転生悪役令嬢おじさん、美容外交で国境を越える件
王都に設立された「淑女美容健康学院」は、すでに日々の授業で賑わっていた。
「日焼け止めを塗るようになって肌の調子が!」
「測定したら血圧が下がってきたわ!」
「筋肉は裏切らないー!」
――そんな声が広場に溢れ、国全体がちょっとした健康ブームに包まれていた。
だが噂は、国境を越えて広がっていた。
サクロ王国との外交で砂糖文化を正した話。
ガルダ商会連邦で脂文化を論破した話。
フィトリア公国で断食信仰に立ち向かった話。
そして今、王都の学院の存在は――「新しい外交カード」として各国の耳に届きつつあった。
ある日、王宮に外交使節が訪れる。
赤と金の豪奢な服を纏い、香辛料の香りを漂わせる一団。
「我らはペッパリア王国より参りました。聞き及びましたぞ――美容健康学院なるものが、王都に新風を巻き起こしていると」
王妃が涼やかに応じる。
「ええ、その通りです。王都の女性たちは、今や健康と美を数値で管理し、正しい知識を学んでおります」
だが使節の代表はにやりと笑い、声を張った。
「ふふ……ならば我が国にも、その知識を広めていただきたい!
だが――我らペッパリアには“伝統の辛味信仰”がある。
果たして、あなた方の美容健康学院と相容れるかどうか……」
大広間に緊張が走る。
俺――エレナ=フォン=クラウス(中身はおじさん)は、タオルを肩にのせてすっと一歩前に出た。
「おーっほっほ! 辛味信仰? ……よろしい。
美容と健康が外交の舞台になるのなら、このわたくしが直々に――辛味と科学の真価を見せて差し上げますわ!」
会場「おぉぉぉ!!」
こうして、新たな国境を越える“美容外交”が幕を開けた。
数日後。
俺たちはペッパリア王国の首都、スパイスラードへと到着した。
馬車を降りた瞬間――
「ゴホッ……!? 目が、目がぁぁ!」
ユリウスが涙目でむせ返る。
街全体に唐辛子の赤粉が舞い、通りの屋台からは胡椒・山椒・カレー粉まで香りが渦を巻いていた。
庶民が歩くだけで汗をだらだら流し、顔を真っ赤にしている。
商人「本日限定! “激辛チリ粥”! 汗をかいて毒素を出せ!」
職人「“胡椒湯”一杯で邪気退散!」
貴婦人たちは香辛料で真っ赤に染まったマスクを顔に押し当て、
「これでシミも吹き飛びますの!」と真剣に信じている。
セレーネは眉をひそめた。
「……辛味は確かに抗菌・代謝促進効果はありますが……ここまで極端では胃粘膜が荒れるだけです」
俺はタオルで額を拭いながら、街角の様子を観察した。
「おーっほっほ! 汗だくで真っ赤な顔……これを“美容”と呼ぶなら、ただの拷問ですわね!」
しかし広場では既に歓迎の準備が整っていた。
巨大な唐辛子のモニュメントが掲げられ、香辛料兵団が列をなし、観衆が声を揃える。
「辛味こそ神の加護! 辛味こそ美と健康!」
ユリウスは苦悶の表情でつぶやいた。
「……こ、ここでスクワットしたら死ぬ……!」
使節の代表が再び前に進み、壇上で高らかに宣言する。
「さぁ! ペッパリアの伝統を前にしても、貴様の美容学院の理屈が通じるか試してみよ!」
群衆「おぉぉぉ!!」
俺は扇子を開き、タオルを翻して笑った。
「おーっほっほ! 辛味は薬にもなるが、毒にもなる。
本日の実験で――皆さまの目に、真実を焼きつけて差し上げますわ!」
広場中央に、真っ赤に染まった長机が並べられた。
大皿に盛られたのは――「激辛カレー粥」「唐辛子ステーキ」「胡椒スープ」。
見ただけで汗が噴き出しそうな料理ばかりだ。
司会役の神官が声を張り上げる。
「これぞ我が国の“辛味三聖餐”! 食べれば心身が清まり、美貌が宿る!」
観衆「おぉぉぉ!!」
俺は扇子をひらめかせ、すっと前へ出る。
「おーっほっほ! 言葉だけでは信じられませんわ。
――ここで公開実験をいたします!」
セバスが体組成計・胃内視鏡魔導具・発汗量センサーをずらりと設置する。
観衆がざわめく。
「なんだあれは!?」「魔導器具?」「測定だと!?」
まずは地元の若い兵士が“激辛カレー粥”をすすった。
ごくり――瞬間、顔は真っ赤になり滝のような汗が噴き出す。
ピピッ。
「心拍数:180/分」
「発汗量:通常の5倍」
「胃粘膜炎症反応:陽性」
俺はタオルを翻し、勝ち誇るように言い放った。
「おーっほっほ! これは“毒素排出”ではなく、ただの胃の悲鳴ですわ!」
観衆「ひぃぃ!」「そんな……!」
次に胡椒スープを飲んだ貴婦人の測定値。
「血圧:上200/下130」
「胃酸分泌:過剰」
「皮膚表面:赤み増加」
俺「おーっほっほ! これを“美白”と呼ぶなら、火傷も美容という理屈ですわ!」
観衆「ぎゃはははは!」
ユリウスが勝手に唐辛子ステーキを口に放り込み、苦悶しながらスクワット。
「ぐぉぉぉ! 辛味と筋肉の融合だぁぁ!」
→ 発汗量センサーが振り切れる。
セレーネ「……これはただの脱水です」
観衆「ぎゃははは!」
壇上の代表は顔を引きつらせつつも叫んだ。
「で、ですが! 辛味には抗菌効果がある! 風邪も治す!」
俺はタオルで額を拭い、冷ややかに告げる。
「確かに適量は薬。ですが――この量は毒!
香辛料は料理を引き立てるものであって、美容の万能薬ではありませんのよ!」
観衆「おぉぉぉぉぉ!!」
広場の熱気は唐辛子以上に高まり、観衆は息を呑んで壇上を見つめていた。
俺はゆっくりと扇子を閉じ、タオルで額をぬぐった。
「おーっほっほ! 香辛料は確かに素晴らしいもの。
消化を助け、代謝を上げ、料理を彩る――適量なら薬ですわ。
ですが、過ぎれば胃を焼き、血圧を上げ、肌を傷める――過剰なら毒。
美と健康を支えるのは、辛味信仰ではなく――節度と調和ですのよ!」
観衆「おぉぉぉぉぉ!!」
セレーネが冷静に一言。
「……つまり“香辛料は調味料であって、主食ではない”。それが結論ですね」
ユリウスは真っ赤な顔で叫んだ。
「スクワットもそうだ! 適度だから筋肉! 過剰はケガ!」
観衆「ぎゃははは!」
壇上の代表は唇を噛みしめ、やがて膝をついた。
「……完敗だ。ペッパリアの伝統を否定されたわけではない。
だが、お前の言う“節度と調和”こそ真理だ……」
王妃が静かに前に進み、場をまとめる。
「では本日より、ペッパリア王国と我が王国は――“健康外交同盟”を結びましょう。
互いの文化を尊重しつつ、正しい知識で美と健康を広めるために」
観衆「うぉぉぉぉぉ!!!」
俺は扇子を掲げ、堂々と宣言した。
「おーっほっほ! これでまた一つ、美容と健康の輪が広がりましたわ!
砂糖でも脂でも辛味でもない――真の美は、習慣と調和の積み重ねにありますのよ!!」
歓声が街を揺るがし、俺たちの“美容外交”は大きな成果を収めたのだった。
おーっほっほ! ペッパリアの辛味信仰、皆さま楽しんでいただけました?
さてここで改めて――辛味と健康の真実を学んでいただきますわ!
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辛味の有効性(適量なら薬)
•カプサイシン(唐辛子の辛味成分)
→ 交感神経を刺激して発汗・代謝を一時的にアップ。
→ 血行促進や食欲増進に役立ちますわ。
•胡椒や山椒の辛味成分
→ 抗菌作用や消化促進効果あり。料理の安全性を高める役割も。
つまり、少量の辛味は「体を温める薬」になるのですの。
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過剰摂取の危険(毒に変わる瞬間)
•胃粘膜刺激 → 胃炎・胃痛
•発汗過多 → 脱水症状
•血圧上昇 → 高血圧リスク増加
•皮膚刺激 → 赤み・かゆみ
過剰な辛味は「体に良い」どころか「体を痛めつける拷問」になってしまいますわ。
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バランスの取り方
•辛味はあくまで「調味料」であって、主食ではありませんの。
•ご飯・野菜・タンパク質と組み合わせて、料理のアクセントに。
•「ちょっと汗をかいて気持ちいい」くらいがベストライン。
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総括
おーっほっほ! 辛味は薬にも毒にもなる“両刃の剣”。
適量=代謝の味方、過剰=胃腸の敵――これを忘れなければ、あなたも立派な“スパイスの淑女”になれますわ!




