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転生悪役令嬢おじさん、健康ブームが暴走する件

王都の朝――。

広場に出てみれば、国民の姿がどこか妙だった。


「……お、おなかが……」

ふらつく男がパンを抱えながら倒れる。聞けば「断食は一日三十六時間が至高!」などと言い出していたらしい。


隣の広場では――。

「うおおおお!!!」

筋肉を誇る青年たちがスクワットを延々繰り返し、足をガクガクさせながらその場に崩れ落ちていた。

「……回数こそ力! 限界突破こそ健康!!」


さらに市場では、菜食主義派と肉食主義派が睨み合っていた。

「野菜以外は毒だ!」

「いや肉こそ生命の源だ!」

「「お前が国を滅ぼす!!」」

……その両者とも顔色は青白く、今にも倒れそうである。


俺――エレナ=フォン=クラウス(中身はおじさん)はタオルで額を拭き、深いため息をついた。

「おーっほっほ。健康革命は確かに定着しましたわ……ですがこれは暴走しすぎですわね」


セレーネが書類を片手に呟いた。

「……統計上、この一週間で“やりすぎ健康”による救護依頼は三倍に増加。国民の健康意識が極端に振れた結果です」


ユリウスは腕を組み、どや顔で叫ぶ。

「だが筋肉のためなら倒れるのも本望だ!」

「……お前もオーバートレーニング組ですわよ!!」

俺のツッコミが王都に響いた。


王宮の謁見の間。

俺が暴走する市民の惨状を報告すると、国王と王妃は顔を見合わせた。


「ふぉっふぉっふぉ……国民が健康に熱心なのは喜ばしいが、度が過ぎておるのう」

国王は以前よりずっと精悍な顔で腕を組み、どこか誇らしげだった。

「……陛下。最近は一日二回の散歩と、夜は塩分控えめのスープで過ごしていますわ」

王妃は落ち着いた声で付け加える。

「その結果、血圧も体重も安定。余計に、今の国民の極端さが危うく見えるのです」


俺はうなずいた。

「ええ。健康革命が“流行”になりすぎ、もはや宗教めいておりますわ。

──だからこそ、“バランス”の大切さを広める必要がありますの」


セレーネが冷徹に指を走らせる。

「……提案します。“王都健康大会”。王宮主催で、市民に正しい知識を競わせ、啓蒙する場を設けるのです」


ユリウスが食い気味に拳を振り上げた。

「おお! 筋肉大会か!」

「……違いますわよ!!」俺は即座にタオルを投げつけた。


しかし国王は大笑いし、玉座から立ち上がった。

「よい、余が音頭を取ろう! 名付けて――“王都健康フェスティバル”じゃ!」

王妃も小さく頷き、

「……ならば講義や診断も取り入れましょう。知識と楽しみの両立こそ王国の在り方です」


こうして、暴走する国民を正すための一大イベントが決まったのだった。


数日後――王都広場は、色とりどりの幕で飾られ「王都健康フェスティバル」と銘打たれていた。

屋台には漬物試食、呼吸法講座、軽運動コーナー、発酵飲料の試飲まで並び、群衆でごった返している。


ステージ中央に立ったのは、俺――エレナ=フォン=クラウス(中身おじさん)。

「おーっほっほ! 本日のテーマは“バランスこそ健康”。偏りは毒でございますわ!」


観客から声が飛ぶ。

「断食こそ至高! 食わなければ体は浄化するんだ!」

「肉だけ食べれば力こそ正義だ!」

「野菜だけが人類を救うのだ!」


……極端派が揃いも揃って叫んでいる。


俺はドレスの袖から、次々と診断機器を取り出した。

「おーっほっほ! では証明いたしましょう!」


まずは断食派の青年をステージへ。

俺が血圧計を巻くと――ピピッ。

「上85、下50。低血圧ですわ! これでは立ちくらみ一直線!」

群衆「ひゅぅぅ! 倒れるぞーー!」


次に肉オンリー派。体脂肪計に乗せる。

「……32%。内臓脂肪の危険水準突破ですわ!」

群衆「ぎゃはは! 筋肉じゃなく脂肪が増えてる!」


さらに野菜オンリー派。酸素濃度計を指に挟む。

「……SpO₂ 90%。貧血に近い値ですわ! 鉄分不足ですの!」

群衆「青白い! 青白すぎる!」


ステージは爆笑と悲鳴の渦に包まれる。

俺はタオルを翻し、宣言した。

「健康は一つの極端に偏って得られるものではありません! 炭水化物・脂質・タンパク質・ビタミン・ミネラル……その“調和”にこそ未来が宿りますのよ!」


群衆「うぉぉぉぉぉ!!!」

「バランス! バランス!」「おじさん令嬢ばんざいーー!!」


こうして“暴走健康派”は笑いと数値で撃沈し、王都は新たな段階の健康意識へ進んでいった。


ステージの熱気が最高潮に達したその時――。

王宮のバルコニーから国王と王妃が姿を現した。


国王は胸を張り、堂々と声を張り上げた。

「民よ! 砂糖に頼りすぎれば体を壊し、脂に溺れれば心臓を痛め、断食すぎれば倒れる!

だが……“バランス”を取れば、人は必ず強くなれるのだ!」


群衆「おぉぉぉぉぉぉ!!!」


王妃は静かに手を上げ、言葉を紡いだ。

「……王都はすでに健康を愛する国となりました。

しかし、その熱が極端に振れる時、病は逆に芽生えます。

今後は国を挙げて、すべての市民に“適度・調和・持続”を広めていきましょう」


観客の誰もがうなずき、互いに手を取り合う。

「断食一辺倒はやめだ!」

「肉だけは卒業だ!」

「野菜も食べる! 米も食べる! ……そして筋肉も!」

「スクワット!」「発酵!」「味噌汁!」


会場は笑いと歓声で爆発。


俺はタオルを肩にかけ直し、堂々と締めの言葉を放った。

「おーっほっほ! 健康とは“楽しむこと”と“守ること”の両輪。偏りは倒れる、バランスは立ち続ける!

これからも我が王国は、健康革命の模範であり続けますわ!」


ユリウス「筋肉もバランス!」

セレーネ「数値もバランス……」

群衆「おじさん令嬢ばんざーーい!!」


夜空に花火が打ち上がり、王都は“バランス宣言”の合唱で揺れた。

こうして、暴走しかけた健康ブームは笑いと共に修正され、王国は新たな安定期を迎えたのだった。

おーっほっほ! 本日の王都は健康ブームで大変な賑わいでしたけれど、見ました?

断食しすぎて倒れる者、筋トレで脚が動かなくなる者、炭水化物を悪魔扱いする者……まったく、極端はどれも滑稽ですわね!

ここでわたくし、健康令嬢おじさんが“科学的な真実”を皆さまにお伝えいたしますわ。



筋トレのやりすぎは逆効果


筋肉は1部位につき週10〜20セットがもっとも効率的ですの。

「100セットやれば2倍強くなる」なんて妄想は、ただの疲労地獄ですわ!


※注釈1:セットとは、同じ運動を一定回数まとめて行う単位(例:スクワット10回×1セット)。

※注釈2:オーバーリーチング=休養不足で一時的に疲労やパフォーマンス低下が出る状態。放置すれば「オーバートレーニング症候群」という深刻な不調に。



断食(IF:インターミッテント・ファスティング)の限界


「食べなければ無限に健康!」……これも幻想ですわ。

研究では16時間断食+8時間食事や週2日の断食でも効果は「普通の食事制限」とほぼ同じ。

しかも長すぎる断食は筋肉も削られ、ただのフラフラ令嬢になりますの。


※注釈3:**IF(Intermittent Fasting)**=間欠的断食。代表は「16:8(16時間断食/8時間摂食)」や「5:2(週2日は断食)」など。

※注釈4:**TRE(Time Restricted Eating)**=時間制限摂食。朝〜午後の早い時間に食べ終えると代謝改善が見られる研究あり。



糖質制限しすぎの罠


「糖質ゼロ生活で永遠に若々しく!」なんて宣伝に騙されてはいけませんわ。

炭水化物を極端に減らすと、**LDLコレステロール(悪玉)**が跳ね上がる人がいますの。

さらに食物繊維不足で腸内環境も荒れ放題……これでは本末転倒ですわね。


※注釈5:LDLコレステロール=動脈硬化のリスクを高める「悪玉コレステロール」。

※注釈6:食物繊維は腸内細菌の餌になり、血糖コントロールにも必須。炭水化物を減らすと不足しやすい。



結論


おーっほっほ! 健康は「たくさん」「ゼロ」「永遠」など極端な言葉には宿りませんの。

“ほどほど・バランス・持続”、これが筋肉にも内臓にも心にも一番効く魔法でございますわ!

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