転生悪役令嬢おじさん、甘き影と三角関係を診断する件
断食都市の改革から数日。
広場には朝ごはんの香りがあふれ、子どもたちはパンを頬張りながら詩を朗読し、学者たちは巻物を片手にスープをすすっていた。
都市は活気を取り戻し、まるで長い夢から目覚めたようだった。
だが、俺――エレナ=フォン=クラウス(中身はおじさん)の胸には、一つの違和感が残っていた。
「おーっほっほ……改革は進んでおりますわ。しかし、あの“影”を見逃すわけにはまいりません」
王妃からの密使が、ひそやかに巻物を差し出した。
封蝋には――角砂糖を模した紋章。サクロ王国の神殿が使う印だ。
「……やはり、外から思想を流し込んでいたのですね」セレーネが目を細める。
彼女の琥珀の瞳が冷たく光った。
「断食の美徳など、元は学者の考えではない。外部の“糖の勢力”が流布させたに違いありませんわ」
ユリウスが拳を握る。
「ならば追うしかない! 筋肉は嘘をつかん。道は鍛えた足で切り開くのみ!」
「足で追跡は効率が悪いですわ」セレーネが冷徹に突っ込み、俺は思わず吹き出した。
「ふふ……ですが方角は確定しました。北方の交易路。そこからサクロ王国の工作員が出入りしている」
俺はタオルを翻し、堂々と告げた。
「おーっほっほ! 次なる診断の舞台は“砂糖信仰の残滓”ですわ! 三人で追跡に出発いたしましょう!」
⸻
出発の朝。
街の庶民が集まり、名残惜しげに声をかけてくる。
「エレナ様、また健康診断してくれよ!」
「朝ごはんを広めてくれてありがとう!」
「ユリウス様のスクワット教室、毎日続けます!」
「セレーネ様の数値ノート、役立ちすぎです!」
三人は荷馬車に荷を積みながら、顔を見合わせた。
ユリウスは大荷物をまとめて背負い、セレーネは几帳面に書類を整理、俺はタオルを肩に掛ける。
そして三人は、レオニアの門を越えて北方へと進み出した。
風は冷たく、空は澄み渡り、道の向こうには未知の都市。
その先で待つのは、サクロ王国の影か――それとも、もっと甘くて厄介な罠か。
街道を進む荷馬車は、石畳をコトコトと揺らしながら北へ。
道端には野花が咲き、鳥の声が響く――穏やかな旅路のはずだった。
「……ふんっ!」
ユリウスが突然、大荷物をひょいと肩に担ぎ上げた。
プロテイン袋から鉄鍋まで、すべてまとめてだ。
「姫、俺が全部持つ! お前は指一本動かすな!」
「おーっほっほ。あなたは荷馬車の馬ですの?」
俺は呆れ顔でタオルを振った。
「無駄な筋トレで関節を壊す前に、荷重を分散させなさい!」
セレーネがすかさず口を挟む。
「合理性ゼロ。馬力の浪費です。むしろ心拍数が不安定になっておりますわ」
彼女は歩きながら俺のタオルをすっと取り、丁寧に畳み直す。
「エレナ、汗を拭くのはいいですが、タオルを丸めたまま放置するのは不衛生です」
「ちょ、ちょっと! いきなり近すぎません!?」
俺が狼狽していると、ユリウスがむすっとした顔で割り込んだ。
「な、なぜセレーネがエレナの世話を……俺がやる!」
「あなたに任せれば、すべて筋肉論で解決されます」
「筋肉は万能だ!」
二人の間に火花が散り、俺は頭を抱えた。
「おーっほっほ……これでは旅どころか心拍数が乱れるばかりですわ……」
その時、荷馬車の脇を歩いていた庶民の子ども(途中まで見送りについてきていた)が、目を輝かせて叫んだ。
「三角関係だー! どっちが勝つんだー! ぎゃははは!」
「囃し立てるな!!」三人同時にツッコミ。
ユリウスは悔し紛れにスクワットを始め、セレーネは「非効率」と言いながらも俺の髪の乱れを直す。
俺はタオルで額を拭い、ため息を漏らした。
「……外交より疲れますわ、この三角関係」
だが――笑いと火花の裏で、街道の遠くに黒い影がちらりと揺れた。
砂糖壺の紋章を刻んだ隠密。その視線は、確かに俺たちを追っていた。
夜。
野営の焚き火がぱちぱちと音を立て、三人は小さな鍋を囲んでいた。
スープの香りが広がり、ユリウスは肉を突き刺し、セレーネは帳簿に記録をつけている。
俺はタオルを肩にかけ、満足げに息をついた。
「おーっほっほ。やはり食後のリラックスこそ至福ですわね」
その瞬間――。
闇の中から、白い煙がもくもくと立ち込めた。
「甘き影に酔いしれよ!」
現れたのは、砂糖壺の紋章を刻んだ黒衣の隠密たち。
手には飴玉のような球を握り、次々と投げつけてくる。
――パァン!
爆ぜた瞬間、粘っこいシロップが飛び散り、地面にへばりつく。
「うわっ、靴が……!?」
「ぬちゃ……ぬちゃ……」
庶民「ぎゃはは! 飴玉爆弾だ!」
ユリウスは腕を組み、筋肉を隆起させて吠えた。
「甘味兵器だろうが関係ない! 筋肉は裏切らん!」
彼は飴玉爆弾を片っ端から拳で叩き割り、シロップまみれになりながら前進する。
セレーネは冷徹に呪文を唱え、風を巻き起こして煙幕を吹き飛ばした。
「視界確保。……次は数値で弱点を突きましょう」
俺はタオルを翻し、ドレスの袖から血圧計を取り出す。
「おーっほっほ! 戦闘中であろうと健康診断は欠かせませんわ!」
「今するな!!」二人同時にツッコミ。
だが俺は意に介さず、飛びかかってきた隠密の腕にカフを巻いた。
ギュウゥゥ……ピピッ。
「上……220。下……145。――ステージ3高血圧ですわ!」
「ひぃぃぃ!!」
隠密は耳を塞いで後ずさり、そのままシロップに足を取られて転倒。
別の隠密にも測定針をチクリ。
「血糖値……310。――糖尿予備軍ですわ!」
「ぎゃああ! 甘味が裏切った!!」
庶民の子どもが叫ぶ。
「診断バトルだーー!! こっちの方が強ぇーー!!」
ユリウスは敵を肩で押し倒し、セレーネは風刃で飴玉を斬り裂く。
俺は次々に血圧計と測定器を叩きつけ、数値で隠密を追い詰めていく。
やがて、リーダー格の隠密が荒い息を吐きながら立ちすくんだ。
「ば、馬鹿な……甘味の影が……数値ごときに……!」
俺はタオルを翻し、勝ち誇った。
「おーっほっほ! 健康診断に勝てる敵など、この世に存在いたしませんわ!」
倒れ込んだ隠密のリーダーは、荒い息を吐きながら立ち上がった。
「……ふ、ふはは……だが無駄だ……甘味の影は……すでに次の都市に広がっている……」
その手には、砂糖壺の意匠を刻んだ羊皮紙。
「“酒と饗宴の都市”……そこに、甘味の加護を与えてやった……!」
最後に煙玉を叩きつけると、彼はシロップ臭を残して姿を消した。
「酒と饗宴……」セレーネが冷徹に呟く。
「……恐らく、過剰なアルコール文化が甘味と結びついている。放置すれば、肝臓も都市も崩壊しますわ」
ユリウスは拳を握りしめ、筋肉を誇示する。
「ならば突撃だ! 筋肉は肝臓も守る!」
「守れませんわ!」俺は即座にツッコミ。
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その夜、三人は焚き火を囲んでいた。
火の粉が舞い上がり、スープの香りが漂う。
ユリウスは真剣な眼差しで俺を見た。
「エレナ……お前を守りたい。次の都市でも、俺が必ず盾になる」
「直情的すぎですわ。あなたの筋肉は確かに頼りになりますが、戦略を無視して突っ込むのは非効率です」セレーネが冷徹に言い放つ。
そして、俺のタオルを取って優しく畳み直した。
「……あなたの存在は、数値的に不可欠。私が側にいるのが最適解です」
「ちょ、ちょっと!? 近い近い!!」
「俺だってエレナの側に!」
「私は理論的に!」
「筋肉的に!」
「近い近いって言ってますわぁぁぁ!!」
焚き火の周囲で、言葉の応酬とタオルの奪い合い。
俺は両腕を引っ張られ、心拍数が跳ね上がる。
「……外交より疲れるわこの三角関係!!」
庶民の子どもが横でポップコーンを頬張りながらニヤリ。
「やっぱり三角関係だー! どっちとくっつくんだー!」
「見物するなぁぁぁ!!!」三人同時にツッコミ。
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夜空には満天の星。
だが笑い声の裏には、不穏な影が忍び寄っていた。
――“酒と饗宴の都市”に潜む、次なる甘味の罠。
旅はまだ、健康と混乱と三角関係で続いていく。
おーっほっほ! 本日はサクロ王国の影を追う旅の最中に「酒と饗宴の都市」が姿を見せましたわ。
そこで一歩先んじて―― アルコールと健康 について、正しく診断して差し上げます!
• 学術的視点
•アルコール(エタノール)は中枢神経抑制薬。脳の働きを鈍らせ、判断力や反応速度を低下させます。
•適量なら「社会的潤滑油」として人間関係を和らげる一方、過剰は依存症・肝疾患・がんリスク上昇に直結します。
• 栄養学的視点
•アルコール自体は1g=7kcalと高カロリーですが、栄養素はほぼゼロ。いわば “空っぽのカロリー”。
•飲酒によりビタミンB群(特にB1)が消費され、不足すれば倦怠感や神経障害を招きます。
•つまみを選ぶなら、枝豆やチーズなど「たんぱく質+ミネラル補給」が理想ですわ。
• 生理学的視点
•肝臓でのアルコール代謝(ADH → ALDH経路)によりアセトアルデヒドが生成。これは頭痛・吐き気・顔の赤みの原因。
•分解能力には遺伝的差が大きく、日本人はALDH2の活性が弱い人が多いですわ。
•過剰飲酒は肝硬変・脂肪肝・膵炎の主要因。
• 筋肉的視点
•筋肉合成(MPS)はアルコールで抑制されます。
•トレーニング後の大量飲酒は「筋トレを無駄にする行為」。ユリウス殿、よく聞きなさい!
•回復・合成のためのタンパク質と睡眠が、アルコールで大きく妨げられるのです。
• 睡眠学的視点
•アルコールは寝つきを一時的に良くしますが、REM睡眠を抑制し、夜間覚醒を増加させます。
•結果的に「眠った気がしない」「翌日の集中力低下」に直結。
•睡眠の質を高めたいなら、アルコールではなくハーブティーや温かいミルクをどうぞ。
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• 結論
おーっほっほ! アルコールは嗜好品として少量なら楽しめますが、栄養的にも筋肉的にも睡眠的にもメリットは乏しく、リスクが勝りやすい飲み物ですわ。
「宴の潤滑油」か「健康の毒薬」か――それを決めるのは、量と場面。
そしてわたくしからの診断はただ一つ。
“適度な乾杯は薬、過剰な酔いは毒”。
皆さまもどうか、タオル片手に節度を持って乾杯なさってくださいませ!




