転生悪役令嬢おじさん、異世界美容学を発明する件
王宮サロンの後日。
王妃は控えめに扇を閉じ、わたくし――エレナ=フォン=クラウスへと視線を向けた。
「……エレナ。先日のサロンは楽しかったけれど、このままでは民間療法と噂話の場になってしまいますわ。
本当に正しい、美容と健康を広めたいのです」
俺はタオルで額を拭いながら、にやりと笑った。
「おーっほっほ! 王妃様、すでにその件、手は打ってございますの」
観客席の奥から、黒燕尾服のセバスが姿を現した。
「お嬢様のご命令どおり、“美容特注品一式”を調合いたしました」
銀のトレーに載せられたのは、透き通る小瓶、木の箱に収められたローラー、そして白い陶器の軟膏壺。
王妃は目を丸くする。
「これは……?」
俺は指先で小瓶を掲げた。
「まずはこちら。王都北の薬草“白菫草”から抽出した成分――まるでナイアシンアミドに似た効能を持ちますわ!
肌の水分保持を高め、炎症を鎮める……いわば“潤いの盾”ですのよ」
ざわめく貴婦人たち。
セバスが続いて別の瓶を差し出す。
「こちらは“夜花のオイル”。レチノインに似た作用があり、ターンオーバーを促進いたします。ただし強すぎれば肌を荒らす恐れも」
俺は扇子を開き、観衆に向かって高笑いした。
「おーっほっほ! 使いすぎれば“シワ改善”どころか“赤鬼肌”ですわ! 節度こそ美の第一条件!」
さらにセバスは小箱を開け、魔導金属の細針ローラーを示す。
「“ダーマローラーもどき”でございます。極小の刺激により、コラーゲン生成を促進します」
「きゃあ!」「そんな器具まで!」と貴婦人たちがざわめく。
俺は最後に白い陶器の壺を掲げた。
「そして決定版――セバス特製“日焼け止め軟膏”。
紫外線こそ最大の老化因子! これを塗らぬ美容など、ただの気休めでございますわ!」
会場「おぉぉぉ……!」
王妃は感嘆のため息をつき、優雅に頷いた。
「……これなら、本当に“正しい淑女の学院”にできますわね」
俺はタオルを肩にかけ直し、声を張り上げた。
「おーっほっほ! 今宵のサロンは、愚かしき砂糖パックから脱却し、“異世界美容学”の夜明けといたしましょう!」
「では、まず実演とまいりましょう!」
俺は扇子をパチンと鳴らし、セバスに合図を送った。
銀のトレーから最初に取り出されたのは“白菫草エキス”の小瓶。
「こちらを角砂糖パック愛好家のご令嬢に」
ちょん、と肌にのせると――
「きゃっ、しっとりする!」
顔に広がったのは、砂糖で突っ張った乾燥肌とは正反対のやわらかな潤い。
俺はドヤ顔でタオルを翻した。
「おーっほっほ! 砂糖は乾かす、草は潤す。自然の理は数字より雄弁ですわ!」
会場「おぉぉ〜!」「なるほど!」
次に“夜花オイル”。
ふらつき気味の断食令嬢に塗布すると、軽い刺激で頬がぽっと赤らむ。
「な、なにか……血が巡る感じ……!」
セレーネが冷静に補足する。
「ターンオーバー促進による血流変化です。ですが使いすぎれば逆効果」
俺は扇子を広げて警告。
「おーっほっほ! “美容は刺激”ではなく“適度な刺激”ですのよ!」
続いて登場したのは“ダーマローラーもどき”。
ユリウスが自ら進み出て腕にコロコロ……。
「おぉっ! これで筋肉の上に美肌まで重なるのか!」
だが少し力を入れすぎ、真っ赤になって悲鳴。
「ぐわぁぁ! 痛いっ!」
会場大爆笑。
俺は即座にローラーを取り上げた。
「おーっほっほ! これは微細な刺激の器具! お前が使えばただの“筋肉拷問器”ですわ!」
最後に“セバス特製日焼け止め軟膏”。
油顔で悩んでいた貴婦人の頬に薄く塗布すると――
「まぁ! べたつきが消えましたわ!」
肌がさらりと落ち着き、歓声が上がる。
俺は勝ち誇ったようにタオルを振り回し、宣言した。
「おーっほっほ! 美容の真実は、砂糖水や油田パックではなく――正しい成分と正しい使い方!
これぞ淑女の新常識ですわ!」
会場は拍手喝采、そして爆笑の渦に包まれた。
「そして最後にご紹介するのは――“発酵果実液”」
俺は淡い琥珀色の液体を掲げた。
「これは角質をやさしく剥がし、肌を明るくするもの。いわばグリコール酸に近い存在ですわ」
ざわめく貴婦人たち。
「まぁ……角質が剥がれるですって?」
「くすみが消えるのかしら」
セバスが小筆で、試しにある令嬢の手の甲へと一滴。
しばらくすると――
「わぁ……! つるつるになってる!」
肌の一部がなめらかに整い、歓声が広がる。
俺は扇子をひらめかせ、にっこり笑った。
「ですが! これを屋外で使えば――紫外線で“まだら姫”一直線!
おーっほっほ! 美白のはずが“斑点パレット”になりかねませんわ!」
会場「ぎゃははは!」「まだら姫は嫌だー!」
セレーネが補足する。
「グリコール酸は角質を弱めるため、紫外線対策が必須……。この世界でも理屈は同じ、ということですね」
ユリウスは腕を組んでうなずく。
「つまり、スクワットの後に日焼け止め! これこそ美肌筋肉法だ!」
会場「違うと思うー!」
笑いと納得が渦巻く中――リリアーナが勢いよく立ち上がった。
「ふん! そんな小賢しい液体よりも――わたくしの“砂糖水美容”の方が高貴ですわ!
角質など甘味で包み込み、しっとり輝かせればよろしいの!」
俺は深いため息をつき、タオルを肩にかけ直した。
「おーっほっほ! ではリリアーナ様、実際に“肌水分量”を測定させていただきましょうか」
ピピッ――表示された数字は……15%(極度乾燥肌)。
会場「ひぃぃぃ!」「砂糖水でカラッカラだ!」
リリアーナ「そ、そんなはずは……!」
俺は扇子をパチンと閉じて高らかに笑った。
「おーっほっほ! 甘味は飾り。真の美容は科学と習慣にあり! もはや明白ですわ!」
サロンの空気は、もはや「噂の寄り合い」から「学びの場」へと一変していた。
王妃はゆるやかに立ち上がり、紅の扇を閉じて宣言する。
「……本日をもって、この“淑女の健康サロン”を、王都公認の美容健康学院として昇格させます。
ここで正しい知識を学び、民へ広めましょう。美容と健康は、この国の未来を照らす光ですわ」
「おぉぉぉぉ!」と貴婦人たちが総立ちになり、拍手喝采。
セレーネは手帳に「制度化:完了」と書き込み、ユリウスは筋肉を見せつけながら「筋肉学部も作るべきだ!」と叫んで転倒。
俺――エレナ=フォン=クラウスは、タオルをひらめかせて高らかに笑った。
「おーっほっほ! 砂糖水で輝くなど幻想!
真の淑女は、正しい成分と節度ある習慣を以ってこそ美を得るのですわ!
今日この日より、美容は愚かしき流行ではなく、王国の叡智となりますのよ!」
「おーっほっほっほっほ!」
会場は爆笑と歓声に包まれる。
……しかしただ一人、リリアーナだけが唇を噛んで立ち上がった。
「わ、わたくしは……! まだ認めませんわ!
砂糖こそ伝統! たとえ学院ができようと、甘美なる高貴は失われませんの!」
その後ろで王子は相変わらず胃薬を握りしめ、椅子に沈んでいた。
「……砂糖……もう無理だ……」
こうして「淑女サロン改革」は王妃とエレナの勝利に終わり、王都は一歩、美と健康の未来へ踏み出したのであった。
おーっほっほ! 本日のサロンで砂糖水や油田パックが無惨に散った今こそ――
わたくしが“科学的に効果が裏付けられた成分”をご紹介いたしますわ!
※ここでは皮膚科学・臨床試験・レビュー論文などで効果が確認されているものに絞ります。
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ビタミンC(アスコルビン酸・その誘導体)
•効果:美白(メラニン生成抑制)、抗酸化作用、コラーゲン合成促進。
•ポイント:水溶性のため不安定、市販品は「誘導体」型が多い。
•注意:高濃度だと刺激感あり。
•「おーっほっほ! 砂糖水ではなくビタミンC水こそ、真の貴族美容ドリンクですわ!」
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レチノール/レチノイン酸(ビタミンA誘導体)
•効果:ターンオーバー促進、しわ改善、皮膚の厚みUP。
•エビデンス:アンチエイジング分野で“最も確立された成分”。
•注意:刺激強め、必ず日焼け止め併用。妊娠中は禁忌。
•「おーっほっほ! 赤鬼肌と紙一重! 節度を守ってこそ貴族の嗜みですわ!」
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ナイアシンアミド(ビタミンB3誘導体)
•効果:皮膚バリア機能改善、保湿、美白(メラニン転送阻害)、しわ改善。
•エビデンス:臨床試験で“低刺激・多機能”と評価。
•「おーっほっほ! これは“万能侍女”のような存在、美白も保湿も任せて安心ですわ!」
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ヒアルロン酸
•効果:高い保水力(自重の1000倍の水分保持)、皮膚の保湿。
•ポイント:分子サイズによって浸透性が変わる。
•「おーっほっほ! 砂糖水で乾燥するくらいなら、ヒアルロン酸の水分浴びてからお茶会に参りなさいませ!」
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ペプチド類(Matrixylなど)
•効果:コラーゲン合成促進、しわ改善。
•エビデンス:臨床研究でも効果が確認されつつある“次世代成分”。
•「おーっほっほ! 筋肉はスクワットで、肌はペプチドで鍛えるのですわ!」
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グリコール酸・乳酸(AHA)
•効果:角質除去、ターンオーバー正常化、ニキビ跡やくすみ改善。
•注意:濃度とpHに注意、紫外線対策必須。
•「おーっほっほ! “まだら姫”になりたくなければ、夜と日焼け止めを守ることですわ!」
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日焼け止め成分(紫外線吸収剤・散乱剤)
•効果:光老化の最大原因=紫外線を防御。
•エビデンス:皮膚科学的に“最も確実なアンチエイジング”。
•「おーっほっほ! 貴族が日焼け止めを怠るなど、舞踏会に裸で行くようなものですわ!」
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総括
美容の世界は噂と民間療法であふれております。
ですが――科学が認める真実は「ビタミンC、ビタミンA、ナイアシンアミド、ヒアルロン酸、ペプチド、AHA、そして日焼け止め」。
おーっほっほ! 次にサロンで砂糖水を振る舞う者がいれば、このリストを叩きつけてやりますわ!




