りの中心広場。
「健康改革記念・ペア競技大会!」と銘打たれた即席イベントが始まった。
参加者は二人一組で屋台の“健康チャレンジ”をこなしていく――野菜早切り競争、味噌汁早よそい、そして締めは名物のスクワット千本勝負。
司会「さぁ! まずはエレナ様、どなたとペアを組まれますか!?」
観衆「おぉぉぉ!!」
俺は慌ててタオルを握り直した。
「おーっほっほ……これは外交儀礼ではありませんの!?」
セレーネが一歩進み出て、静かながらも鋭い声を響かせる。
「……当然、私とです。分析と戦略において、エレナを補佐できるのは私だけです」
ユリウスも筋肉を隆起させ、鶏肉を片手に吠えた。
「いや! 俺とならどんな競技も筋肉で制覇できる! エレナ様、ペアは俺だ!」
観衆「ぎゃはは! どっちだー!」
「セレーネ派!」「ユリウス派!」と、祭りはまるで恋愛劇場の様相に。
俺は必死に扇子を広げた。
「おーっほっほ! わたくしは政治と健康の専門家であって、恋愛リアリティ番組の主演ではありませんわ!」
だが司会はニヤリと笑ってマイクを向ける。
「エレナ様! 選択のお時間です!」
セレーネとユリウスの視線が同時に突き刺さる。
俺はタオルで額を拭きつつ、心の中で悲鳴を上げた。
「……この国の最大のストレスは、外交ではなく恋愛沙汰なのでは……!?」
観衆「ぎゃははは!! 三角関係だーー!!」
「第一競技! 健康野菜早切り対決ー!」
掛け声とともに、机の上には大量のキャベツと包丁。
セレーネは白い手で包丁を握り、落ち着いた所作でリズミカルに切っていく。
「……ほら、均一な厚みで切ると栄養も損なわれにくいのです」
観衆「おぉぉぉ! 理論派!」
一方ユリウスは筋肉全開でキャベツを豪快に叩き切った。
「筋肉で刻めば栄養も逃げないッ!」
バサァァンッ! 机ごと真っ二つ。
観衆「ぎゃはは! 机まで割れた!」
俺はタオルで額を拭きながら、必死でフォローした。
「おーっほっほ! 食物繊維は細胞壁に守られているので、力任せでは意味がありませんわ!」
続く第二競技――「味噌汁早よそい」。
セレーネは湯気の立つ鍋をすくい、上品に椀へ。
「……適温に冷ますと消化に優しいのですよ」
観衆「ほぉぉぉ!」
ユリウスは丼を片手に一気に鍋を持ち上げた。
「一気に注げばスピード勝負!」
ドバァッ! 床まで洪水。
観衆「ぎゃははは! 床が味噌汁!」
俺はまたも扇子を振って叫ぶ。
「おーっほっほ! 摂取より前に“後片付け”でストレスが蓄積いたしますわ!」
そして最終競技――「スクワット千本勝負」。
セレーネは無言で俺の横に立ち、静かに呼吸を合わせる。
「……一緒に数えれば、長く続けられます」
ユリウスは反対側で拳を突き上げた。
「エレナ様! 俺となら限界を突破できる!」
両側から熱いアピールを受け、俺はとうとう胃を押さえた。
「おーっほっほ……! 外交より……ストレスフルですわ……!」
観衆「ぎゃはは! エレナ様が胃をやられてるー!」
「スクワット千本勝負、終了ー!」
司会の声と同時に、広場のあちこちでバタバタと倒れる音が響く。
セレーネは額に汗を浮かべながらも背筋を伸ばし、涼やかに呼吸を整えていた。
「……一緒に数えると、不思議と楽に感じましたね」
観衆「おぉぉ……!」
ユリウスは筋肉を隆起させ、肩で息をしつつも拳を突き上げる。
「まだだ! 俺の筋肉は限界を超える! エレナ様、俺となら千本どころか一万本だって!」
観衆「ぎゃはは! 無茶言うなー!」
俺はタオルで汗と涙を拭い、扇子をパシンと鳴らした。
「おーっほっほ! 結論ですわ! スクワットも、魚も、角砂糖も――極端は毒、調和こそ真の健康!
恋愛もまた同じ、片方に偏れば国の均衡は崩れますのよ!」
観衆「おぉぉぉぉ!!!」
だが――その一言にセレーネとユリウスは同時に食い下がった。
セレーネ「……つまり、あなたは私を選ぶということですね」
ユリウス「いや違う! 調和=筋肉! つまり俺だ!」
観衆「ぎゃはは! まだ続くのか三角関係ー!」
俺は胃を押さえながら、半ば叫ぶように締めくくった。
「おーっほっほ! もうやめてくださいまし! わたくしは外交官であって、乙女ゲームの主人公ではありませんわーー!!!」
広場は笑いと歓声に包まれ、国民たちは「健康の祭典」にも「恋のドタバタ劇」にも大満足。
こうして帰国祝祭は幕を下ろした……が、三角関係の火種はますます燃え広がるのであった。
おーっほっほ! 本日は恋愛と失恋が、体にどのような影響を及ぼすかを学術的にご紹介いたしますわ。
恋もまた“ホルモンと神経伝達物質の舞台”にございますのよ。
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◇ 恋愛初期に働くホルモン
・ドーパミン:快楽と意欲。会いたい・楽しい気持ちの源。
・ノルアドレナリン:胸の高鳴り・食欲低下・眠れぬ夜。
・セロトニン低下:相手のことばかり考えてしまう執着感。
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◇ 男女の違い
・男性 → テストステロンが高まり、積極性や競争心が増す。
・女性 → エストロゲンで肌や声にも変化。さらにオキシトシンで安心感が増しやすい。
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◇ 安定期(カップル期)
・ドーパミンは落ち着き、オキシトシンやバソプレシンが優位に。
・信頼や絆が深まり、生活リズムも安定して健康効果が出やすい。
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◇ 失恋時の影響
・コルチゾール(ストレスホルモン)が急増 → 不安・免疫低下。
・セロトニン不足 → 抑うつ・不眠。
・脳の“痛みを感じる領域”が活性化 → 本当に「胸が痛い」と感じる。
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◆ 総括
おーっほっほ! 恋は甘美なホルモンの饗宴、失恋はその逆。
ですが大切なのは、睡眠・栄養・運動で自律神経を支え、心身を立て直すことですわ!
恋を楽しむにも、立ち直るにも――健康あってこそ、ですのよ!




