転生悪役令嬢おじさん、砂漠で水分補給を説く件
果てしない砂丘を越え、蜃気楼に揺らめくオアシス都市が見えてきた。
太陽は頭上から容赦なく照りつけ、砂の上は裸足で立てぬほどの熱さだ。
俺――エレナ=フォン=クラウス(中身はおじさん)は、タオルで額を拭いながら声を上げた。
「……おーっほっほ! この暑さ、まさしく健康診断が必要な環境ですわ!」
ユリウスは汗を滝のように流しつつも、なおも胸筋をピクピク動かしていた。
「筋肉が……焼ける……だが俺は水を我慢してこそ真の鍛錬……!」
「あなたも現地文化に毒されてどうするんですの!?」俺は即ツッコミを入れる。
セレーネは冷徹な表情でオアシス都市の住民たちを見渡した。
「……異常ね。ほとんどが唇の乾燥、眼の充血、歩行時のふらつき。典型的な脱水症状」
実際、広場では老人が倒れ、子どもたちもぐったりと座り込んでいる。
しかし住民たちは慌てる様子もなく、むしろ誇らしげに口をそろえる。
「汗をかくのは不浄だ」
「水を飲まず、我慢してこそ美徳」
「喉の渇きに耐えることが、神への祈りだ」
俺は耳を疑った。
「おーっほっほ……!? それはもはや信仰ではなく、集団的な熱中症ですわ!」
ユリウスは真顔で頷く。
「確かに筋肉もカラカラだ……」
セレーネ「だから言ってるでしょう。あなたは馬鹿なのよ」
こうして俺たちは、 “水を飲むことを恥”とする奇妙な砂漠文化 と直面したのであった。
オアシス都市の市場は賑わってはいたが、並んでいるのは干し肉、香辛料、乾燥果実ばかり。
どこを見ても水売りの姿はない。
「……おーっほっほ。お茶屋はどこですの?」
尋ねる俺に、商人は首を振った。
「水を売る? そんな不浄な商売はできませんよ。水は神殿で祈りとともにわずかに配られるだけ。
市場で売るなど、恥さらしです」
俺はタオルを握りしめ、思わず額を押さえた。
「……なんという倒錯文化! 塩分も取らず、水も拒み、汗を敵視するとは……!」
ユリウスは干し肉を手に取り、無理やりかじった。
「むっ……塩気が強い! だが水で流し込めぬ……筋肉が……悲鳴を……!」
「だから食べる前に考えなさいと何度言えば!」
セレーネは冷徹に記録を取りながら告げる。
「……平均体温38度以上。心拍数は安静時でも110を超える。
この都市全体が、緩慢な熱中症状態にあると言える」
そのとき、広場で商人の一人がバタリと倒れた。
周囲の人々は眉ひとつ動かさず、むしろ敬虔な声を上げる。
「ほら見ろ、渇きに耐えて神の試練を受けている!」
「これは誇るべきことだ!」
俺はタオルをバッと翻し、血圧計を取り出した。
「いいえ! これはただの 病気 ですわ!!」
観衆「な、なんだあの道具は!?」
俺は倒れた商人の腕にカフを巻き付ける。
ピピッ。
「上:90、下:50。――低血圧性ショック寸前ですわ!」
広場にどよめきが走った。
「しょ、ショック!?」「神の試練じゃなかったのか!?」
俺は叫んだ。
「おーっほっほ! 我慢は美徳ではなく、臓器を壊す毒!
水を飲まねば、筋肉も脳も砂漠に干からびますわよ!!」
俺はドレスの袖から、次々と診断器具を取り出した。
血圧計、パルスオキシメーター、体温計、そして体重計。
広場に並べると、市民たちは「な、なんだあの銀色の道具は……!」とざわつく。
「おーっほっほ! これぞ健康の鏡! あなた方の“現実”を映し出す機械ですわ!」
次々と測定される市民たち。
「上:180、下:110――高血圧!」
「体重に対して水分率25%――脱水確定!」
「体温39度――熱中症の一歩手前ですわ!」
市民たちは青ざめ、ついには声を震わせ始めた。
「わ、我らの体は……もう限界だったのか……?」
「神の試練ではなく……病……?」
俺はすぐさまオアシスの水を桶に汲み、そこへ塩をひとつまみ。
さらに旅の果物を絞り入れ、即席の“健康水”を完成させた。
「名付けて――《オアシス・リカバリーウォーター》ですわ!」
ユリウスは拳を握りしめ、叫んだ。
「塩分と水分で、筋肉が再び潤うッ!」
セレーネは冷徹に補足した。
「……ナトリウムとカリウムの補給で、体液バランスが回復する。理にかなっているわ」
俺は桶を掲げ、市民たちに声をかけた。
「飲みなさい! 我慢は美徳ではなく臓器の破壊! 水分こそ命をつなぐ力ですわ!」
恐る恐る飲んだ子どもが、目を輝かせて叫んだ。
「……体が軽い! 頭がスッキリした!」
すると次々に人々が手を伸ばし、一口、また一口。
「暑さに耐えられる……!」「体が生き返った!」
広場は歓声に包まれた。
俺はタオルを翻し、高らかに宣言した。
「おーっほっほ! 砂漠を征するのは我慢ではなく、科学と健康知識ですわ!」
翌日。オアシス都市の広場には、大きな甕がずらりと並んでいた。
その中身は――かつて「不浄」とされたはずの水。
そこに塩と果物が加えられ、《オアシス・リカバリーウォーター》として市民に振る舞われていた。
「おぉ……これを飲むと、暑さに耐えられる!」
「頭痛が消えた!」
「昨日まで倒れていた老人まで立ち上がったぞ!」
広場は活気と笑いにあふれ、もはや“水を飲むのは恥”という価値観は跡形もなく崩れていた。
市民代表が頭を下げる。
「エレナ様、あなたは我らの命を救った……。これからは“渇きを我慢する”のではなく、“水を分かち合う”ことを信仰とします!」
俺はタオルで額を拭き、満足げに微笑んだ。
「おーっほっほ! それでこそですわ! 神は人を苦しめるためでなく、健やかに生かすためにあるのですわ!」
ユリウスは桶を片手で軽々と持ち上げ、ドヤ顔。
「筋肉も潤った! これで俺のスクワットも三倍にできる!」
「だから毎回筋肉に帰結するなと!」
セレーネは冷徹にメモを取り、淡々と告げる。
「……市民の平均体温、37.0度まで低下。心拍数も安定。改善率は80%以上。
あなた、たまにはまともな仕事をするのね」
「おーっほっほ! 毎回まともな仕事しかしていませんわ!」
市民たちの拍手喝采に送られ、俺たちは再び砂漠の街道を歩き出した。
「次はどんな健康革命を起こしますのか……!」
タオルを肩に掛け直し、俺は高らかに叫んだ。
「おーっほっほ! この旅路に、休息はありませんわ!」
背後で響く笑い声と歓声を背に、三人の影は灼熱の砂に長く伸びていった。
おーっほっほ! 本日は《砂漠で水を飲まない文化》に喝を入れてまいりましたが、これは現実でも命に関わる問題ですわ!
ここでは 熱中症と脱水のメカニズム を学術的かつ実用的にご紹介いたします!
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熱中症の仕組み
•人間は体温を一定に保つために汗をかきます。
•しかし大量の汗で 水分と電解質 が失われると、血液循環が悪化し、脳や筋肉に十分な酸素が届かなくなります。
•これが 熱中症(頭痛・めまい・吐き気・意識障害など) の正体ですわ!
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脱水症の危険
•水だけを補給すると血液中のナトリウムが薄まり、逆に体のバランスを崩すことがあります。
•特に夏場や運動時は、 水+塩分(0.1〜0.2%食塩水程度) の補給が理想的ですわ。
•果物や野菜を一緒に摂ると、カリウムやビタミンも補えて回復が早まります。
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実用的な予防法
1.こまめな水分補給:喉が渇く前に一口ずつ。
2.塩分+糖分のバランス:経口補水液やスポーツドリンクが便利。
3.服装と休憩:直射日光を避け、20〜30分ごとに休憩を。
4.睡眠と体調管理:寝不足や二日酔いは熱中症リスクを高めますわ。
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結論
おーっほっほ! 水を我慢するのは美徳ではなく、ただの命知らず。
「水+塩+休養」こそが砂漠も夏も乗り切る王道の処方箋ですわ!
皆さまもぜひ、日常生活や夏場の外出時にお役立てくださいませ!




