転生悪役令嬢おじさん、公国の食卓を改革する件
フィトリア公国の小さな村。
朝から台所には、これまでにない匂いが漂っていた。
「おい見ろよ、うちの鍋に肉が入ってる!」
「昨日まで薬草茶しか煮てなかったのに……なんか腹の虫が喜んでる!」
庶民の家々では、薬草だけの鍋から、肉と穀物と野菜を組み合わせた“調和膳”が生まれつつあった。
根菜の甘み、穀物の香ばしさ、薬草の爽やかさ――すべてがひとつの鍋で踊る。
子どもたちがパンをちぎり、スープに浸して食べる。
「うまっ! 苦いだけじゃない!」
「体に力が入るぞ!」
農夫は額の汗を拭いながら笑った。
「昨日より畑仕事が楽になった気がする。やっぱ飯は力だな!」
俺――エレナ=フォン=クラウスは市場を歩き、タオルを肩にかけて微笑んだ。
「おーっほっほ。見なさいな! 薬草“だけ”では死人が増えましたが、こうして肉や穀物と組み合わせれば、顔色まで違いますわ!」
セレーネは帳簿を片手に冷徹に頷いた。
「労働力の回復率、病人の減少率……どれも統計で改善しています。これが“数値に基づく改革”ですわね」
ユリウスは広場でスクワットを始め、子どもたちが真似して一斉に腰を落とす。
「筋肉も増える! 調和膳とスクワットで国は強くなる!」
王妃はパンをちぎりながら、静かに笑った。
「……食卓が賑わえば、人の心も変わりますわね。外交より難しい改革でしたのに」
庶民の暮らしに広がる変化――。
それはまさに、公国の未来を変える小さな革命だった。
広場の片隅。
庶民たちは調和膳を囲み、楽しげに笑い合っていた。
「こんなに腹が膨れるなんて何年ぶりだ!」
「薬草茶だけより、パンと肉があると子どもも笑うな」
「昨日まで青白かった顔が、今日は血色いいじゃないか!」
市井の空気は明るく、台所からは温かな匂いがあふれていた。
それはまるで、公国全体が“生き返った”ようにすら感じられるほど。
だがその影で――黒い法衣の集団が、路地裏に身を潜めていた。
「……愚か者どもめ。調和などという偽りに騙されおって」
「薬草を捨てた者は、神に背く異端。必ずや裁きを受けさせる……」
彼らの手には乾いた薬草の束。
だが先日の敗北で信者の数は減り、声も細い。
それでもその瞳には、狂信の炎が消えることなく燃えていた。
セレーネは市場を歩きながら、視線の端でその影をとらえた。
「……やはり、根は深いですわね。改革に必ず“反発”はつきもの」
ユリウスは胸を張り、スクワットしながら叫ぶ。
「反発だろうが筋肉でねじ伏せればいい!」
俺――エレナ=フォン=クラウスはタオルを翻し、冷静に答えた。
「おーっほっほ。改革は一日にしてならず。ですが――民が変わり始めた今、もう後戻りはありませんわ」
王妃はパンを口に運び、扇子を閉じながら冷ややかに笑った。
「……ならば次に来るのは、反動か、それとも暗躍か。どちらにせよ厄介ですわね」
⸻庶民の笑い声の裏で、確かに“次なる火種”が芽吹きつつあった。
夜明け前。
市場の入口に怪しい影が数人、袋を抱えて忍び寄った。
「見よ……“純粋なる薬草”だ。これを井戸に放り込み、街全体を再び薬草漬けに戻すのだ!」
袋の口から溢れたのは、大量の乾燥ハーブ。
彼らは誇らしげに笑いながら、井戸へと投げ込もうとする――が。
「おい、何やってんだ?」
通りがかった農夫が松明を掲げ、目を丸くした。
「……し、信仰のためだ! 薬草こそ神の恵み!」
「異端の調和膳など不要! これで街を浄化する!」
農夫は一瞬黙り込み、そして腹を抱えて笑い出した。
「はっはっは! 浄化どころか、ただの“薬草スープ”だろ!」
騒ぎを聞きつけ、子どもたちや近所の庶民も集まってくる。
「また薬草だけで生きろって? もうゴメンだ!」
「パンと肉のほうが旨いに決まってる!」
「昨日なんか、ばあちゃんが“力が湧いてきた”って笑ってたんだぞ!」
残党の顔が青ざめる。
「ば、馬鹿な……信仰心が……負けている……?」
セレーネは冷徹に歩み寄り、淡々と告げた。
「民の舌と身体は、もう真実を知った。薬草だけでは足りないことを」
ユリウスはスクワットを決め、力強く叫ぶ。
「筋肉は裏切らない! そして調和膳もな!」
俺――エレナ=フォン=クラウスはタオルを翻し、井戸を指さした。
「おーっほっほ! そんなことをすれば、水質検査で一発ですわ! 現代も異世界も、結局は“数値”でバレますのよ!」
庶民たちは大爆笑。
「数値でバレるー!」「異端派のテロ、未然に終了だ!」
こうして伝統派の小さな妨害は、庶民の笑いと“診断外交”であっけなく潰えたのだった。
翌朝の市場は、いつにも増して賑わっていた。
調和膳を真似た屋台が並び、薬草と肉を組み合わせた料理が人々の胃袋を満たしていく。
「ほら、見てみろ! 子どもが薬草入りシチューをおかわりしてるぞ!」
「昨日まで顔色悪かった親父も、今日は畑に出てる!」
「やっぱ食いもんだな、人生は!」
庶民の笑顔が広がり、改革は確実に根を下ろしていた。
俺――エレナ=フォン=クラウスはタオルを肩にかけ、感慨深げに微笑んだ。
「おーっほっほ。数値も顔色も、これ以上ない結果ですわ。外交でありながら、結局は“台所”こそ国の心臓部なのですわね」
セレーネは冷徹に頷いた。
「労働力、健康度、出生率……あらゆる数値が改善するでしょう。公国は確実に強くなる」
王妃は扇子を広げ、ふっと笑った。
「ええ、確かに。……ですがね、敵は国内の残党だけではありませんわよ」
その言葉に俺は眉をひそめた。
「ほう……?」
王妃は意味深に市場の外を見やり、小声で続けた。
「“薬草至上主義”を広めた背後には、国外から流れ込む思想と資金がある。……次に立ちふさがるのは、もっと大きな存在かもしれませんわ」
セレーネの瞳が鋭く光る。
「……なるほど。サクロ王国か、それともガルダ商会か」
ユリウスは拳を握り、スクワットで力強く地を踏んだ。
「ならば俺たちの筋肉と調和膳で、どんな敵も粉砕するだけだ!」
庶民の笑い声に包まれながらも、確かに新たな嵐の気配が漂っていた。
⸻改革は進んだ。しかし“食の戦争”は、まだ終わらない。
おーっほっほ! 本日は“公国の食卓改革”でしたが、台所の改革といえばまずは スープや汁物 でございますわ。
実はこれ、単なる一品に見えて 健康外交の切り札 とも言える存在。理由をいくつか挙げて差し上げましょう。
•消化吸収の促進
具材を煮込むことで柔らかくなり、消化に優しく、栄養の吸収率もアップいたします。
⮑ 例:根菜のスープは胃腸を温め、体力回復にうってつけですわ。
•栄養の溶け出し
野菜や肉のビタミン・ミネラルが煮汁に溶け込むため、汁ごと飲めば効率よく摂取できます。
⮑ 例:キャベツや人参を煮込んだポトフは、丸ごと栄養補給の宝庫ですわ。
•水分補給
特に労働や運動のあとには、塩分と水分を同時に補給できるので脱水予防に最適。
⮑ 例:味噌汁はナトリウムを補い、夏場の体調維持に大きな力を発揮しますのよ。
•心の安定
温かいスープには副交感神経を優位にする効果があり、リラックスと安眠を助けますわ。
⮑ 例:鶏肉と野菜のスープは身体を温め、心を落ち着ける“夜の外交官”ですの。
結論――スープや汁物はただの副役にあらず。
おーっほっほ! 栄養・水分・安心感の三拍子が揃った“健康の外交官”、それが汁物でございますわ!




